charm
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
暮れていく日に向かってズンズンと進んでいく彼の背中を追う。
勇気を出して一緒に帰ろうと誘ったら「は? 一緒に帰るも何もおんなじ方向だろうが」って、どっち付かずな答えが戻ってきた。
「爆豪くーん。随分、距離取るじゃん」
「当たりめェだわ」
一応、返事はしてくれるけれど、振り返りはしてくれないし、待ってもくれない。
私が小走りになると急に大股になるから、一向に距離が縮まらない。このままだと、寮に着いちゃう。
少しでも同じ空間に居たい。
で、考えに考え抜いた苦肉の策だったんだけどなあ。
これじゃあ、意味ない。
いや、なくもないか。
一応、一緒に帰ってはいるもの。
そんな私の気持ちなんて彼は知る由もないだろうし、今のところは報せるつもりもない。
そこまでは勇気が足りてない。
「爆豪くーん、早いー」
「うっせぇ」
取り付く島もない。
でも、それでも構わない。
会話ができるだけで自然と顔が綻んでしまう。気持ちが声に乗る。
「爆豪くーん、並んで歩きたいんですけどー」
「させるか、ボケ!」
「なんでー?」
「名前、てめェが息するように個性垂れ流すからに決まってんだろうが!」
私の個性は『魅了』だ。
条件が揃えば同性にも掛けられるけれど、断然、異性の方が掛けやすい。
形は少し違うけれども、ミッドナイト先生の個性と系統が似ている。
「だーかーらー! 使ってないってば!」
「ンな訳ねーだろ、クソビッ……」
今、絶対、『クソビッチ』って言おうとした!
かろうじて言い切ってないけど、絶対そうだ!
こんな個性だからさんざん言われ慣れてはいるけどさあ。
さすがに好きな人からの暴言となると、繊細でなくとも心に傷が付く。
私にとってはもはやアイデンティティの否定に近い。
誰も、好き好んでこんな個性で生まれてきた訳じゃないのに。
「聞こえなーい。なんて言ったのー?」
「なんでもねーわ!」
これでリフレインされたら涙目必至だったけれど、もしかしたら、飲み込んでくれたのかも。
そう考えると途端に心が弾むから、私と来たら相当に単純だ。
それにしても、彼はなんで私が彼に個性を使っていると思い込んでいるんだろう。不思議でならない。
これまでにも何回か訂正してきたけれど、その度に絶対にそうだと言い張る。埒が明かない。
そんなことは一度たりともないし、使ってしまおうと思ったことだって一度たりともない。これからもきっと、ない。
「……そうじゃねぇと、おかしいだろがッ」
何の前触れもなく、彼の足が止まる。
驚いて、私もその場に留まる。
「説明付かねぇんだよ……」
これまた唐突に振り返った彼の顔は燃え盛る夕日を受けて、本当に真っ赤に染まっていた。
追い付く絶好のチャンスなのに、勘違いしてしまいそうになるから一歩も動けない。
いつか、そんなに遠くないいつかに、気付いてくれればいいのに。
2022.08.08