charm
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
うわあああんんん!
寮生活、つらいよおおぉぉぉ!
おうちに帰りたい……。
お母さんに前々から言われてた。
「早くボーイフレンド作りなさいね」って。
普通の学校だったらまだ作れたかもしれない。
でも、ここ、雄英だから……そんな風紀を乱すようなこと率先して私とやろうっていう男子生徒、居ないから! ただし、峰田くんは含めないものとする!
要はその、この場合の『ボーイフレンド』って言うのは性的な意味でのお友達……下品な言い方をするとヤリモク……。
やっぱり、私の個性じゃヒーローとか無理かもしれない。理想とのギャップに打ちのめされる。
みんなには『魅了』って説明してるけど、ほんとは私の個性、『魅了』じゃなくって……『淫魔』なの!
梅雨ちゃんがカエルっぽいことができるのと一緒で、あくまでも人間なんだけど、ことごとく淫魔と似たような特性を持ってる。正直、人間かどうか怪しいレベル。
チャームは個性の延長線上で使える力の一つであって、それだけに限定しない。その気になれば他人の夢に干渉したりだとか、何かと使いようがある。
ただ、とんでもない欠点が存在する。無視できない、デメリット。
死ぬ。
体液を摂取できないと、死に至る。
しかも、困ったことに私の場合は異性じゃないといけない。
小さい頃は必要とする量も少なかったから、まだ、良かった。成長するにつれて必要量もどんどん増えていってる。
お母さんから受け継いだ個性だから、そんなお母さんと結婚したお父さんももちろん理解があって何かと協力的。
そのお陰で、支障なく日常生活を送れてた。今までは。
寮生活が始まってからというもの、ずっと飢餓状態。補給のしようがなくて、枯れる一方。
個性を伸ばす訓練をしてるのと相俟って、もう、無理。ほんとに死んじゃう。
お父さんにもこれを機にひとり立ちしてほしいって見放されちゃった。そろそろ、お互いに年齢が年齢だしって。若くないからお母さんだけでも手に余るし、名前だって若いって言ってもそろそろそういうことができる年頃だしって。
娘に積極的に絶倫の『ボーイフレンド』作るようにすすめてくるお父さんなんて、よそじゃ滅多にお目にかかれないと思う。
……好きな男の子だったら、居るんだけど。
しかも、同じクラスで同じ寮で生活してる。毎日、顔を合わせてる。
でも、それとこれとじゃ、話が違う。
私、純粋な気持ちで恋してるの。欲情と恋情は別腹なの。
告白するとかそういう段階になくって、眺めてるだけで満足。言葉を交わした日には舞い上がっちゃって、一日ずっと幸せ気分。好きな人と同じ目標に向かってひた走る夢のような夢を追い掛ける毎日。
だったはずなのに、ここ数日はその元気すら湧いてこない。体調がすこぶる悪い。
好きな男の子の顔を見てもテンションが上がりきらないって乙女として致命的だと思う。自分の身体のことは自分が一番よくわかってる。黄色信号だったのが赤信号に変わりつつある。
「とりあえず、入れよ。人目に付くとまずいから」
「うん……ありがとう。心操くん」
大事な大事な話があって、どうしても二人っきりになりたくって、お願いだから部屋に入れてほしいの。もしくは、私の部屋まで来てほしいの。
ってメッセージで頼み込んだら、承諾してくれた。
面と向かって告げる勇気がなかったから、文面からわたしの必死さを感じ取ってもらえたようで助かった。
なんて、これからもっと勇気を振り絞って、絞って絞って絞り出さなくちゃいけない。さすがにディスプレイ越しに済ませられる内容なんかじゃない。
「……それで? 話っていうのは?」
「う、うん……えっと、ね……」
早々に本題を切り出してくる、心操くん。
そりゃあ、そうだよね。本来だったら、禁止されてるもの。時間も時間だ。さっさと追い出すに限る。
私もそんなに長くは留まって居られない。極度の緊張で吐いちゃいそう。
