長編 1ミリ上空の日々
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タカ丸は人気の無い廊下をうつむき加減に歩いている。
お腹を片手で押さえ、ゆっくりと廊下を進む。
授業中に教室を抜け出すのには、“仮病”を使うしかなかった。
医務室に向かうと見せかけ、目的は別にある。
辿り着く前に誰かに姿を見られても言い訳ができるよう、こうして具合の悪いふりをしているのだ。
タカ丸は緊張のあまり、本当に具合が悪くなりそうだった。
汗も掻いてきたしお腹も痛いような………。
目的の場所に着くと、まずはその戸を軽くノックした。
「斉藤タカ丸です」
「―――――――」
返事は無い。
そのことに安堵し、タカ丸は戸をそっと開くと静かに身を滑り込ませた。
週に一度だけ、この時間だけが唯一の機会だった。
職員室に誰もいなくなる時。
タカ丸は早い鼓動を落ち着かせる余裕もなく部屋の中を歩きはじめた。
目指すは山本シナ先生の机だ。
一際きれいに整頓された机を見つけ、タカ丸は近づく。
きっとこの机のどこかに名簿があるはずだ。
“ぱきっ”
わひゃあ!!
その時、物音が聞こえ、タカ丸は肩を飛び上がらせた。
ばっと振り向いたが、誰もいない。
ただ家鳴りがしただけのようだ。
ほっと息をつき再び机に目を向けた。
慎重に最近の資料や本を退かし、少し古そうな名簿を見つけ出した。
日付を見ると、タカ丸が学園に入学する三か月前のものだ。
急いでページを捲り、上から順に目で辿って行く。
タカ丸は名簿を上から下まで見るだけでよかった。
その間に知らない名前があれば、それが“あの子”の名前。
忍たまよりも人数の少ないくノ一教室の生徒の名簿で、その名を見つけ出すのは容易かった。
「――――――海ひじき」
たった一人だけ、タカ丸の記憶にない名前があった。
…………この子。
そして、その名前の横には実習先である城の名前が記されている。
“霧雨城”
手掛かりになるかもしれない。
タカ丸はその名を頭に焼き付けると、資料などを元の場所に戻し始めた。
少しでも順番や向きが違えば、すぐにシナ先生は勘づくはずだ。
タカ丸は緊張と焦りで震えそうになる手を必死に押えて片付ける。
すると、廊下の方から数人の話し声が聞こえてきた。
「っ!!」
普段より少し早めに授業を終えた先生方が戻って来たのだろう。
タカ丸はすぐさま職員室を出なければと考えるが、もしその場を見られでもしたら一貫の終わりだ。
山田先生には前に不審に思われたこともあるから、今度は絶対に怪しまれるわけにはいかない。
どうしたら―――――。
ここにいても見つかる。
でも、今すぐ職員室を出るには時間が足りない。
どうしよう――――。
焦りで思考が停止してしまいそうになる。
その時、廊下で別の声が聞こえた。
「先生!」
「ん?どうしたんだ平?」
「それが、綾部喜八郎が硝煙蔵の前に蛸壺を掘り始めて―――」
「そりゃ危ない。先生方も止めるように言っていたと注意してきなさい」
「いいえ!今すぐ共に来て下さい!!誰かが火薬を抱えたまま穴に落ちたらどうするんです!!?忍術学園が吹き飛びますよ!!!??」
「そ、そうか、わかったわかった。行こう」
その会話の後、職員室に向かっていた足音は遠ざかって行った。
タカ丸はほっと息をついて、へなへなとその場に座り込んだ。
「タカ丸さん。何へばってるんですか。早く出ますよ」
背後から小声で叱咤され、タカ丸は悲鳴を上げそうになった。
驚いて振り向くと、唇に人差し指を当てた三木エ門が「しー」と言った。
「み、三木エ門くん、どうして?」
「話は後です。滝夜叉丸と喜八郎が先生を引きとめてるうちに出ましょう」
三木エ門は耳を澄まし、廊下やその周辺に誰もいないのを確認する。
