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焦凍くんが、お仕事から帰ってきた。
……すっごーく、小さくなって。
「緑谷くん、あの、ごめんね。焦凍くんが、迷惑かけて……」
「いや、全然だよ! 僕の方こそ、なんか、ごめんね。この後もちょっと立て込んでて…… 名前さん、彼のことお願いします」
お仕事中のトラブルで焦凍くんが小さくなってしまったと、緑谷くんから目を疑うようなメッセージが来たのは数十分前。
一体どういうことなんだろうかと身構えて待っていたけれど……こういうことか。
緑谷くんから細心の注意を払って焦凍くんを受け取る。
不安そうに私と彼の顔を見比べる焦凍くん。
後ろ髪を引かれているような困り顔で去って行く緑谷くん。
いくつくらいだろう? 4歳くらいかな? それとも、5歳?
まだ、小学校には上がってない年齢であることは確かだ。
「お帰りなさい、焦凍くん」
返事はない。
記憶が曖昧になっているっていうことだったから、私のことも憶えてないのかもしれない。
小さいとは言え、それなりに重みはあるからずっと抱っこしているのは厳しい。
ソファに座らせてひとまずは様子を見ることにする。
「疲れてない? 具合は大丈夫? 痛いところない?」
ちょこんと腰掛ける焦凍くん。
身動ぎしないでずっと床に目を落としている。
私、もしかして、人見知られてる?
「お腹空いてない? 喉渇いてない?」
諦めずに声を掛け続けるものの、やっぱり返事はない。
彼の幼少期については聞き及んでいるけれど、いざ目の前に突き付けられると話に聞いていた以上のものがある。
「……迷惑?」
ぽつり、と焦凍くんが呟く。
しまったと思っても、もう遅い。
あれは言葉の綾というか、妻としての社交辞令というか。
とにかく、緑谷くんを労う意図で発したものだ。
そうだとしても、言葉の選択を誤った。
「迷惑じゃないよ。大丈夫だよ」
隣に座って小さな肩を抱きながら頭を撫でてあげる。
こういう大人を見て、子どもはずるさを感じるのかもしれない。
「……はやく帰らなくっちゃ。お父さんにおこられちゃう」
「大丈夫だよ。今日はお休みなんだって」
「ほんと? 訓練しなくてもおこられない?」
「本当だよ。怒られたりしないから、大丈夫」
随分、緊張しているとは思ったけれど、そういうことか。
こんな場面、お義父さんが目撃した日にはきっと罪悪感で死んでしまう。
今日のことは絶対に口外しないようにしよう。
「そうだ。焦凍くん、おやつ食べよう。おやつ食べたら一緒に遊ぼう」
「えっ、あそんでいいの?」
「何して遊ぼうか?」
「えっと、ええっと……」
ようやく、焦凍くんの表情が柔らかくなった。
子どもの頃、お義兄さんとお義姉さんと遊ばせてもらえなかったって言ってたから、もしかしたらと思ったんだけど。
秘蔵のアイスクリームをガラスの器に盛り付けてテーブルに並べる。
ホットケーキミックスもあるから焼いても良かったんだけれど、なんとなくこっちの方がいい気がした。
子どもにあんまり糖分の高い物を与えるのはどうかと思うものの、元が大人だから多分大丈夫。
顔綻ばせて食べてるし。
「美味しかった?」
「うん!」
ちょっと元気が出たみたいだ。
この分だと、元の身体に戻る頃には心を開いてくれそうな気がする。
「あのね、ヒーローごっこしたい……」
「いいね! 焦凍くん、オールマイトやる?」
「う、うん! やる!!」
途端、瞳に光が灯る焦凍くん。
そう来ると思ってた。
私たちの世代であれば誰もが経験しているであろう、みんな大好きオールマイトごっこ。
誰がオールマイトをやるかで喧嘩になるまでがお約束だ。
やっぱりどんなに幼くても、彼は彼だなあ。ヒーローなんだ。
「じゃあ、私、困ってる人の役ね。助けて、オールマイト!」
「わ、わたしが、きたー!」
「オールマイトは笑顔じゃなくちゃ! もっと笑って、焦凍くん」
「わたしがきたー!!」
そんなこんなで好評を博したヒーローごっこ、もといオールマイトごっこ。
全力でなりきった焦凍くんはソファでぐっすり。
風邪を引かないようにタオルケットを掛けてあげる。面白いくらい、すっぽりだ。
私たちにも子どもが出来たらこんな感じなのかも。
予期せず夫で予行練習をしてしまった。
まだ、そういう予定はないけれど、彼に似た優しい子に育ててあげたいなあ。
苗字が轟になった私のささやかな願いではあるけれど、我が家を幸せにしたい。幸せになってほしいし、幸せになりたい。
孫が出来れば間違いなくお義父さんもお義母さんも大事にしてくれるだろうし、今度は絶対に間違いなんて起こらないはず。
どんな個性を持って生まれてくるのか心配ではあるけれど、大丈夫だっていう強い気持ちさえあれば……なんて、気が早過ぎるよなあ。
2022.04.27