長編 1ミリ上空の日々
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今朝早く、竹谷八左エ門、不破雷蔵、鉢屋三郎は学園長の庵に呼び出された。
「失礼します」と言って入ると、案の定、学園長は鼻ちょうちんを膨らまして座ったまま寝入っている。
三人はそれぞれ顔を見合わせ、その結果雷蔵がため息を一つ吐いて学園長に声を掛けた。
「学園長先生!」
「ふごっ!!」
鼻ちょうちんがパチンと割れて、学園長がぎょっと目を覚ます。
「おはようございます。御用を聞きに参りました」
「お、おお、すまんな。まあ座りなさい」
三人が正面に正座すると、学園長は咳払いをしてから口を開いた。
「最近この辺りの村で山賊が悪さをしている。そやつらの本拠地を探って来てほしいのじゃ」
ヘムヘムがやって来て学園長にお茶を淹れる。
学園長は湯呑を持ち上げたが、あまりに熱くて再び湯呑を盆に戻した。
「これは竹谷八左エ門の追試じゃ」
「え!?」
八左エ門は身を乗り出した。
「ちょっと待って下さい!どうして私と雷蔵も一緒なんですか!!」
三郎が憤慨したように立ち上がる。
その言葉に八左エ門が盛大にこける。
「この薄情者!!」
「まあまあ、この任務はどっちみち一人ではちと危険じゃ。同じ組のよしみで付き合ってやってくれ。それに、任務をやり遂げたら不破と鉢屋に追加点を与えるよう先生には言ってある」
学園長のこの言葉と、雷蔵の説得で三郎も承知した。
「それでは三人とも、頼んだぞ」
「「「はい」」」
こうして、山賊の本拠地調査という名目の“竹谷八左エ門の追試”が幕を開けた。
*
町に出て順調に山賊の情報を集めている途中、三人は困り顔の老人に呼びとめられた。
「きみたち、ちょっとお尋ねしたいのじゃが……」
「なんでしょっ!?」
振り向きそうになった雷蔵を三郎と八左エ門が引き止める。
「駄目だ雷蔵!これは忍たまのお約束……あの老人に関わったらろくなことにならんぞ!」
「ああ。悪い予感しかしない」
三郎と八左エ門は血相を変えて言った。
「た、確かにそうかもしれない。いや、でも本当に困ってるかも。でも……」
雷蔵は迷い出す。
三人がひそひそ話しているのを、老人は遠くから見ている。
「あのお、わしの犬が迷子に……」
その言葉を八左エ門が聞き逃すわけがなかった。
「それで、どんな犬なんですか!!?」
老人に詰め寄って行ってしまった八左エ門に、三郎はため息をついた。
「あいつ、懲りてないのか?」
雷蔵は「まあ任務の後でならいいんじゃない?」と笑う。
老人から犬の特徴を聞き終えた八左エ門が二人のもとに帰って来た。
「大きな柴犬らしいぞ!名前はポン太だ!」
犬を探す気まんまんの八左エ門に三郎が「今は任務の遂行が先だぞ」と忠告する。
「お前はそうやって動物のことに首を突っ込むからいけない。それさえなければ前の試験も楽勝だったはずだろ?それに、あの老人も先生の罠かもしれない」
「うっ」
痛い所を突かれて八左エ門が言葉に詰まる。
「だが雷蔵に免じて、任務を終えた後なら犬を探すの手伝ってやろう」
さっさと歩き出しながら三郎が言った。
その言葉に八左エ門はぱっと表情を明るくした。
「さぶろおおぉ!お前、良い奴だな!!」
「ちょっ!くっつくな暑苦しい!!!」
*
「ここがやつらの本拠地だな」
八左エ門が地図に×印を付ける。
三人は草陰に隠れて、館に人が出入りする様子を窺っていた。
この館は廃墟だったはずだが、山賊たちがねぐらとして修繕したらしい。
山の奥深くにあるので見つかりにくいわけだ。
「こんな立派な館とは……。もっとつつましく暮らしている領主もいるくらいだよ」
雷蔵が感心半分、呆れ半分で呟く。
「場所はわかったし、そろそろ引き上げるか」
三郎がそう言った時だった。
「わんわんわん!」
見張っていた館の前に、どこからか犬が走って来た。
門番の前でぴょこぴょこ飛び跳ねている。
「おほー!じいさんの犬だ!」
八左エ門が草陰から立ち上がりかける。
三郎が慌ててそれを引きとどめる。
門番が草むらが揺れたのに気付いて訝しげな顔をしたが、犬に気を取られて注意を逸らした。
“おい馬鹿ハチ!気付かれるだろ!!”
三郎が矢羽音に切り換えて八左エ門をどやす。
“悪い悪い”
八左エ門は頭を掻きながら苦笑いした。
“ね、ねえ。あれやばいんじゃない?”
