mha short
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わたしは今、究極の選択を迫られている。
命を取るか、愛を取るか。
「食わねぇのか? 要らないなら、別にいいけど」
目の前には愛する轟くんと、轟くんの食べ掛けの……お蕎麦。
「ええっと……」
何を隠そう、わたしは蕎麦アレルギーなのだ。
決して、お蕎麦が嫌いな訳じゃない。むしろ、発症するまでは結構好きだった。
暑い季節になってくると冷たい盛り蕎麦が恋しくなるくらいには、好きだった。温かいより冷たい派だった。
でも、今では食べると蕁麻疹が出たり、皮膚が赤くなったり、全身が痒くなったりする。
大袈裟に命って言ったけど、さすがにそこまで酷くはないものの、口にしたら最後、無事では済まない。
だけど、轟くんはお蕎麦が大好物なのだ。
言える訳がない。こんなにお蕎麦が好きな彼氏に蕎麦アレルギーですだなんて、絶対に言えない。わたし、こんなにお蕎麦を息をするかのように自然体で啜る人、他に知らない。
そんな轟くんが眩しくて、その食事風景を微笑ましく眺めていたら物欲しそうにしているように見えてしまったらしい。
「食うか?」
って、ザルごと差し出された。もちろん、箸と麺つゆも付いている。
これは間接キスってヤツでは……?
しかも、初めて彼氏ができたわたしにとってはファーストキス、ファースト間接キス……!!
轟くんが好き過ぎて「付き合って下さい」じゃなくて「恋人になって下さい」って告白したわたしだ。
「付き合って下さい」だと、彼の場合、「どこに?」って言いかねなかったからだ。
そんな計算高いわたしだけど、さすがに轟くんがここまでお蕎麦ラバーだったのは計算外。
まあ、正直、「いいぞ」って二つ返事をもらったのも誤算だったけど。
当たって砕けるところまで想定済みだったから。
毒を食らわば皿まで、蕎麦を食らわばザルまで。
これはわたしの轟くんに対する愛が試されているのだ、たとえ、この身がアレルギーに苛まれようと、わたしは……食べる!
「……頂きます!!」
轟くんが口を付けた箸で、器で、お蕎麦を啜る。
間違いない、今まで食べたお蕎麦の中で最も美味しい。
ランチラッシュのランチだからっていうのもあると思うし、すごく久し振りにお蕎麦を食べたからだっていうのもあると思う。
でも、それ以上に轟くん効果が絶大だ。
「美味ぇだろ?」
って、破顔されたら激しく頷くしかない。
お蕎麦、美味しい。ヤバい。わたしの体調、不味い。ヤバい。
「ちょっと、お手洗い行ってくるね……」
食事中にそれはマナー違反だし、嘘を吐くのは心苦しいけど、真実を語る訳にはいかない。
保健室まで脱兎の如く、駆ける。
念のため、食事の際にはアレルギー症状を抑える薬をなるべく携帯するようにはしている。
だけど、今日は量が量。間違えて口にしたとかそういうレベルじゃない。そう、レベチだ。
リカバリーガールにはこっぴどくお説教されるし、具合悪くて午後の授業をまるまる休む羽目になったし、最終的には轟くんにも全部バレるしで散々な目に遭った。欲望を優先した報いだ。
「わりぃ……知らなかったでは済まされないことしちまった」
「轟くんが悪いんじゃないよ」
「いや、俺が苗字についてもっと知ってりゃこんなことにはならなかった。お前の苦手な物とか好きな物とか、ちゃんと知りてぇ。教えてくれるか?」
「轟くん……」
いいところでリカバリーガールに「ここはそういう場所じゃないんだよ、元気になったんならよそでやんな!」って保健室から叩き出された。
わたしがそうであるように、轟くんもわたしのことを考えてくれたら嬉しいな。
ずっと、側にいたいって思ってもらえるようになっていけたらいいな……蕎麦だけに、なんて!
2022.05.11
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