長編 1ミリ上空の日々
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左門の身体を借りて山道をひた走る。
こんなに持久力があったのかと、驚くほどには疲れ知らずだった。
やがて霧雨城の裏の山に入る。
深くなる山道の先、そこに誰かが立っているのが見えた。
私は薄暗い木々の間に目を凝らす。
忍装束を着ている……
背が高くがっしりとした身体つき、子どもではない。
――――城の警護?
嫌な予感がして背筋が寒くなる。
私は一度思案し、止まることなく人影に向かって駆けて行った。
どっちみち、この距離なら下手に隠れない方が安全だ。
忍ぶつもりのない私の足音に気付いて、その忍びがゆっくりと振り返る。
それからひらひらと手を振った。
見覚えのある包帯で覆われた顔に、私は思わず声を上げていた。
「―――く、曲者さん?」
まさかこんな所で会うとは思ってもいなくて、驚きつつも疑問で頭が一杯だった。
どうしてこの人がここにいるの?
ここは、霧雨城の領地なのに。
「―――君、なんだか面白いこと出来るようになったんだね」
曲者さんはそう言って左門に憑いている私を易々と見破った。
目を細めてじろりと私を見ると、喉の奥で可笑しそうに笑う。
でも、そんなことを話している場合ではない。
曲者さんならきっと何か知っているだろうと、四年生たちのことを訊いた。
すると、曲者さんは私の目の前から一歩横へずれる。
「ああ、この子たちのことでしょ」
さっきまで死角になっていた所。
そこに、四人が倒れていた。
「え?」
一瞬、全て止まったかのように動けなくなった。
まさか、嘘でしょ…………。
「この先へ進ませるわけにはいかなかったからね」
その言葉を聞くや否や、曲者さんに我武者羅に殴りかかった。
この時ばかりは、左門の身体を借りていることが頭から飛んでしまった。
彼が腕の良い一流の忍者だとか、素手での攻撃なんて高が知れているとか、そんなのはどうでも良かった。
持てる力全部で殴りかかった。
でも、曲者さんはその拳をあやすように受け止めて「気絶させただけだよ」と言った。
その言葉に私の手はぴたりと止まる。
「へ」
それから、すっとんで四人の所へ行き、どこも怪我をしていないかとうろうろした。
本当に四人は気を失っているだけのようだ。
私はへなへなとその場に座り込んだ。
「霧雨城に侵入しようとしてたから、大ごとになる前に止めたんだよ。まあ、きっかけを作ったのは私だけどね」
「どういうことですか……」
「君の小刀を、尊奈門に売りに出させたんだよ」
「小刀を?なぜ――――あなたが持っていたんですか?」
その問いかけに、曲者さんは別の答えを寄こした。
「タソガレドキ城は、君に借りがある」
「私に?借り?」
余計にわけがわからず質問を重ねる。
すると、曲者さんは目元だけで笑った。
「もうすぐ――――――わかるよ」
そして空を気にするように顔を上げると「おや、迎えが来たようだ」と言った。
そのまま去ろうとする曲者さんに、まだ訊きたいことは沢山ある。
ただ、何を訊いても答えてはもらえないような気がした。
けれど、答えはすぐそこまで迫っている。
そう感じた。
近くの木に飛び乗った曲者さんは、ぐるぐると頭を悩ませる私にこう言い残した。
「君がまだこの世にいるのは、心残りがあるからだよ」
*
タカ丸はぼんやりと目を開けた。
見なれた自室の木目の天井が目に入る。
部屋の中は薄暗く、小さな灯りが燈っている。
夜?
あれ?
いつ床についたっけ?
それより、さっきまで何をしていたっけ?
「………っ!!!!?」
タカ丸は霧雨城の森で意識を失ったことを思い出し、布団を跳ねのけて起き上がった。
俺の馬鹿!!!!
何寝ぼけたこと言ってるんだ!!!?
あの森で突然気絶して、それで?みんなは?
一人パニックに陥っていると、部屋の外から「タカ丸君、気が付きましたか?」という聞き覚えのある声が聞こえた。
「あっ、う、うん」
返事をすると、部屋の戸を通り抜けて少女が入って来た。
タカ丸は昨夜のこともあり、どう声を掛けたら良いのかわからなかった。
彼女の注意を振り切って霧雨城まで行き、その結果、四年のみんなまで危険に晒してしまった。
その上、城へ侵入する間もなく気絶して帰って来るなんて、なんて情けないことだ。
「みんな無事よ。上級生たちが迎えに来てくれたから」
ひじきの言葉にほっと息が漏れる。
けれど、タカ丸は彼女の顔を見られずにうつむいた。
すると、タカ丸の布団の隣に正座してから、ひじきが言った。
「ありがとう」
そのれは、これまで聞いた「ありがとう」のなかで、一番やさしかった。
*
一方、タカ丸よりも少し早く目を覚ました喜八郎は、仙蔵と向き合って座っていた。
先日の出来事を伝えるためだ。
あの穏やかな日、中庭で穴を掘ろうとしてシナ先生に注意を受けたときのこと。
掘り返されるはずのない桜の木の根元の土。
そこに一度だけ鋤を突き立てたとき、喜八郎は違和感を覚えた。
シナ先生の注意で手を止めたが、あそこの土は――――固くなかった。
土の下に、学園が隠しているものがある。
こんなに持久力があったのかと、驚くほどには疲れ知らずだった。
やがて霧雨城の裏の山に入る。
深くなる山道の先、そこに誰かが立っているのが見えた。
私は薄暗い木々の間に目を凝らす。
忍装束を着ている……
背が高くがっしりとした身体つき、子どもではない。
――――城の警護?
