長編 1ミリ上空の日々
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ポン太に取り憑いた私は四人の匂いを辿って走り続けていた。
そのとき、ふと別の方向から良く知った匂いを嗅ぎ取る。
その匂いは風上の方から流れてきているようだ。
私は急な方向転換をして、その匂いの方へ駆けだす。
土が大きく抉れた。
犬の脚力は相当なもので、人だったら手間取るであろう森の道もかまわずに走れる。
四本の足で木の根や岩を掴み、力強く前へ進む。
息は上がってきたものの疲れはまだ感じない。
茂みを突っ切り、小川を飛び越えて一心に突き進む。
その先に崖が現れた。
どうやら、匂いはこの上からしているみたいだ。
私は鼻をくんくんさせ、上を見上げた。
目の前には岩肌が立ちはだかっている。
私はポン太の足を信用し、その崖に猛然と駆け登って行った。
今は回り道なんて探していられない。
さっきから鼻につくこの匂いは、―――――血の匂い。
滑り落ちそうになりながらも、どうにか崖を登りきる。
月の光もない暗闇でも、犬の目のおかげでかなり視界は良い。
私はその場をぐるりと見回して洞窟の入り口を見つけた。
そこから血のにおいが流れ出している。
私は四人に知らせようと考えるけど、犬だから方法が無い。
こんな所でくずぐずしていられないのに!
何か方法は………。
私は一か八かで崖の先に立ち、深く息を吸った。
そして闇夜に向かって遠吠えをした。
「わおぉ――――――ん!!」
森に吠え声が響き渡って行く。
どうか、四人がポン太だって気がつきますように。
そう願った矢先だ、洞窟から男が出てきた。
手には松明と槍を持っている。
男は私を見つけるなり、「お前は今朝の犬っころじゃねえか?なんだ、ご主人様を助けに来たってのか?」と言って汚く笑った。
「残念だったな。お前のご主人様はもう手遅れだよ」
男が私を追い返そうと近寄って来る。
でも、私はさっき男が言った言葉で頭が真っ白になった。
――――――手遅れ?
男が目の前までやって来たとき、私はそいつの足に喰らいついていた。
鋭い牙がふくらはぎに食い込む。
男はあまりの痛みに悲鳴を上げる。
「てめえ!!」
男が槍で突いてこようとするので足を放して跳び退る。
そして、男の脇を走り抜けると、一気に洞窟に入って行った。
嘘だ。
絶対に嘘だ。
竹谷君は無事に決ってる。
そりゃあ少しは怪我してるかもしれないけど、でも、でも。
血の匂いが一層濃くなって、私の足は止まった。
洞窟の突き当りに格子がはめてあり、その中に誰かが倒れている。
見覚えのある背中。
――――――――竹谷君。
私はふらふらとそっちへ近づいた。
竹谷君は沢山血を流して檻の中に転がされている。
「………わん」
………起きて。
「…わんわん」
……起きてよ。
吠えても、竹谷君は応えてくれない。
私は無我夢中で檻にぶつかって行った。
格子が喧しい音を立てる。
「わんわんわんわん!!」
起きて、竹谷君!!!返事をして!!!
それでも、竹谷君は動かない。
「おい、犬が入って来てるぞ!!!!」
男の声がして、四、五人の山賊が様子を見にやって来た。
私は檻の前に立って、未だに吠え続けていた。
すると山賊の一人が嗤いながら近づいてくる。
その時、男の持っている刀から竹谷君の血の匂いがした。
―――自分の中に黒い感情が湧き上がる。
よくも竹谷君をこんな酷い目に合わせたな。
許さない。
いくら許しを乞うても、泣いて叫んだとしても許さない。
―――――――――――殺してやる。
洞窟に響いていた吠え声が止んだ。
