長編 1ミリ上空の日々
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ユキ、トモミ、おシゲの三人は街中をぶらぶらと歩いている途中、道端の中古屋で足を止めた。
こういう店はたまに掘り出し物があるので、三人はお小遣いの節約のためにしばしば覘くのだ。
「いらっしゃい。あぁ、お嬢さんたちか」
店のおじいさんが顔馴染みの三人を見て、しわしわと笑った。
「「「こんにちは!」」」
三人もにっこりと笑って挨拶をする。
「おやおや、今日は可愛らしい髪型じゃねえ」
おじいさんは三人の髪を珍しそうに眺めてから言った。
それを聞いたユキが大袈裟に腕を組んで「おじさんたら!可愛いのは髪型だけですか?」と、言って一同で笑い合った。
その後も世間話に花を咲かせていると、おシゲが商品の中の一つに目を止めた。
「あら?」
そっと手に取り、くるくると見回す。
するとユキとトモミが「どうしたの?」と言いながら、ひょっこりおシゲの手元を覗きこんだ。
それから、二人揃って「え?これって……」と顔を見合わせた。
それはどこにでもある小刀だ。
しかし、それに刻まれている柄は、どこにでもあるものではなかった。
おシゲはそれをおじいさんの所に持って行って訊ねた。
「この小刀、どんな人が売ったんでしゅか?」
するとおじいさんは目を細めて小刀を見ると、「ああ、それかい」と肯いた。
「それは若い男の人が売ったんだよ。確か………先週だったかのう」
「そ、それは本当でしゅか!?」
おじいさんの言葉におシゲが目を丸くした。
ユキとトモミも驚きと困惑の表情を浮かべている。
「若い男の人って、どんなだったか覚えていませんか?」
トモミが身を乗り出して問う。
しかしおじいさんは「さてのう……」と言ったきり、考え込んでしまった。
どうやら、どんな人物だったかは思い出せないようだ。
くノ一三人はその小刀を買い取ると、礼を言って店を後にした。
この後も店を見るつもりだったが、三人の足は帰路に向けられている。
嫌な予感が三人の口を閉ざさせた。
*
乱太郎は保健委員会の当番に向かう途中、くノ一三人組を見かけた。
驚いたことに三人とも真っ青な顔をしている。
「ユキちゃん、トモミちゃん、おシゲちゃん!どうしたの?」
普段なら三人を見かけると咄嗟に隠れるほどだが、今日は様子が気になって声を掛けた。
するとユキが「あぁ乱太郎……」と思い詰めた顔で振り返る。
その手には小刀が握られていて、乱太郎は思わずぎょっとした。
小刀の鞘にはちらりと馬の柄が見てとれる。
手に隠れて全体は見えないが、馬の向かい側には枝のようなものも彫り込まれている。
「一体、その小刀どうしたの?」
「これは………」
ユキが重い口を開こうとすると、トモミがそれを止めた。
「まだ言わない方がいいわ。……あたしたちの勘違いかもしれないし」
「――――そうね」
ゆっくりと肯いたユキは、乱太郎に「今はまだはっきりしたことは言えないから……じゃあね」と言い残し、足早に去って行ってしまった。
「え?ユキちゃん!………どうしたんだろう?」
残された乱太郎は追いかけることもできず、そのまま保健室に向かった。
*
保健室に乱太郎が入ると、すでに委員長の善方寺伊作が薬草の整理をしていた。
というより、整理しようとして誤って薬草棚をひっくり返していた。
「遅くなってすみません」
この棚が引っくり返るのはよくあることなので、乱太郎は大して動じないで挨拶した。
伊作は床に転がっている変な色の草をつまみ上げながら「あぁ、乱太郎。すまないが手伝ってくれないか?」と苦笑した。
「はい」と乱太郎が返事をして、どこから片付けようかと考えていると、伊作がじっとこちらを見ているのに気が付いた。
「へ?何でしょうか?」
乱太郎の問いかけに、伊作は「何か心配事でもあるのかい?」と笑いかけた。
いつものように振舞っているはずの乱太郎は驚いて「どうしてわかったんですか?」と伊作を凝視した。
「なんとなくだけどね」
伊作はよっこいしょと立ち上がると、棚に薬草を戻していく。
その姿を眺めていた乱太郎は、ぽつりぽつりとさっきのことを話し出した。
乱太郎が全て話し終えると、それまで黙って聞いていた伊作が口を開いた。
「乱太郎。その小刀の柄、詳しく教えてくれないか?」
「はい」
