mha short
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
中学の時につるんどったヤツらから同窓会の誘いがあった。即座に断った。
「えっ、かっちゃん行かないんだ?」
「行く訳ねーだろ。雄英のならともかく、なんでそんなしょうもない生産性皆無の集いに時間割かなきゃなんねンだよ」
「うわー、僕、てっきり行くもんだと思ってて、参加するって言っちゃったんだけど……行かない? ほんとに行かない?」
「ハァー?」
意外や意外。
まさか、出久が行くって言い出すとは爪の先ほども思わンかった。
どう考えたっていい思い出なんざねェだろ。いじめの主犯だった俺が言うのもなんだけど。
担任もクソだったし、クラスの連中、どいつもこいつも右へ倣えの長い物に巻かれとけ主義で漏れなくろくな大人になってる未来が見えてこねぇ。
誘ってきたヤツらなんか中坊の分際でタバコだのなんだのやってたし、今となっちゃあ、積極的に関わろうって気も起きねぇわ。
どうあっても、雄英の三年間と比べちまう。
そもそも、誰が煙たがられてた出久を誘おうなんて言い出したんだよ。いや、誘うか。
今や、顔も名前も広く知られてる著名なヒーローの一人だもんな。どいつもこいつも、さんざん、無個性なのバカにして見下してた癖に。
あー、でも、一人だけ居たっけか。毛色のちげぇの。
「一線を越えたいって言うか……」
「は? めぼしい女でも居たンか?」
「何言ってんの!? そうじゃなくって、これを機に一皮剥けたいって言うか……」
「はァ? だから、そういうヤツ居ンのかって訊いてンじゃねーか」
「ンンンッ!? 僕の言い方が悪かったね! でも、かっちゃんの受け止め方にも問題があると思うんだ!……その、不自由してるの?」
「溜まってンのかって? 不自由も何も自由にできる相手すら居ねンだよ、女日照りの俺に向かって下ネタばっか振ってくんのやめろや!」
「濁したろ! わざわざ、ストレートに言い直さなくたって……でも、そっか。それなら、尚のこと出逢いのチャンスじゃないかな。昔は気付けなかったクラスの子たちの魅力に気付けるかもしれないよ」
「漁りに行けってか? しゃーねェな、付き合ったるわ」
「引っ掛かる言い方だけど……ありがとう、かっちゃん! なんか、僕、一人で行くとなると緊張しちゃいそうだったから、かっちゃんが居てくれると心強いよ」
「お前のためなんかじゃねぇ。あくまでも、ヤリ目だわ」
「えええっ、まずは健全なお付き合いから始めよう!?」
「あー? 流儀なんぞ訊いとらンわ! お前はお前で勝手にヤっとけ!」
「何を!?」
出久との不毛な電話はそういうことで決着がついた。不毛が更なる不毛を生む羽目になった。
なーにが、心強いだよ。俺を引き立て役にするつもりか。もう、昔とは違うだろ。
……ちょっとは責任感じてっから、断れンかった。
渋々、参加したはいいものの……居心地クソわりぃ。
デクに対してゴマ擦る連中の、手のひら返しにも程がある態度に虫酸が走る。男も女もヘラヘラ笑いながら気安く声掛けてきやがって。
それを意に介さず、嬉々として反応する出久。抜かりねぇファンサご苦労なこった。
対して、俺には誰も声掛けてきやがらねぇ。一人くらい俺にも媚びへつらってこいや。
っつっても、初っ端、声掛けてきたケバい女らをデクに押し付けたのは俺。会話する気にもならんかったから相手任せたらなんか異様に盛り上がっとる。不可解。
「勝己、なんか昔より取っ付きにくい」だぁ? 知らんわ! 顔か? 顔のこと言っとンのか?