だってここ、憧れの心操くんのお部屋だよ……心操くんと二人っきりで、目の前にはもちろんプライベートな心操くんだよ……。
「心操くんって……私のこと、嫌い?」
「えっ……」
ついつい、逆説的。
体調が良くないとネガティブになりがち。
好き? って訊けたら、いいのに。そう訊けるほどの自信なんかどこにもない。
「嫌いでは、ないけど……」
思ったより、悪い反応じゃない。一縷の希望が見えてくる。
嫌いじゃないなら、好きじゃなくとも、もしかしたらーー
「じゃあ、じゃあ……!!」
感情がぶわっと込み上げて来て、それに伴って心臓の鼓動が早くなって、途端、全身に不快な汗が滲んで、熱が急激に押し寄せてきたと思ったら潮のようにサーッと引いていって、一気に手足が冷たくなってきて……気が遠くなる。目に映る景色が掠れてくる。頭が、ぐらんぐらんする……。
「お、おい! 大丈夫か、苗字?」
「だいじょうぶ……」
自分で身体を支えるのもつらくって、床にへたり込む。
心操くんが咄嗟に握ってくれた手の感覚以外、朧気。その温かさが、私に勇気を与えてくれる。
いくらヒーロー志望だからって、普通、嫌いなクラスメイトの手をこんなにも一生懸命に握ってくれたりしないと思うから。それに、私のこと嫌いじゃないって、心操くん、言ってくれた……。
「どっか悪いんじゃないのか? ここしばらく、変だったろ……なんか、お前」
「あ、あのね……心操くん……私のこと、嫌いじゃないんだったら……」
「いや、今、そういう話してる場合じゃないって」
「私と……セックス、できる?」
気遣わしげだった顔から表情が消えて、目がまんまるになってる。いつもクールな心操くんのこんな姿が拝めるなんて、最期にいいモノが見られたな。もう、心残りはーーって、痛い!
ものすごい力で握り潰されるんじゃないかってくらい手を強く握られて、かろうじて意識が繋ぎ止められてる。
「ふざけんな……そんなバカなこと言ってんなよ!」
心操くん、真面目だから……冗談言ってると思われちゃったかな。そんなタチの悪い冗談、言わないよ。最悪だよ。
荒唐無稽で無理もない話。でも、本当の話。
誤解されたままなのは悲しいっていうその一心で死力を尽くして経緯を説明する。喋るのですら、つらい。
「……参ったな。マジで言ってんの?」
「マジ……」
「価値観違うのかもだけどさ。もっと、自分のこと大事にしろよ。なんでわざわざ、俺なんか……」
価値観と言うか、貞操観念かな。きっと、そこまで違わない。だからこそ、困ってる。言わんとしてることはわかる。
誰でもいいんだったらとっくにそうしてるし、そもそも、こんなになるまで我慢してない。私は私の気持ちを大事にした結果、ここまで衰弱したんだ。どうしても、心操くんに嫌悪されたくなかった。軽蔑されたくなかった。ギリギリまで、黙ってた。
心操くん本人に相談するのだって、最終手段。これでダメならチャームに頼るしかない。
ただ、心操くんの個性も精神に作用するものだから、耐性があったりするかもしれない。元々、性的なことに興味津々ってタイプじゃないし、私の個性とは相性がいいとは思えない。
「私だって、こんなこと言いたくなかったよ……」
「ほら、見ろ。そうなんだろ? だったら、もっと他にいいヤツなんてごまんと居るんだし……」
さすがに傷付く。
心操くんは私が他の誰かとそういう行為に及んでも関係ないって言うんだ。
「違うの! 心操くんのこと……好きだからなの! 好きだから、言いたくなかった……そういう反応されると思ったら、怖くて言えなかった……でも、心操くん以外の人とだなんて……人と、なんて……」
大きな声、出したからかな。
力、使い果たしちゃったかも。
いよいよ、身体が動かなくなってくる。唇を動かすのも、厳しい。息をするのも、やっと。いっそ、瞼を閉じてしまいたい。
そうしたら、心操くんの顔を見なくて済む。なんて表現したらいいのかわからない複雑な表情が浮かんでる。なんでそんな顔してるの。大丈夫だよ、ここで死んじゃったりしないから。事故物件になんて、しないから。ただ、ちょっとおやすみするだけ……。