そばに落ちていた適当な紙に、乱太郎が小刀に彫られていた柄をさらさらと描いていく。
先ほど見たばかりなので、絵の得意な乱太郎にとっては造作もないことだ。
「この辺に馬が描いてあって、それでこっちには枝みたいなものが……」
乱太郎の絵を見た伊作はそっと瞳を閉じた。
思い出される、過去のこと。
*
あれはいつのことだったか―――――
いつも通り、僕が保健室当番をしていた時だった。
「失礼します」
そう言って入って来たのは、一つ年下のくノたまだった。
「あれ?どうしたの?」
「大したことないんですけど、指を切ってしまって……」
ずいっと差し出された指先には確かに一筋の切り傷があり、そこから血が滲み出ている。
「大したことあるよ。化膿すると厄介だからね。何で切ったんだい?」
「それが彫刻刀で」
指先を消毒してから、塗り薬を塗る。
これくらいの傷は大袈裟にするより、自然の力に任せる方が治りが早いものだ。
「へえ。きみ、彫刻ができるのか。すごいな」
後輩は少し眉間にしわを寄せて首を振る。
「下手くそです。現に指を切ってますから」
「あはは。猿も木から落ちるってね。今度、完成したら見せてよ」
どんな彫刻をするのか興味が湧いて、僕はそう言った。
すると、後輩は切っていない方の手を懐に突っ込むと、小刀を引っ張り出した。
取り出すとき、ほんのわずかだが躊躇いが見えた。
「―――これなんです。笑わないで下さいよ」
目の前に突き出された小刀には丁寧な彫刻がされていて、その柄は………
「ん?どれどれ……………ぷっ」
「あ!!」
後輩が笑ったなとばかりに声を上げる。
「ごめんごめん!すごく良く出来てるじゃないか」
僕は謝るけど、余計可笑しくなるばかりだ。
「笑わないって言ったのに!」
ぽんぽん怒る後輩を宥め、僕はその小刀を見た。
「これなら無くしてもすぐわかるね」
*
そうだ。
その柄なら、他に彫る人なんていないだろうから―――。
伊作はゆっくりと瞼を開けた。
「乱太郎。馬の反対に彫り込まれているのは枝じゃない」
「え?」
「枝に見えたのは――――鹿の角だ」
きみの小刀だよね。
――――――――ひじき。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
馬鹿
こういう店はたまに掘り出し物があるので、三人はお小遣いの節約のためにしばしば覘くのだ。
「いらっしゃい。あぁ、お嬢さんたちか」
店のおじいさんが顔馴染みの三人を見て、しわしわと笑った。
「「「こんにちは!」」」
三人もにっこりと笑って挨拶をする。
「おやおや、今日は可愛らしい髪型じゃねえ」
おじいさんは三人の髪を珍しそうに眺めてから言った。
それを聞いたユキが大袈裟に腕を組んで「おじさんたら!可愛いのは髪型だけですか?」と、言って一同で笑い合った。
その後も世間話に花を咲かせていると、おシゲが商品の中の一つに目を止めた。
「あら?」
そっと手に取り、くるくると見回す。
するとユキとトモミが「どうしたの?」と言いながら、ひょっこりおシゲの手元を覗きこんだ。
それから、二人揃って「え?これって……」と顔を見合わせた。
それはどこにでもある小刀だ。
しかし、それに刻まれている柄は、どこにでもあるものではなかった。
おシゲはそれをおじいさんの所に持って行って訊ねた。
「この小刀、どんな人が売ったんでしゅか?」
するとおじいさんは目を細めて小刀を見ると、「ああ、それかい」と肯いた。
「それは若い男の人が売ったんだよ。確か………先週だったかのう」
「そ、それは本当でしゅか!?」
おじいさんの言葉におシゲが目を丸くした。
ユキとトモミも驚きと困惑の表情を浮かべている。
「若い男の人って、どんなだったか覚えていませんか?」
トモミが身を乗り出して問う。
しかしおじいさんは「さてのう……」と言ったきり、考え込んでしまった。
どうやら、どんな人物だったかは思い出せないようだ。
くノ一三人はその小刀を買い取ると、礼を言って店を後にした。
この後も店を見るつもりだったが、三人の足は帰路に向けられている。
嫌な予感が三人の口を閉ざさせた。
*
乱太郎は保健委員会の当番に向かう途中、くノ一三人組を見かけた。
驚いたことに三人とも真っ青な顔をしている。
「ユキちゃん、トモミちゃん、おシゲちゃん!どうしたの?」