嫌な予感がして背筋が寒くなる。
私は一度思案し、止まることなく人影に向かって駆けて行った。
どっちみち、この距離なら下手に隠れない方が安全だ。
忍ぶつもりのない私の足音に気付いて、その忍びがゆっくりと振り返る。
それからひらひらと手を振った。
見覚えのある包帯で覆われた顔に、私は思わず声を上げていた。
「―――く、曲者さん?」
まさかこんな所で会うとは思ってもいなくて、驚きつつも疑問で頭が一杯だった。
どうしてこの人がここにいるの?
ここは、霧雨城の領地なのに。
「―――君、なんだか面白いこと出来るようになったんだね」
曲者さんはそう言って左門に憑いている私を易々と見破った。
目を細めてじろりと私を見ると、喉の奥で可笑しそうに笑う。
でも、そんなことを話している場合ではない。
曲者さんならきっと何か知っているだろうと、四年生たちのことを訊いた。
すると、曲者さんは私の目の前から一歩横へずれる。
「ああ、この子たちのことでしょ」
さっきまで死角になっていた所。
そこに、四人が倒れていた。
「え?」
一瞬、全て止まったかのように動けなくなった。
まさか、嘘でしょ…………。
「この先へ進ませるわけにはいかなかったからね」
その言葉を聞くや否や、曲者さんに我武者羅に殴りかかった。
この時ばかりは、左門の身体を借りていることが頭から飛んでしまった。
彼が腕の良い一流の忍者だとか、素手での攻撃なんて高が知れているとか、そんなのはどうでも良かった。
持てる力全部で殴りかかった。
でも、曲者さんはその拳をあやすように受け止めて「気絶させただけだよ」と言った。
その言葉に私の手はぴたりと止まる。
「へ」
それから、すっとんで四人の所へ行き、どこも怪我をしていないかとうろうろした。
本当に四人は気を失っているだけのようだ。
私はへなへなとその場に座り込んだ。
「霧雨城に侵入しようとしてたから、大ごとになる前に止めたんだよ。まあ、きっかけを作ったのは私だけどね」
「どういうことですか……」
「君の小刀を、尊奈門に売りに出させたんだよ」
「小刀を?なぜ――――あなたが持っていたんですか?」
その問いかけに、曲者さんは別の答えを寄こした。
「タソガレドキ城は、君に借りがある」
「私に?借り?」
余計にわけがわからず質問を重ねる。
すると、曲者さんは目元だけで笑った。
「もうすぐ――――――わかるよ」
そして空を気にするように顔を上げると「おや、迎えが来たようだ」と言った。
そのまま去ろうとする曲者さんに、まだ訊きたいことは沢山ある。
ただ、何を訊いても答えてはもらえないような気がした。
けれど、答えはすぐそこまで迫っている。
そう感じた。
近くの木に飛び乗った曲者さんは、ぐるぐると頭を悩ませる私にこう言い残した。
「君がまだこの世にいるのは、心残りがあるからだよ」
*
タカ丸はぼんやりと目を開けた。
見なれた自室の木目の天井が目に入る。
部屋の中は薄暗く、小さな灯りが燈っている。
夜?
あれ?
いつ床についたっけ?
それより、さっきまで何をしていたっけ?
「………っ!!!!?」
タカ丸は霧雨城の森で意識を失ったことを思い出し、布団を跳ねのけて起き上がった。
俺の馬鹿!!!!
何寝ぼけたこと言ってるんだ!!!?
あの森で突然気絶して、それで?みんなは?
一人パニックに陥っていると、部屋の外から「タカ丸君、気が付きましたか?」という聞き覚えのある声が聞こえた。
「あっ、う、うん」
返事をすると、部屋の戸を通り抜けて少女が入って来た。
タカ丸は昨夜のこともあり、どう声を掛けたら良いのかわからなかった。
彼女の注意を振り切って霧雨城まで行き、その結果、四年のみんなまで危険に晒してしまった。
その上、城へ侵入する間もなく気絶して帰って来るなんて、なんて情けないことだ。
「みんな無事よ。上級生たちが迎えに来てくれたから」
ひじきの言葉にほっと息が漏れる。
けれど、タカ丸は彼女の顔を見られずにうつむいた。
すると、タカ丸の布団の隣に正座してから、ひじきが言った。
「ありがとう」
そのれは、これまで聞いた「ありがとう」のなかで、一番やさしかった。
*
一方、タカ丸よりも少し早く目を覚ました喜八郎は、仙蔵と向き合って座っていた。
先日の出来事を伝えるためだ。
あの穏やかな日、中庭で穴を掘ろうとしてシナ先生に注意を受けたときのこと。
掘り返されるはずのない桜の木の根元の土。
そこに一度だけ鋤を突き立てたとき、喜八郎は違和感を覚えた。
シナ先生の注意で手を止めたが、あそこの土は――――固くなかった。
土の下に、学園が隠しているものがある。
