長編 1ミリ上空の日々
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山本シナは授業を終えて職員室へ戻る途中、ふと裏庭の見える廊下で立ち止まった。
季節は初冬。
庭に一本ある桜の木も、もちろん花などつけてはいない。
それでも、彼女にはその場に立ち止まるだけの理由があった。
「「「山本シナ先生!!」」」
よく耳にする声に振り向くと、くノ一の三人組が駆けよって来るところだった。
廊下を走るなら音をたてないように走りなさいと注意するべきだが、三人の表情を見てその言葉は引っ込んでしまった。
「どうしたの?あなたたち」
平静を装って口を開く。
すると、顔を見合わせた三人は口々に言った。
「ひじきちゃんのこと、教えて下さい!」
「預けた小刀をどこへ持って行ってしまったんですか?」
「隠さないでくだしゃい!!」
それを聞いて、山本シナはきれいな笑顔を浮かべた。
「ですから、ひじきさんは遠縁の親族のいる地へと越されたんです。預かった小刀もそっくりですが、彼女の物ではありませんでした。
それとも、他に証拠があるんですか?」
教師の一方的な物言いに、三人は口ごもる。
確かに、証拠は他に何もない。
シナ先生に預けた小刀さえ、今は手元に無いのだ。
口を閉ざした三人を残し、山本が立ち去ろうとした。
「お待ち下さい」
その時、凛とした声が廊下に響いた。
山本シナが振り返ると、そこには黒髪を冷たい風に靡かせながら立花仙蔵が立っていた。
後ろには綾部喜八郎も控えている。
「証拠ならあります」
「――――あら、どこに?」
すると、仙蔵がゆっくりと桜の木を指さした。
そのほっそりした白い指先は、真っすぐその根元に向けられる。
「あそこに、――――――ひじきがいるんですね」
くノ一の三人組は思わず口を手で覆う。
しかし、山本シナは口元に笑みを残して言った。
「そんなことあるわけがありません。
下級生たちを怖がらせるのはおやめなさい」
強引に話を切りあげようとする彼女に、仙蔵は畳みかける様に言った。
「ならば、桜の根元を掘り返しても問題は無いですね?」
その問いに、山本シナは眉を顰める。
「いけません。桜の根を傷めますから」
すると、喜八郎が担いでいた鋤を地面に捨てた。
「素手でならかまいませんね」
そう言ってすたすたと桜の木へ近寄っていった。
喜八郎を止めようと山本シナが口を開きかけたとき、また別の声が廊下に響く。
「待ちなさい、綾部喜八郎。
…………もう、そこを掘る必要はない」
「学園長先生」
山本シナは学園長を振り返った。
「山本シナ先生、もう良い」
その言葉に彼女は初めて表情を崩した。
「ですが」
しかし、学園長は小さく微笑みながら首を横に振ると言った。
「これ以上の隠しだては、あの子のためではない。みなに話そう」
*
講堂に集められた生徒たちは、みな一様に押し黙っている。
誰も言葉を交わす気にはなれない。
その生徒たちの一番後ろで、私はとても穏やかな気持ちだった。
私の死の真相が語られようとしている今、不思議なくらい心は落ち着いている。
学園長先生が壇上に上がった。
生徒の中の誰かが小さく咳をする。
そして、学園長先生が口を開いた。
「この小刀の持ち主のことを、上級生とくノ一教室の皆は良く知っているじゃろう」
学園長の懐から取り出された小刀の柄を一目見て、私は目の前が真っ白になった。
あれは――――-。
上も下もない空間に放り出される。
そして、小刀に彫刻する自分の姿が脳裏によみがえった。
ああ、あれは私。
馬と鹿の柄の入った小刀なんてなくて、自分で一生懸命彫ったんだ。
空っぽの器に水が溢れるように、生きていた頃の記憶が次々流れ込んでくる。
それは懐かしいと言えるほど昔の記憶ではない。
この学園に確かにいた、私の物語。
季節は初冬。
庭に一本ある桜の木も、もちろん花などつけてはいない。
それでも、彼女にはその場に立ち止まるだけの理由があった。
「「「山本シナ先生!!」」」
よく耳にする声に振り向くと、くノ一の三人組が駆けよって来るところだった。
廊下を走るなら音をたてないように走りなさいと注意するべきだが、三人の表情を見てその言葉は引っ込んでしまった。
「どうしたの?あなたたち」
平静を装って口を開く。
すると、顔を見合わせた三人は口々に言った。
「ひじきちゃんのこと、教えて下さい!」
「預けた小刀をどこへ持って行ってしまったんですか?」
「隠さないでくだしゃい!!」
それを聞いて、山本シナはきれいな笑顔を浮かべた。
「ですから、ひじきさんは遠縁の親族のいる地へと越されたんです。預かった小刀もそっくりですが、彼女の物ではありませんでした。
それとも、他に証拠があるんですか?」
教師の一方的な物言いに、三人は口ごもる。
確かに、証拠は他に何もない。
シナ先生に預けた小刀さえ、今は手元に無いのだ。
口を閉ざした三人を残し、山本が立ち去ろうとした。
「お待ち下さい」
その時、凛とした声が廊下に響いた。
山本シナが振り返ると、そこには黒髪を冷たい風に靡かせながら立花仙蔵が立っていた。
後ろには綾部喜八郎も控えている。
「証拠ならあります」
「――――あら、どこに?」
すると、仙蔵がゆっくりと桜の木を指さした。
そのほっそりした白い指先は、真っすぐその根元に向けられる。
「あそこに、――――――ひじきがいるんですね」
くノ一の三人組は思わず口を手で覆う。
しかし、山本シナは口元に笑みを残して言った。
「そんなことあるわけがありません。
下級生たちを怖がらせるのはおやめなさい」
強引に話を切りあげようとする彼女に、仙蔵は畳みかける様に言った。
「ならば、桜の根元を掘り返しても問題は無いですね?」
その問いに、山本シナは眉を顰める。
「いけません。桜の根を傷めますから」
すると、喜八郎が担いでいた鋤を地面に捨てた。
「素手でならかまいませんね」
そう言ってすたすたと桜の木へ近寄っていった。
喜八郎を止めようと山本シナが口を開きかけたとき、また別の声が廊下に響く。
「待ちなさい、綾部喜八郎。
…………もう、そこを掘る必要はない」
「学園長先生」
山本シナは学園長を振り返った。
「山本シナ先生、もう良い」
その言葉に彼女は初めて表情を崩した。
「ですが」
しかし、学園長は小さく微笑みながら首を横に振ると言った。
「これ以上の隠しだては、あの子のためではない。みなに話そう」
*
講堂に集められた生徒たちは、みな一様に押し黙っている。
誰も言葉を交わす気にはなれない。
その生徒たちの一番後ろで、私はとても穏やかな気持ちだった。
私の死の真相が語られようとしている今、不思議なくらい心は落ち着いている。
学園長先生が壇上に上がった。
生徒の中の誰かが小さく咳をする。
そして、学園長先生が口を開いた。
「この小刀の持ち主のことを、上級生とくノ一教室の皆は良く知っているじゃろう」
学園長の懐から取り出された小刀の柄を一目見て、私は目の前が真っ白になった。
あれは――――-。
上も下もない空間に放り出される。
そして、小刀に彫刻する自分の姿が脳裏によみがえった。
ああ、あれは私。
馬と鹿の柄の入った小刀なんてなくて、自分で一生懸命彫ったんだ。
空っぽの器に水が溢れるように、生きていた頃の記憶が次々流れ込んでくる。
それは懐かしいと言えるほど昔の記憶ではない。
この学園に確かにいた、私の物語。