今日はたまたまなんだよ。テメェらの態度が不愉快極まりないせいだっつーの。
こんなん、自然とクソ虫を噛み潰すような表情にもなンだろ。乾杯を合図に、既に何匹殺ったかわかンねぇ。
よくこんなキッチンの三角コーナーみてぇな場所で爽やかに笑ってられるよなァ、出久は。俺は無理だわ。生ゴミ漁る趣味はねェ。
適当に飲み食いしたら早々に引き上げるに限る。どんなにクソだろうがゴミだろうが、金払ったからには元取らんと。
こんなんだったら、不健全な合コンに面白半分で顔出す方がまだマシだわ。自覚がないクズは始末に終えねぇ。自覚があるからいいってモンでもねぇが。
「すごいね! 緑谷くん、人気だね? ねっ?」
「は?」
顔もそうなら人間性もたいしたレベルじゃなさそうな女共。そいつらに囲まれて鼻の下伸ばしてる出久。
忌々しく観察しながらアルコール喉に流し込んでたら、横から見覚えさっぱりのまあまあな見た目の女。居たっけか、こんな女子。居たンなら、この俺が忘れるはずねェ。割とタイプ。
「誰だよ? お前」
「あっ、そっか。わからないよね。そうだよね。苗字です。……って言っても、覚えてないか」
「苗字?」
苗字って……さっき、誰かが名前口にしてたけど、パッと見た感じそれらしいのが見当たらんかったからてっきり不参加かと思ってた。居たんだったら、多少は退屈しのぎになるかと思ったのに。メガネ目印に探したのが悪かった。
苗字と言やあ、唯一、クラスの女子で記憶らしい中身のある記憶があるヤツ。あとは微妙。記憶の糸を辿りに辿ってやっと出て来るか来ないかっつー感じ。ただ、一様に化けてっから誰が誰だかほとんどわからん。化粧での変わりようが半端ねぇ。
別にいいわ、どうでもいい。もう、こいつだけでいい。
「ええっと、私、昔はメガネ掛けてて……いつも、爆豪くんに……」
「メガネなのは知っとるわ。あのクソメガネ、どこやった」
唯一、クラスで出久を対等のものとして扱ってたヤツ。
出久とそこまで親しくしてた訳じゃねぇが、決して冷たい態度なんかは取らンくて、たまに二人してヒーロー談義で密かに盛り上がってンのがうざったくて……クソメガネ呼ばわりしてた。気紛れにブスって難癖も付けたりしてた。中学時代における、クソメガネ。初代クソメガネ。
「メガネ? 一応、バッグに入ってるけど……」
呑気に洒落たメガネケースから、これまた洒落たメガネを取り出す自称・苗字。
掛ける振りをして見せてくる。たおやかな所作。
けど、メガネがあったところで俺の記憶の中のそいつとは似ても似つかねぇ。もっと芋だった。こんな垢抜けてなかった。
なんだよ……見りゃあ見るほど、いい感じじゃねーか。美人過ぎねぇのがまたいい。丁度いい。化粧も上手いこと薄付きだし、格好も楚々としてて大人しめ。全然ブスなんかじゃねぇ。
「違うメガネじゃねーか」
「ああ、うん。度が合わなくなっちゃったから、買い替えたんだ。今は専ら、コンタクト」
「あのメガネ、クソダサでちっとも似合っとらんかったわ」
「だよね。ちゃんと自分でもわかってたよ。ブスなの」
嫌味が全くないのが、逆に嫌味。刺さる。
しっかり覚えてんじゃねぇかよ。まあ、そうだわな。思春期のそういうのって、忘れたくとも忘れらンねぇよな。
俺も、出久をいじめてたこと……大人になったってずっと覚えてる。今でも、後悔してる。
「ちげェよ。メガネの話だわ。前のメガネがクソでブスって話」
「それって……?」
「お前自身についてじゃねぇ。メガネが諸悪の根源」
って、適当にフォローしとく。
謝るには時間が足らない。再会したばっかで、そこまで腹割って話せねぇ。いきなり込み入った昔話なんかしたところで、気色悪がられるだけ。意図したモンにはなりえねぇ。
俺の懸念をよそに、「良かったぁ。あのメガネのせいだったんだ」って微笑みながら、メガネをしまう苗字。
なんだこいつ。普通、テメェなんぞに言われる筋合いねンだよってキレるのが道理だろ。
やっぱ、俺がこいつに嫌悪感抱いてたのはなんとなくじゃない。出久と似たような人種だからだ。おんなじ匂いを感じてたからだ。
そうか。合点がいった。
