長編 1ミリ上空の日々
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その翌日。
「おはよ、ひじき!って、うわ、その顔どうしたんだ?」
と、勘ちゃんが爽やかな笑顔で声をかけてくれた。
その言い草はないだろうと思ったけど、私の顔は酷い有様だった。
目の下には隈ができ、頬には湿布、そして風邪気味のため鼻を赤くしていた。
「本当だ。こりゃ酷い」
どこからか三郎も現れて、いつもの半目でにやにや笑ってくる。
「潮江先輩とお揃いだな」
にっこり笑う勘ちゃんに、しっしっと手を振る。
「近くで見ないで。ごほごほっ!うつすよ!」
こっちは寝不足で頭が朦朧としているのに喧しい限りだ。
そう思っていたら、雷蔵が微笑みながら三郎をどついてくれた。
「こら、三郎。ひじき、昨日はお疲れ様」
「ありがとう雷蔵!その労いで疲れも吹き飛んだ~!!」
けらけら笑いながら逃げる勘ちゃんと三郎を見送ると、次に兵助が「おはよう」と言ってじっと私の顔を見た。
どうせすごい顔ですよ、と開き直って「おはよ」と返事をする。
すると兵助は勘ちゃんと三郎を視線で示し「昨日の夜、ずっとそわそわしてたんだ」と言って、少し笑った。
ひょっこりと雷蔵が顔を出し「あ、それに八左エ門も柄にもなく、眠れないとか言ってたしね」と微笑む。
はっちゃんの姿が見えないと思ったら、まだ寝こけているせいか。
それを聞いていて心が痒いような、嬉しい気持ちになった。
本当に、帰って来られて良かった。
昨夜の逃走を思い出し、また緊張のため肩に力が入る。
それを察したのか雷蔵が「何か怖いことあった?」と心配してくれる。
私は自分に言い聞かせる。
―――大丈夫、もう逃げ切ったのだから。
それから笑って「ううん。まだ寝足りないみたい」と言った。
*
穏やかな午後のこと。
忍術学園の正門の前に、一人の老人がいた。
小松田が戸を開けると、老人は微笑んで挨拶した。
「御免ください」
「こんにちは!どちら様でしょうか?」
小松田は人柄の良さそうな老人の笑みに、つい油断してしまう。
「わたくしは霧雨城の者です。殿から学園長先生へお伝えしたいことがございまして、馳せ参じたしだいでございます」
丁寧に老人が述べると、小松田は「では入門票にサインをお願いします!」と上司の吉野に確認することもせず老人を通した。
普段から吉野からは「知らない人が来たら、必ず私を呼ぶんですよ?」と言いつけられていたのに………。
*
いつもより眠たい授業を乗り切り、ユキちゃんたちと食堂へ向かう。
「ああ、もうお腹減った……。今日はご飯大盛りにしてもらおうかしら」
「ええ!ユキちゃん先週ダイエット始めるって言ったばかりだよ?」
私が指摘すると、彼女はあははと苦笑いした。
「じゃ、じゃあ明日からにする」
「もうダメねえ」
トモミちゃんもくすくす笑いながら叱る。
「でもそんなことする必要ないでしゅよ」
おシゲちゃんはにこにこしながらユキちゃんをフォローしてあげる。
四人でわいわい雑談しながら歩いて行くと、向こうから六年生が歩いてきた。
「「「「こんにちは」」」」
私たちは揃って挨拶する。
すると伊作先輩が私に気がついて「昨日は助かったよ」とすまなそうな顔をした。
「いいえ。風邪、大丈夫ですか?」
「おかげですっかり良いよ」
顔色の良い先輩の笑顔を見て、私も笑い返した。
眠かったし寒かったけど、包帯の片付けを引き受けて良かった。
「なんだ、顔にかっこいいものつけてるな!」
七松先輩が身を乗り出して豪快に笑った。
それを中在家先輩が「はいはい」と言うように引きずって行った。
それを見送っていたら、ユキちゃんのお腹が盛大になる。
「もう!頑張って鳴るの止めてたのに!!」
ユキちゃんが顔を赤くして噴き出す。
それを聞いた私たちもつられて笑い出した。
*
夕方、喜八郎を探して外をうろうろしていると、客人らしい人が正門を潜って帰って行った。
「ではお邪魔いたしました」
物腰の柔らかそうな笑みを浮かべる老人だ。
それを小松田さんがしっかり出門票を抱えて見送る。
学園長先生のお知り合いかな?
