長編 1ミリ上空の日々
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ある日、タカ丸はユキ、トモミ、シゲに頼まれ、三人の髪を結っていた。
これから三人は町へ買い物に繰り出すらしく、さっきから興奮気味にお喋りをしている。
「タカ丸さんは休日なのに外出しないんですか?」
トモミが結ったばかりの髪を鏡で確認しながら訊ねた。
「うん。課題をやらないといけないんだあ」
タカ丸はおシゲの髪を手際よくまとめながら答えた。
頭の中では斬新な髪型のリストが飛び交っている。
「それは仕方ないでしゅね」
おシゲがのんびりと笑う。
ユキは外出届を貰いに行っているので、今は姿が見えない。
「さて、できたよ!」
タカ丸が声を掛けると、おシゲとトモミが「わあ!」と歓声を上げた。
二人とも満足げな顔で礼を言うと、ユキの待つ門の方へと走って行った。
それを見送ってから、タカ丸はそばの石に腰かけている少女に声を掛けた。
「明日から試験も始まるし、弱ったよ」
すると少女は眠そうな目を開いて「がんばってくださいよー」と、気の抜けそうな応援をしてくれた。
日差しに照らされた少女の黒髪は、きれいに輝いている。
タカ丸は喉元まで出かかった言葉を慌てて押し込めた。
*
勉強のために図書室へ向かったタカ丸さんと別れ、私は欠伸を噛み殺しながら校庭を歩いている。
ぼんわりした頭で考え事をした。
さっきタカ丸さんには言えなかったけど、本当はトモミちゃん達がとても羨ましかった。
「私も髪を結ってほしい」
でも、そんなこと言ったらタカ丸さんを困らせるだけ。
私の髪は結い紐も簪も通り抜けてしまうから。
幽霊の利点と欠点は隣合わせだ。
「まあ、贅沢は言ってられないか」
竹谷君の一件の後、再び平和を取り戻した私の日常。
でも、以前と違うことが一つある。
それは私が忍術学園の生徒であったということに、確信を持つようになったことだ。
だからと言って、私の記憶が全て戻ったわけではない。
それに幽霊としての自分が“自分”となってしまった今、本当の自分を知らなくても良いような気すらしてきている。
のこのこと校庭の木の下に移動しようとしていたら、目の前を善法寺君が通りかかった。
風呂敷に大量のティッシュペーパーを入れて背負っている。
しかも、いつものように進行方向に蛸壺があるではないか。
私は何気なく「前、危ないですよ!」と声を出してみた。
すると「え?」と、善法寺君が足を止めて私を見た。
「―――え?」
私もびっくりして善法寺君を見返す。
数秒の間。
しかし、善法寺君は首を少し傾げると、そのまま歩き出し蛸壺に落っこちてしまった。
痛そうな音が穴の中から聞こえた。
あぁ、驚いた。
また空耳程度に聞こえたのか。
私はなんだか落ち着かなくなって、そっと木の下を離れた。
やっと穴から這い出した善法寺伊作は、近くの木の下をもう一度見た。
「今のって……、何かの見間違えかな?」
不意に聞こえた声。
そして、その先に一瞬だけ見えた姿。
伊作はその姿に見覚えがあった。
だからこそ、見間違えであってほしかった。
「死装束なんて縁起でもない」
これから三人は町へ買い物に繰り出すらしく、さっきから興奮気味にお喋りをしている。
「タカ丸さんは休日なのに外出しないんですか?」
トモミが結ったばかりの髪を鏡で確認しながら訊ねた。
「うん。課題をやらないといけないんだあ」
タカ丸はおシゲの髪を手際よくまとめながら答えた。
頭の中では斬新な髪型のリストが飛び交っている。
「それは仕方ないでしゅね」
おシゲがのんびりと笑う。
ユキは外出届を貰いに行っているので、今は姿が見えない。
「さて、できたよ!」
タカ丸が声を掛けると、おシゲとトモミが「わあ!」と歓声を上げた。
二人とも満足げな顔で礼を言うと、ユキの待つ門の方へと走って行った。
それを見送ってから、タカ丸はそばの石に腰かけている少女に声を掛けた。
「明日から試験も始まるし、弱ったよ」
すると少女は眠そうな目を開いて「がんばってくださいよー」と、気の抜けそうな応援をしてくれた。
日差しに照らされた少女の黒髪は、きれいに輝いている。
タカ丸は喉元まで出かかった言葉を慌てて押し込めた。
*
勉強のために図書室へ向かったタカ丸さんと別れ、私は欠伸を噛み殺しながら校庭を歩いている。
ぼんわりした頭で考え事をした。
さっきタカ丸さんには言えなかったけど、本当はトモミちゃん達がとても羨ましかった。
「私も髪を結ってほしい」
でも、そんなこと言ったらタカ丸さんを困らせるだけ。
私の髪は結い紐も簪も通り抜けてしまうから。
幽霊の利点と欠点は隣合わせだ。
「まあ、贅沢は言ってられないか」
竹谷君の一件の後、再び平和を取り戻した私の日常。
でも、以前と違うことが一つある。
それは私が忍術学園の生徒であったということに、確信を持つようになったことだ。
だからと言って、私の記憶が全て戻ったわけではない。
それに幽霊としての自分が“自分”となってしまった今、本当の自分を知らなくても良いような気すらしてきている。
のこのこと校庭の木の下に移動しようとしていたら、目の前を善法寺君が通りかかった。
風呂敷に大量のティッシュペーパーを入れて背負っている。
しかも、いつものように進行方向に蛸壺があるではないか。
私は何気なく「前、危ないですよ!」と声を出してみた。
すると「え?」と、善法寺君が足を止めて私を見た。
「―――え?」
私もびっくりして善法寺君を見返す。
数秒の間。
しかし、善法寺君は首を少し傾げると、そのまま歩き出し蛸壺に落っこちてしまった。
痛そうな音が穴の中から聞こえた。
あぁ、驚いた。
また空耳程度に聞こえたのか。
私はなんだか落ち着かなくなって、そっと木の下を離れた。
やっと穴から這い出した善法寺伊作は、近くの木の下をもう一度見た。
「今のって……、何かの見間違えかな?」
不意に聞こえた声。
そして、その先に一瞬だけ見えた姿。
伊作はその姿に見覚えがあった。
だからこそ、見間違えであってほしかった。
「死装束なんて縁起でもない」
