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「心操くん、ミイラ男だね」
「はっ……?」
「今日はなんの日でしょう!」
「ああ、そういうこと」
今日はハロウィン。だからって、特に何をする訳でもない。
二人で一緒に居るだけ。
だけって言うのもちょっと違うか。だけじゃないんだけど、ほら、だけって言ったらなんともない感じするじゃない。ただ、まだそこまでの仲でもないって言うか……ようやっとそう呼べる関係になったのはつい最近だから、まだまだこれから。
「……俺じゃなくてさ。相澤先生にも言えるよな、その台詞」
心操くんには一言も漏らしてないはずなんだけどなあ。バレちゃってるのかなあ。
私が、相澤先生のこと好きだったっていうの。
でも、もう、遠い昔の話。
卒業する時にひとつ残らず雄英に置いてきた、恋心。
相澤先生に近付きたくて、先生が目を掛けてた心操くんに近付いた。入学して以来、先生のことばっかり目で追い掛けてたのに、気が付いたら心操くんの方に目ばかりか心ごと向いてた。
心操くんと関わるために相澤先生のところに足を運ぶようになって、当然、そこにはお目当ての心操くんが居る訳で……逆しま。あべこべ。
自分でもなんでか、わからない。
同年代の男の子なんてみんな子どもっぽくて、付き合うなら絶対に歳上の男性! 大人の男の人がいい! って思ってたはずなのに。
心操くんだからかもしれない。彼は同い年にしては思慮深くて冷静沈着だし。……相澤先生に通ずるものが、あるし。おんなじ、ダウナー系。
だからって、及ばぬ鯉の滝登りで相澤先生の代わりに手頃なところで済まそうとかそういう卑しい邪心があった訳じゃない。仮にそうだったとしても、信じたくない。
今となっては、心操くんのこと、本気で好きだもの。告白だって、私からしたんだもの。
待ってたって、心操くんからっていうのはどう考えても望み薄だったから。
「いいぜ」ってなかなかにドライな反応だったけど、オーケー貰ったっていう事実だけで万々歳。
「相澤先生にミイラ男なんて言ったら後が怖いじゃん! その点、心操くんだったら安心だよね。怖くないもん」
「怖くねぇの? ふーん……」
「うん! だってーー」
心操くんは私に優しくしてくれる。
相澤先生は優しいけど……平等。私だけに、じゃない。クラスのみんなに、分け隔てなく接してくれてた。
それって、先生だからって大人だからって簡単にできることじゃない。相澤消太っていう一個人がヒーローとして人間として、尊敬に値する人物である。そういうことだ。
必ずしも、恋して愛する感情と尊んで敬う感情はイコールにはならないんだって、気が付いた。
「まっ、俺の個性の方がぽいよな。ハロウィンだってんなら」
「……あっ……ああ、うん……」
出なくなった声が再び出るようになった。
突然のことに、戸惑う。ほんのわずかな間ではあったものの、呼吸をする以外の自由が全く利かなかった。目の前が霞んで、意識に靄が立ち込めた。
「余裕かよ」
余裕ってなんだろう。私には縁のない単語。
心操くんのが、よっぽどだ。私なんかより、よっぽど。
「もっと反応しろよ。……個性、使ってでもって思うくらい、マジだってことなのに」
「そんな風に冗談言えるようになったんだ? 前に進んでる証拠だよね」
冗談にしては、タチが悪い方だとは思うけど。
シニカルなのは元からだし、ハロウィンだし?
実際に使ってみせるのも悪戯の延長線上だと思えば、可愛い。悪戯っ子の心操くんかあ。
トリック・オア・トリートってお決まりの呪文がなくとも、お菓子あげたくなっちゃう。
「心操くん、お菓子食べる?」
「なんだよ。それ。いいって、別に」
お茶請けにテーブルに上げておいた、ハロウィンとは関連性を見出す方が難しいおせんべいをおもむろに差し出す。私一人で囓ってるから、そろそろ申し訳なくなってきた。
部屋に入ってもらうのは今日が始めてではないけど、まだ、片手で事足りる回数。だってのに、我ながら色気ないなあ。
でも、楽なんだよね。自然体で付き合えるの。
むしろ、心操くんの方が私に気を遣って……ああ、そうだった。受け取ったお土産、冷蔵庫に突っ込んだままだった。
まだ中身すら確認してなかったけど、外箱の感じから察するに洋菓子と見た。思い出したら、急に気になってくる。
「おせんべい、あんまり好きじゃない? じゃあさ、心操くんが持って来てくれたのあるでしょ? アレをさ……」
取りに行こうとして座布団から立ち上がったら、手首を掴まれる。
「苗字」
「ん? 何?」
引っ張られて体勢を崩す。そのまま、心操くんに凭れ掛かるみたいになって、顔と顔が至近距離。
不思議がる間もなく、唇に柔らかい感触。
一瞬の出来事にただただ、瞬きを繰り返すしかない。
なんだったの、今の……。
「反応、うっす……」
「薄いんじゃなくって……結構、困ってる……」
ファースキスが甘酸っぱいなんて、誰が言い出したんだろう。全然じゃん。
私の、舌に余韻が残ってたせいで、おせんべい味だった。二重の意味で、しょっぱい。
……せめて、冷蔵庫の箱の中身に口を付けるまで、待ってほしかったなあ。
そうしたら、酸っぱくはないけど、もっとずっと甘かったのに。
すっとぼけてただけで、今日がハロウィンだったの思いっきり意識してたんじゃない、心操くん。
お土産、可愛らしい黒猫やおばけを模したケーキやプリンだった。どれもこれも美味しかった。
告白した時みたいに、私からもう一回いっとくべき?
2022.10.29