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表がやけに騒がしいからそろそろかな、と思って恐る恐るドアから顔を出す。
「はなせや! 自分で歩くってンだろ!」
「もうちょっとだから! 暴れないでってば、かっちゃん!!」
「デクのくせに指図すんな!」
「わかった、わかったから! イテテ……」
案の定、出久くんの腕の中で大暴れなちびかっちゃん。
敵の個性にやられたって聞いた時は不測の自体過ぎて心臓が止まるんじゃないかと思ったけれど……わあ、すごい元気!
「出久くん、お疲れ様!」
「ああ、名前ちゃん。良かった……やっと、解放される……」
「ああ!?」
ちびかっちゃんにどやされる出久くんの図。
出久くんに悪いなあと思ってもくすっときてしまう。
このパワーバランスは何があっても変わらないらしい。
元気が有り余っているのは結構なんだけれど、あまりにもご近所迷惑だから早々に回収することにする。
「かっちゃん、おいで〜。早くおうちに入ろ〜」
呼び掛けるとキョトンとするかっちゃん。
その隙に方向転換して脱兎の如く離脱する出久くん。
「名前ちゃん、あとよろしくね! いいよね?」
「任せて! ありがとうー!」
取り残されたかっちゃんは首を傾げている。
出久くんのことはわかったみたいだけれど、わたしのことはわからないのかもしれない。
確か、記憶にも干渉する個性だって言ってた。
世の中にはいろんな個性があるもんだなあ。
「かっちゃん、わたしのことわかる?」
「名前」
良かった、憶えてる。
これならまだなんとかなりそう。
忘れられてなくてほっとしたのも束の間。
「おまえ、なんもかわってねーな」
「ん?」
わたしとしてはもっとこう、新鮮な反応を期待していたのに……いつもと寸分違わぬ物言いに違和感しかない。
ちびっ子のくせに、妙に落ち着き払ってるし。
「ちょびっと、せェのびただけじゃん。つまんね」
「何それー!!」
聞き捨てならない。
幼馴染みだからって言っていいことと悪いことがある。
絶対に、ぜーったいに!
断じてそんなことある訳ない!
「わたしは歴とした大人ですぅ! かっちゃんの、ちび!」
「ほらな。やっぱ、ガキのまんまじゃん」
小憎たらしい!
口数が多い分、余計に小賢しい!
子どもの頃のアレやソレの記憶が蘇る。
当時は同じ目線だったからそこまで気にならなかったけれど、そりゃあ光己ママに「うちの勝己にいじめられてない? 大丈夫?」って心配されるわ。
完全にいじめっ子だ!
「あんまり可愛くないこと言ってたらおうちに入れてあげないよ?」
「そーいうの、ぎゃくたいって言うんだぜ」
どっちが!
この小悪魔をなんとかして大人しくさせる方法はないだろうか。
わたしの焦燥をよそに、涼しい顔で部屋に上がり込むかっちゃん。肝の大きさは相変わらずだ。
「つーか、なに、名前。おまえ、男いんの?」
絶句。
玄関にあった靴を見てそう思ったの?
それ、キミが出しっぱなしにしてた靴だよ?
ここはわたしの家でもあるけれど、そもそもキミの家でもあるんだぞ。
でも、どうやって説明すればいいんだろう。
出久くんとわたしが大人だっていう認識はあるみたいだけれど、自分が子どもになっちゃってるっていう状況はわかってるのかな。
今の発言からするにきちんと理解できてる訳でもなさそう。
余計な誤解や混乱を招くことを避けるためにもはぐらかしといた方が吉。
「なんでひてーしねぇんだよ……」
「ううんと、なんて言うかね? ほら、ね?」
返答に窮して苦いスマイルを送ると、みるみるうちにかっちゃんの瞳に涙が溜まっていく。
嘘ぉ!?
「なんで、なんで? どしたの?」
「だって……おまえ、ウソつきじゃん……」
ぽろぽろ落ちる大粒の涙。
それを小さな手が乱暴にこする。
あああ、これまずい、本格的に泣き始めた。
「大人になったらケッコンするって、指きりしたじゃん……」
ううんんんん!!
嘘じゃないから、一緒に住んでるんだけどなあ!
このままだとちびかっちゃんに爆キュン殺されちゃう。超絶可愛い。小悪魔過ぎる。
「そうだね、約束したね。ちゃんと結婚するから、泣かないで」
「名前……じゃあ、男とわかれろ。今すぐに」
「今すぐはちょっと……」
「じゃあ、ハリ千本飲め」
「死んじゃうからそれもちょっと……」
「じゃあ、飲まなくていいからケッコンしろや!」
可愛いけど、すごい、しつこい。
幼い分、自分の意見をなんとしてでも押し通そうとしてくる。
うーん、子どもの頃のわたしってちょっと変わり者だったのかもしれないな。
周りの女の子たちに爆豪くん乱暴だから遊ばない方がいいよって言われたけど、なんでかその子たちと遊ぶよりかっちゃんと遊ぶ方が楽しかったんだよなあ。
「聞いてんのか、名前!!」
「うんうん、そうだね。聞いてるね」
「バカにすんな!」
わたしたち、ここまで色んなことがあったよね。
微笑ましくなってきて全肯定で頷いていると、ご機嫌斜めな小悪魔が急に飛び掛かってくる。
避けたら避けたで危ないし、完全に受け止めるにはわたしの体格では心許ない。
まさかとは思うけれど、子どもだから何をするかわからない危うさもある。
どう見ても4歳は過ぎてるように見えるから、力の加減なく個性を使われたらひとたまりもないし、正直やりかねない。
いつだって、かっちゃんはプルスウルトラだ。
私の想像の遥か上を超えてきた。
「あたたたた……」
繰り返される渾身の体当たり。
運動神経とか反射神経とかにはそこそこ自信があるから頭を打ったりはしなかったけれど、ついに思いっきり尻餅を付く。
「もう! かっちゃん、どうしたの?」
「きせーじじつ……」
「なんて?」
「きせーじじつ作りゃあ、こっちの勝ちよ!」
再び、絶句。
既に完膚なきまでの完全勝利を収めてるんだけどなあ。
あと、キミが戦おうとしてるのは大人になったキミなんだよなあ。
「すごいね、こんなちっちゃい頃から難しい言葉知ってるんだね。偉いね。賢いね」
そう言ってほっぺたにチューしてあげたら、ようやく大人しくなった。
「……なんで、ほっぺたなんだよ。バカ名前」
「まだ、早いから。続きは大人になったらね!」
2022.04.28