普段なら三人を見かけると咄嗟に隠れるほどだが、今日は様子が気になって声を掛けた。
するとユキが「あぁ乱太郎……」と思い詰めた顔で振り返る。
その手には小刀が握られていて、乱太郎は思わずぎょっとした。
小刀の鞘にはちらりと馬の柄が見てとれる。
手に隠れて全体は見えないが、馬の向かい側には枝のようなものも彫り込まれている。
「一体、その小刀どうしたの?」
「これは………」
ユキが重い口を開こうとすると、トモミがそれを止めた。
「まだ言わない方がいいわ。……あたしたちの勘違いかもしれないし」
「――――そうね」
ゆっくりと肯いたユキは、乱太郎に「今はまだはっきりしたことは言えないから……じゃあね」と言い残し、足早に去って行ってしまった。
「え?ユキちゃん!………どうしたんだろう?」
残された乱太郎は追いかけることもできず、そのまま保健室に向かった。
*
保健室に乱太郎が入ると、すでに委員長の善方寺伊作が薬草の整理をしていた。
というより、整理しようとして誤って薬草棚をひっくり返していた。
「遅くなってすみません」
この棚が引っくり返るのはよくあることなので、乱太郎は大して動じないで挨拶した。
伊作は床に転がっている変な色の草をつまみ上げながら「あぁ、乱太郎。すまないが手伝ってくれないか?」と苦笑した。
「はい」と乱太郎が返事をして、どこから片付けようかと考えていると、伊作がじっとこちらを見ているのに気が付いた。
「へ?何でしょうか?」
乱太郎の問いかけに、伊作は「何か心配事でもあるのかい?」と笑いかけた。
いつものように振舞っているはずの乱太郎は驚いて「どうしてわかったんですか?」と伊作を凝視した。
「なんとなくだけどね」
伊作はよっこいしょと立ち上がると、棚に薬草を戻していく。
その姿を眺めていた乱太郎は、ぽつりぽつりとさっきのことを話し出した。
乱太郎が全て話し終えると、それまで黙って聞いていた伊作が口を開いた。
「乱太郎。その小刀の柄、詳しく教えてくれないか?」
「はい」
そばに落ちていた適当な紙に、乱太郎が小刀に彫られていた柄をさらさらと描いていく。
先ほど見たばかりなので、絵の得意な乱太郎にとっては造作もないことだ。
「この辺に馬が描いてあって、それでこっちには枝みたいなものが……」
乱太郎の絵を見た伊作はそっと瞳を閉じた。
思い出される、過去のこと。
*
あれはいつのことだったか―――――
いつも通り、僕が保健室当番をしていた時だった。
「失礼します」
そう言って入って来たのは、一つ年下のくノたまだった。
「あれ?どうしたの?」
「大したことないんですけど、指を切ってしまって……」
ずいっと差し出された指先には確かに一筋の切り傷があり、そこから血が滲み出ている。
「大したことあるよ。化膿すると厄介だからね。何で切ったんだい?」
「それが彫刻刀で」
指先を消毒してから、塗り薬を塗る。
これくらいの傷は大袈裟にするより、自然の力に任せる方が治りが早いものだ。
「へえ。きみ、彫刻ができるのか。すごいな」
後輩は少し眉間にしわを寄せて首を振る。
「下手くそです。現に指を切ってますから」
「あはは。猿も木から落ちるってね。今度、完成したら見せてよ」
どんな彫刻をするのか興味が湧いて、僕はそう言った。
すると、後輩は切っていない方の手を懐に突っ込むと、小刀を引っ張り出した。
取り出すとき、ほんのわずかだが躊躇いが見えた。
「―――これなんです。笑わないで下さいよ」
目の前に突き出された小刀には丁寧な彫刻がされていて、その柄は………
「ん?どれどれ……………ぷっ」
「あ!!」
後輩が笑ったなとばかりに声を上げる。
「ごめんごめん!すごく良く出来てるじゃないか」
僕は謝るけど、余計可笑しくなるばかりだ。
「笑わないって言ったのに!」
ぽんぽん怒る後輩を宥め、僕はその小刀を見た。
「これなら無くしてもすぐわかるね」
*
そうだ。
その柄なら、他に彫る人なんていないだろうから―――。
伊作はゆっくりと瞼を開けた。
「乱太郎。馬の反対に彫り込まれているのは枝じゃない」
「え?」
「枝に見えたのは――――鹿の角だ」
きみの小刀だよね。
――――――――ひじき。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
馬鹿