「おい、苗字! しっかりしろ、苗字!」
心操くんの声がだんだん遠くなっていく。
「クソッ!!」って心操くんにしては乱暴な言い方だなって揺蕩う意識で感じていたら、突如として唇に衝撃。
瞬間、心操くんに握られている手や触れられている唇の感覚が戻ってきて、目の前の映像が鮮明になってくる。
だらしなく開きっぱなしになっていた唇の合間から、ぎこちなく舌が入り込んでくる。
心操くんの名前を呼ぼうにも、あちこち這いずる舌で、声が出せない。
あっ……これ……私、心操くんと、キス……しちゃってる……しかも、深いの……。
「んっ……んんっ……」
息苦しさとそれを凌駕する快感で鼻を鳴らす。眠ってたら勿体ない。
目をしっかりと開いたら、間近に心操くん。
心操くんの目が見開かれた後、舌が離れて唇も離れて、顔も離れてく。
唾液の糸がぷっつりと切れるのと同時に名残り惜しい気持ちでいっぱいになる。
キスって、こんなにも素敵な感触なんだ……。
胸の奥も、お腹の奥も、キュンとなってる。
「……良かった、苗字……あっ、いや、ごめん……」
「ううん……ありがとう、心操くん。今、私、ちょっと危なかったから……助かったよ」
「いいよ、礼なんて。お前の話が本当なら……疑ってるとかじゃなくて、あまりに突飛だったから理解すんのに時間掛かったって言うか……だったら、最後までしなくとも、こういうのでも効果あるんじゃないかと思ったんだ」
倦怠感に抗えなくてついつい即効性を求めてセックスだなんて過激なこと口走っちゃったけど、キスでもそれなりに満たされる。キスって言うか、唾液……。
ただ、その分、栄養価って表現が正しいのかは別として……精液よりも優先度が低い。
搾精こそがサキュバスの本懐。
なんだって。お母さんの教え。つくづく、因果な個性。
「信じてくれる? 私の個性の話……」
「うん。目の当たりにしちまったしな……」
「じゃあ、さっきの……私が心操くんのこと好きっていうのも……信じてくれる?」
「……うん。まあ、そうだな……」
髪を指で掴んでガシガシいわせながら、視線を逸らす心操くん。歯切れが悪い。
この気持ちをちゃんと伝えたい。もっと、わかってほしい。
でも、私の身長じゃ、背伸びしたって届かないから……。
「心操くん、心操くん。屈んでもらえる?」
服の裾を引いて、お願いしてみる。
もう、この際だから、当たって砕ける。少し元気になったのもあって、今なら少しだけ大胆になれる気がする。
「えっと……こう、でいいか?」
私の目線に合わせて膝を曲げてくれる心操くんに顔を近付けて、両頬に手を添える。
見詰め合って数秒。拒否されないといいなって思いながら、覚悟を決めてそっと唇を重ねる。二回目のキス。今度は私から。
「……さっきは状況が状況だったから、確認できなかったけど……体液、必要なんだよな?」
「うん、いっぱい欲しいの……心操くん……」
拒否されるどころか、抱き寄せられる。抱き寄せられて、今度は心操くんから。
舌で促されて開いた唇にあったかいのが注ぎ込まれる。とろとろで美味しい。幸せな気持ちになってくる。
上手になんてできないから息継ぎのタイミングなんかも滅茶苦茶で、とにかく無我夢中にキスをする。一心に、心操くんから唾液を譲り受ける。
「心操くん……私のこと、嫌い……?」
「嫌いだったら、こんなことする訳ないだろ……好きだから、してるに決まってんだろ……」
息も絶え絶えの私たち。
あんなに苦しかったのが嘘みたい。息苦しいのが、心地いい。
「けど……苗字のこと、結構、真剣に好きだから。こっから先は今はまだできない……それでも、俺でいいのか?」
「いいよ、心操くんがいいの。大好き、心操くん……」
毎日キスしてねってダメ元で言ってみたら、わかったって神妙に頷く心操くん。
生きるか、死ぬか……私の命運、君に託しちゃう!
2022.12.27