私は特に気にもせず、校庭の方へ足を向けた。
ざく、ざく、ざく――――――
夕暮れの校庭で喜八郎はせっせと穴を掘っていた。
全身泥まみれで、春先でまだ寒いはずなのに額には汗が浮いている。
私は声をかけるのを躊躇った。
穴を掘る喜八郎の横顔は真剣というか、喜びに満ちていて。
こんなに楽しそうなのだから、邪魔をしたら悪いなと思った。
ゆっくりと踵を返し、校舎へと戻る。
私も、あんなふうに何かに夢中になってみたい。
今の自分には、人より優れていると思えることなんて何一つない。
誰よりも好きだと、胸を張って言い切れることもない。
――――中途半端だ。
*
暗くなりゆく庵の中。
学園長は先ほどの客人が去ってから、身じろぎひとつせずに静かに座っている。
生徒たちの賑やかな声が学園のどこかからか、小さく届いていた。
学園長の目の前には、一枚の書状が置かれている。
霧雨城の家臣が置いていったものだ。
その内容を暗唱できるほど読み返した。
一字一句違わず書きうつすこともできるだろう。
皺の多くなった手で書状を掴み、しばらく眺める。
そして、両手でその紙を握りつぶした。
「おはよ、ひじき!って、うわ、その顔どうしたんだ?」
と、勘ちゃんが爽やかな笑顔で声をかけてくれた。
その言い草はないだろうと思ったけど、私の顔は酷い有様だった。
目の下には隈ができ、頬には湿布、そして風邪気味のため鼻を赤くしていた。
「本当だ。こりゃ酷い」
どこからか三郎も現れて、いつもの半目でにやにや笑ってくる。
「潮江先輩とお揃いだな」
にっこり笑う勘ちゃんに、しっしっと手を振る。
「近くで見ないで。ごほごほっ!うつすよ!」
こっちは寝不足で頭が朦朧としているのに喧しい限りだ。
そう思っていたら、雷蔵が微笑みながら三郎をどついてくれた。
「こら、三郎。ひじき、昨日はお疲れ様」
「ありがとう雷蔵!その労いで疲れも吹き飛んだ~!!」
けらけら笑いながら逃げる勘ちゃんと三郎を見送ると、次に兵助が「おはよう」と言ってじっと私の顔を見た。
どうせすごい顔ですよ、と開き直って「おはよ」と返事をする。
すると兵助は勘ちゃんと三郎を視線で示し「昨日の夜、ずっとそわそわしてたんだ」と言って、少し笑った。
ひょっこりと雷蔵が顔を出し「あ、それに八左エ門も柄にもなく、眠れないとか言ってたしね」と微笑む。
はっちゃんの姿が見えないと思ったら、まだ寝こけているせいか。
それを聞いていて心が痒いような、嬉しい気持ちになった。
本当に、帰って来られて良かった。
昨夜の逃走を思い出し、また緊張のため肩に力が入る。
それを察したのか雷蔵が「何か怖いことあった?」と心配してくれる。
私は自分に言い聞かせる。
―――大丈夫、もう逃げ切ったのだから。
それから笑って「ううん。まだ寝足りないみたい」と言った。
*
穏やかな午後のこと。
忍術学園の正門の前に、一人の老人がいた。
小松田が戸を開けると、老人は微笑んで挨拶した。
「御免ください」
「こんにちは!どちら様でしょうか?」
小松田は人柄の良さそうな老人の笑みに、つい油断してしまう。
「わたくしは霧雨城の者です。殿から学園長先生へお伝えしたいことがございまして、馳せ参じたしだいでございます」
丁寧に老人が述べると、小松田は「では入門票にサインをお願いします!」と上司の吉野に確認することもせず老人を通した。
普段から吉野からは「知らない人が来たら、必ず私を呼ぶんですよ?」と言いつけられていたのに………。
*
いつもより眠たい授業を乗り切り、ユキちゃんたちと食堂へ向かう。
「ああ、もうお腹減った……。今日はご飯大盛りにしてもらおうかしら」
「ええ!ユキちゃん先週ダイエット始めるって言ったばかりだよ?」
私が指摘すると、彼女はあははと苦笑いした。
「じゃ、じゃあ明日からにする」
「もうダメねえ」
トモミちゃんもくすくす笑いながら叱る。
「でもそんなことする必要ないでしゅよ」
おシゲちゃんはにこにこしながらユキちゃんをフォローしてあげる。
四人でわいわい雑談しながら歩いて行くと、向こうから六年生が歩いてきた。
「「「「こんにちは」」」」
私たちは揃って挨拶する。
すると伊作先輩が私に気がついて「昨日は助かったよ」とすまなそうな顔をした。
「いいえ。風邪、大丈夫ですか?」
「おかげですっかり良いよ」
顔色の良い先輩の笑顔を見て、私も笑い返した。
眠かったし寒かったけど、包帯の片付けを引き受けて良かった。
「なんだ、顔にかっこいいものつけてるな!」
七松先輩が身を乗り出して豪快に笑った。
それを中在家先輩が「はいはい」と言うように引きずって行った。
それを見送っていたら、ユキちゃんのお腹が盛大になる。
「もう!頑張って鳴るの止めてたのに!!」
ユキちゃんが顔を赤くして噴き出す。
それを聞いた私たちもつられて笑い出した。
*
夕方、喜八郎を探して外をうろうろしていると、客人らしい人が正門を潜って帰って行った。
「ではお邪魔いたしました」
物腰の柔らかそうな笑みを浮かべる老人だ。
それを小松田さんがしっかり出門票を抱えて見送る。
学園長先生のお知り合いかな?
私は特に気にもせず、校庭の方へ足を向けた。
ざく、ざく、ざく――――――
夕暮れの校庭で喜八郎はせっせと穴を掘っていた。
全身泥まみれで、春先でまだ寒いはずなのに額には汗が浮いている。
私は声をかけるのを躊躇った。
穴を掘る喜八郎の横顔は真剣というか、喜びに満ちていて。
こんなに楽しそうなのだから、邪魔をしたら悪いなと思った。
ゆっくりと踵を返し、校舎へと戻る。
私も、あんなふうに何かに夢中になってみたい。
今の自分には、人より優れていると思えることなんて何一つない。
誰よりも好きだと、胸を張って言い切れることもない。
――――中途半端だ。
*
暗くなりゆく庵の中。
学園長は先ほどの客人が去ってから、身じろぎひとつせずに静かに座っている。
生徒たちの賑やかな声が学園のどこかからか、小さく届いていた。
学園長の目の前には、一枚の書状が置かれている。
霧雨城の家臣が置いていったものだ。
その内容を暗唱できるほど読み返した。
一字一句違わず書きうつすこともできるだろう。
皺の多くなった手で書状を掴み、しばらく眺める。
そして、両手でその紙を握りつぶした。