「苗字、お前だな? 出久のこと誘ったの」
「そうなの。みんな緑谷くんの連絡先知らないって困ってたから。じゃあ、私がって」
困ってたって、なんだよ。勝手なこと抜かしやがって。出久のが誘われて困ってたわ。
……まあ、見る限り、大丈夫そうだけどな。もう、あいつは大丈夫。俺が憤るのも、本来なら筋違いも筋違い。
しっかし、このお人好し。簡単に信じンなよ。性善説信者かよ。
こいつら調子合わせてるだけで、みんなほんとの意味で出久に申し訳ないなんて思っとらんわ。所詮、子どものすることだから……って、懐かしさすら覚えてるくらいにして、罪の意識なんかまるで感じてない。誰も彼も『思い出』として都合良く美化してる。
だいたいにして、知ってンだろ。
俺が出久に誰よりもキツく当たってたってこと。俺からクラス中に波及してたってことも。
なんで、昔話に花が咲くであろう出久じゃなく、わざわざ触らぬ神に祟りなし状態で敬遠されてる俺の方に話し掛けてくんだ。
訊いたところでどうせ、「暇してたから」とか気遣ってることを悟らせないように最大限気ィ遣って答えンだよな。こういう手合いは。暇しとったのはこっちなのに。
「それにしても、驚いたよ。爆豪くん、緑谷くんと一緒に来るんだもん。和解したんだ? 今は仲良しなの?」
「別に、元から仲が悪かった訳じゃねぇ。俺が一方的に毛嫌い……っつーか、苦手だっただけだわ。あいつ自身は昔っから何一つ変わっちゃいねぇ」
変わってないなんて言うとでっけえ語弊があるが、なんとなく意味は通じンだろ。出久は年食っても出久だっつーこと。
「爆豪くんは変わった感じするね。なんとなく取っ付きやすくなったっていうか、柔らかくなったっていうか」
「お前に言われたかねーわ。まるっきり別人じゃねぇか。変身どころかイメージ違い過ぎて変態だわ」
「そうかな? 大人になったってことかな」
芋虫がさなぎの時ぶっ飛ばしていきなり蝶になったみてぇな衝撃。
不覚にも、微笑み掛けられると来るモンがある。随分、綺麗に笑うじゃねぇか。
こりゃあ、早々に引き上げるっきゃねぇ。
「苗字。この後、なんか予定あんのか?」
「二次会行こうって誘われてるんだけど……爆豪くんも一緒に行く?」
「じゃあ、決まりな。そっち断って、こっち来い」
「こっち? って、どういうこと?」
「大人になったもんな? だったら、わかるよなァ?」
小首を傾げる苗字の耳元で囁く。耳打ちする要領でさも自然であるかのように接近する。
躱して距離を取らないところを見ると……こいつはイケる。真っ赤になって慌てて俯く苗字。こういうのに慣れてない感じしかしない。しめた。
出久と連絡先を交換しちゃいるものの、言葉の端々から察するに、幸い、そこまでこまめに遣り取りしてるって訳でもなさそうだ。
なら、いいだろ。念のために断りだけ入れとくか。揉めンのだけは勘弁。
『苗字、持って帰るわ』ってメッセージ送り付けたら即返信。
『いい子だから、大事にしてあげてね』……っつーことは、完全に脈なし。
もはや、男女入り乱れての争奪戦の優勝賞品みたいになってる出久の方を見たら、目がばっちり合って、にこやかに手ェ振られる。
これで下準備はオーケー。
決めあぐねている苗字にもう一押し。焦らされると燃える。
「飲もうっつってるだけだろ」
「そ、そうだよね……飲むだけ、だもんね?」
「飲むだけだわ。二人っきりで、な」
嘘は嫌いだから、嘘なんかにはしねェ。
何も、今夜じゃなくたっていい。次でもいいし、その次でもいい。多少、時間が掛かったって構いやしねぇ。
ワンナイトなんかで終わらすには、勿体なさ過ぎる。たまには出久の流儀を尊重しとくか。健全なお付き合いとやら。
そうすりゃあ、そのうちいつか、謝る機会にも恵まれンだろ。
「じゃあ、ちょっとだけなら……」
そのちょっとを、ちょっとじゃなくすんのが腕の見せどころ。
甘い汁吸わせて、必ずモノにしたるわ。で、たっぷり可愛がってやる。
来て良かったってモンだ、クソ同窓会。思わぬ、拾いモン。
棚から苗字! 有り難く頂戴するとすっか!
2022.12.11
11/11ページ