そして、まずタカ丸を職員室から出すと、自分も何事もなかったように廊下へ出た。
*
三木エ門と共に校庭へ出ると、既に滝夜叉丸と喜八郎は到着していた。
「見られなかったか?」
滝夜叉丸が木陰に腰を下ろしながら言った。
喜八郎は鋤を隣に置いて地面に寝ころんでいる。
「ああ。職員室の辺りでは誰にも会わなかった」
三木エ門が答えながら、タカ丸をひっぱって座らせた。
「一体どういうことなの?三人ともどうして僕を助けてくれたの?」
タカ丸が困惑した表情で訊ねると、滝夜叉丸と三木エ門がちらりと視線を交わした。
喜八郎はその様子を黙って眺めている。
口を開いたのは三木エ門だった。
「―――タカ丸さん。私たちはタカ丸さんが幽霊と話をしているのを知っているんです」
「えっ」
タカ丸は目を大きくする。
「盗み見したりしてごめんなさい」
三木エ門が頭を下げると、滝夜叉丸もそれに倣った。
喜八郎ものそのそと起き上がってぺこりと頭を下げた。
その姿を見たタカ丸はぎゅっと唇を噛みしめ、それから嬉しそうに笑った。
「そっかあ。でも、僕もごめんね。―――隠しごと、したりして」
自分を心配してくれる優しい同級生を前に、タカ丸は自分が情けなくも思った。
三人は事情もよく知らないのに、それなのに自分を助けてくれる。
ほんとうに、良い子たちだ。
タカ丸は笑うと三人に向き直った。
「僕じゃわからないことがあるんだ。手伝ってもらっても良いかな?」
すると、三人は笑って肯いた。
「学園一優秀な私がいればどんな問題も解決できますとも!その上、見目も麗しく戦輪を使わせればぐだぐだぐだ―――――」
「滝夜叉丸うるさい」
「それで、何か情報は掴めましたか?」
賑やかになった三人を微笑ましく思いながら、タカ丸は先ほど見た名前を思い出す。
「――――海ひじきっていう名前の生徒を知ってるかな?」
すると騒がしい滝夜叉丸がぴたりと話をやめた。
三木エ門が少し青ざめながら言う。
「知ってます。5年生と同級になる方です。ひじき先輩は数か月前に退学されたんです」
「退学?」
「はい。御家族の方と遠方に引っ越しをなさるとかで………」
三木エ門の声が段々小さくなっていった。
喜八郎は眉間に皺を寄せて、何か深く考え事をしている。
滝夜叉丸が重々しく後を引き継いで言った。
「タカ丸さんは、ひじき先輩が幽霊だと考えているんですよね?」
「う、うん」
タカ丸はそう返事をして、はっとして口を押さえた。
自分は生前の彼女を知らないが、みんなは生きている彼女を知っている。
それを幽霊だなんて。
「ご、ごめんね。こんな言い方無神経だったよね」
謝るタカ丸に、喜八郎が首を横に振った。
「いいえ。先輩の可能性があるなら、知らぬままにはいきません。話を詳しく聞かせて下さい」
三人の真剣な眼差しを受け止めたタカ丸は、一度肯くと話を始めた。
お腹を片手で押さえ、ゆっくりと廊下を進む。
授業中に教室を抜け出すのには、“仮病”を使うしかなかった。
医務室に向かうと見せかけ、目的は別にある。
辿り着く前に誰かに姿を見られても言い訳ができるよう、こうして具合の悪いふりをしているのだ。
タカ丸は緊張のあまり、本当に具合が悪くなりそうだった。
汗も掻いてきたしお腹も痛いような………。
目的の場所に着くと、まずはその戸を軽くノックした。
「斉藤タカ丸です」
「―――――――」
返事は無い。
そのことに安堵し、タカ丸は戸をそっと開くと静かに身を滑り込ませた。
週に一度だけ、この時間だけが唯一の機会だった。
職員室に誰もいなくなる時。
タカ丸は早い鼓動を落ち着かせる余裕もなく部屋の中を歩きはじめた。
目指すは山本シナ先生の机だ。
一際きれいに整頓された机を見つけ、タカ丸は近づく。
きっとこの机のどこかに名簿があるはずだ。
“ぱきっ”
わひゃあ!!
その時、物音が聞こえ、タカ丸は肩を飛び上がらせた。
ばっと振り向いたが、誰もいない。
ただ家鳴りがしただけのようだ。
ほっと息をつき再び机に目を向けた。
慎重に最近の資料や本を退かし、少し古そうな名簿を見つけ出した。
日付を見ると、タカ丸が学園に入学する三か月前のものだ。
急いでページを捲り、上から順に目で辿って行く。
タカ丸は名簿を上から下まで見るだけでよかった。
その間に知らない名前があれば、それが“あの子”の名前。
忍たまよりも人数の少ないくノ一教室の生徒の名簿で、その名を見つけ出すのは容易かった。
「――――――海ひじき」
たった一人だけ、タカ丸の記憶にない名前があった。
…………この子。
そして、その名前の横には実習先である城の名前が記されている。
“霧雨城”
手掛かりになるかもしれない。
タカ丸はその名を頭に焼き付けると、資料などを元の場所に戻し始めた。
少しでも順番や向きが違えば、すぐにシナ先生は勘づくはずだ。
タカ丸は緊張と焦りで震えそうになる手を必死に押えて片付ける。
すると、廊下の方から数人の話し声が聞こえてきた。
「っ!!」
普段より少し早めに授業を終えた先生方が戻って来たのだろう。
タカ丸はすぐさま職員室を出なければと考えるが、もしその場を見られでもしたら一貫の終わりだ。
山田先生には前に不審に思われたこともあるから、今度は絶対に怪しまれるわけにはいかない。
どうしたら―――――。
ここにいても見つかる。
でも、今すぐ職員室を出るには時間が足りない。
どうしよう――――。
焦りで思考が停止してしまいそうになる。
その時、廊下で別の声が聞こえた。
「先生!」
「ん?どうしたんだ平?」
「それが、綾部喜八郎が硝煙蔵の前に蛸壺を掘り始めて―――」
「そりゃ危ない。先生方も止めるように言っていたと注意してきなさい」
「いいえ!今すぐ共に来て下さい!!誰かが火薬を抱えたまま穴に落ちたらどうするんです!!?忍術学園が吹き飛びますよ!!!??」
「そ、そうか、わかったわかった。行こう」
その会話の後、職員室に向かっていた足音は遠ざかって行った。
タカ丸はほっと息をついて、へなへなとその場に座り込んだ。
「タカ丸さん。何へばってるんですか。早く出ますよ」
背後から小声で叱咤され、タカ丸は悲鳴を上げそうになった。
驚いて振り向くと、唇に人差し指を当てた三木エ門が「しー」と言った。
「み、三木エ門くん、どうして?」
「話は後です。滝夜叉丸と喜八郎が先生を引きとめてるうちに出ましょう」
三木エ門は耳を澄まし、廊下やその周辺に誰もいないのを確認する。
そして、まずタカ丸を職員室から出すと、自分も何事もなかったように廊下へ出た。
*
三木エ門と共に校庭へ出ると、既に滝夜叉丸と喜八郎は到着していた。
「見られなかったか?」
滝夜叉丸が木陰に腰を下ろしながら言った。
喜八郎は鋤を隣に置いて地面に寝ころんでいる。
「ああ。職員室の辺りでは誰にも会わなかった」
三木エ門が答えながら、タカ丸をひっぱって座らせた。
「一体どういうことなの?三人ともどうして僕を助けてくれたの?」
タカ丸が困惑した表情で訊ねると、滝夜叉丸と三木エ門がちらりと視線を交わした。
喜八郎はその様子を黙って眺めている。
口を開いたのは三木エ門だった。
「―――タカ丸さん。私たちはタカ丸さんが幽霊と話をしているのを知っているんです」
「えっ」
タカ丸は目を大きくする。
「盗み見したりしてごめんなさい」
三木エ門が頭を下げると、滝夜叉丸もそれに倣った。
喜八郎ものそのそと起き上がってぺこりと頭を下げた。
その姿を見たタカ丸はぎゅっと唇を噛みしめ、それから嬉しそうに笑った。
「そっかあ。でも、僕もごめんね。―――隠しごと、したりして」
自分を心配してくれる優しい同級生を前に、タカ丸は自分が情けなくも思った。
三人は事情もよく知らないのに、それなのに自分を助けてくれる。
ほんとうに、良い子たちだ。
タカ丸は笑うと三人に向き直った。
「僕じゃわからないことがあるんだ。手伝ってもらっても良いかな?」
すると、三人は笑って肯いた。
「学園一優秀な私がいればどんな問題も解決できますとも!その上、見目も麗しく戦輪を使わせればぐだぐだぐだ―――――」
「滝夜叉丸うるさい」
「それで、何か情報は掴めましたか?」
賑やかになった三人を微笑ましく思いながら、タカ丸は先ほど見た名前を思い出す。
「――――海ひじきっていう名前の生徒を知ってるかな?」
すると騒がしい滝夜叉丸がぴたりと話をやめた。
三木エ門が少し青ざめながら言う。
「知ってます。5年生と同級になる方です。ひじき先輩は数か月前に退学されたんです」
「退学?」
「はい。御家族の方と遠方に引っ越しをなさるとかで………」
三木エ門の声が段々小さくなっていった。
喜八郎は眉間に皺を寄せて、何か深く考え事をしている。
滝夜叉丸が重々しく後を引き継いで言った。
「タカ丸さんは、ひじき先輩が幽霊だと考えているんですよね?」
「う、うん」
タカ丸はそう返事をして、はっとして口を押さえた。
自分は生前の彼女を知らないが、みんなは生きている彼女を知っている。
それを幽霊だなんて。
「ご、ごめんね。こんな言い方無神経だったよね」
謝るタカ丸に、喜八郎が首を横に振った。
「いいえ。先輩の可能性があるなら、知らぬままにはいきません。話を詳しく聞かせて下さい」
三人の真剣な眼差しを受け止めたタカ丸は、一度肯くと話を始めた。