雷蔵が焦ったように門前を見つめる。
八左エ門と三郎はそちらに目をやった。
ポン太は館の門を見張る男にしつこく吠えたてている。
男は鬱陶しそうに手でポン太を追い払おうとした。
「わんわんわん」
「邪魔だ!あっちへ退け!」
「わんわん」
しかしポン太は尚も男の行く手を遮るように跳びはね、吠え続ける。
遊びのつもりなのだろうか。
男はついに足でポン太を蹴り飛ばした。
「あいつ」
また立ちあがりかける八左エ門を三郎と雷蔵が引き止める。
すると館から別の男が出てきた。
「おい、喧しいぞ!!!」
「この犬、ついてきやがるんでえ」
相変わらず吠えまくるポン太に、男は唾を吐き掛けた。
「この辺りに村の連中が入って来てるんじゃねえだろうな」
「さあな、どっかの野良だろう……面倒だ斬っちまうか」
そう言って男の一人が腰の刀を抜いた。
「待て!!!!」
草むらから飛び出した八左エ門がポン太の前に立ちはだかった。
「んだあ小僧!!てめえの犬か!?」
「……そうだ」
八左エ門は男を睨みつけながら言う。
「そうかい。俺達はこの犬に迷惑かけられたんだ」
「それは悪かったな」
ポン太は首を傾げて八左エ門を見上げている。
巻き尾がふりふり揺れる。
ポン太に「おいで」と声を掛けて立ち去ろうとした八左エ門を男が呼びとめた。
「おい小僧。てめえは残れ」
こう来るとは予想していた。
本拠地の場所を知られたからには、みすみす帰しはしないだろう。
“ポン太を連れて行け”
八左エ門からの矢羽音を聞いた三郎は考えた。
今出て行って騒ぎになれば、当然山賊どもがうようよ出てくるはずだ。
そうなればこちらは劣勢。
私たちは逃げ切れるかもしれないが、あの大きな犬を連れて逃げるのは無理だ。
“八左エ門。犬は諦めろ”
しかし、八左エ門からの返答はなかった。
“三郎、八左エ門はもう腹を括ってしまったみたいだ”
雷蔵は三郎に目配せした。
これだから生物委員長代理は―――――。
八左エ門はポン太の頭を撫でてやると、しっかりと目を合わせて言った。
「ほら、帰るんだ」
すると五月蠅く吠えていたポン太が、ぴたりと吠えるのをやめて、だっと走り出した。
三郎と雷蔵はそれを見て、小さく肯きあう。
“必ず戻る”
そして、ポン太の後を追って音もなく走り出した。
「失礼します」と言って入ると、案の定、学園長は鼻ちょうちんを膨らまして座ったまま寝入っている。
三人はそれぞれ顔を見合わせ、その結果雷蔵がため息を一つ吐いて学園長に声を掛けた。
「学園長先生!」
「ふごっ!!」
鼻ちょうちんがパチンと割れて、学園長がぎょっと目を覚ます。
「おはようございます。御用を聞きに参りました」
「お、おお、すまんな。まあ座りなさい」
三人が正面に正座すると、学園長は咳払いをしてから口を開いた。
「最近この辺りの村で山賊が悪さをしている。そやつらの本拠地を探って来てほしいのじゃ」
ヘムヘムがやって来て学園長にお茶を淹れる。
学園長は湯呑を持ち上げたが、あまりに熱くて再び湯呑を盆に戻した。
「これは竹谷八左エ門の追試じゃ」
「え!?」
八左エ門は身を乗り出した。
「ちょっと待って下さい!どうして私と雷蔵も一緒なんですか!!」
三郎が憤慨したように立ち上がる。
その言葉に八左エ門が盛大にこける。
「この薄情者!!」
「まあまあ、この任務はどっちみち一人ではちと危険じゃ。同じ組のよしみで付き合ってやってくれ。それに、任務をやり遂げたら不破と鉢屋に追加点を与えるよう先生には言ってある」
学園長のこの言葉と、雷蔵の説得で三郎も承知した。
「それでは三人とも、頼んだぞ」
「「「はい」」」
こうして、山賊の本拠地調査という名目の“竹谷八左エ門の追試”が幕を開けた。
*
町に出て順調に山賊の情報を集めている途中、三人は困り顔の老人に呼びとめられた。
「きみたち、ちょっとお尋ねしたいのじゃが……」
「なんでしょっ!?」
振り向きそうになった雷蔵を三郎と八左エ門が引き止める。
「駄目だ雷蔵!これは忍たまのお約束……あの老人に関わったらろくなことにならんぞ!」
「ああ。悪い予感しかしない」
三郎と八左エ門は血相を変えて言った。
「た、確かにそうかもしれない。いや、でも本当に困ってるかも。でも……」
雷蔵は迷い出す。
三人がひそひそ話しているのを、老人は遠くから見ている。
「あのお、わしの犬が迷子に……」
その言葉を八左エ門が聞き逃すわけがなかった。
「それで、どんな犬なんですか!!?」
老人に詰め寄って行ってしまった八左エ門に、三郎はため息をついた。
「あいつ、懲りてないのか?」
雷蔵は「まあ任務の後でならいいんじゃない?」と笑う。
老人から犬の特徴を聞き終えた八左エ門が二人のもとに帰って来た。
「大きな柴犬らしいぞ!名前はポン太だ!」
犬を探す気まんまんの八左エ門に三郎が「今は任務の遂行が先だぞ」と忠告する。
「お前はそうやって動物のことに首を突っ込むからいけない。それさえなければ前の試験も楽勝だったはずだろ?それに、あの老人も先生の罠かもしれない」
「うっ」
痛い所を突かれて八左エ門が言葉に詰まる。
「だが雷蔵に免じて、任務を終えた後なら犬を探すの手伝ってやろう」
さっさと歩き出しながら三郎が言った。
その言葉に八左エ門はぱっと表情を明るくした。
「さぶろおおぉ!お前、良い奴だな!!」
「ちょっ!くっつくな暑苦しい!!!」
*
「ここがやつらの本拠地だな」
八左エ門が地図に×印を付ける。
三人は草陰に隠れて、館に人が出入りする様子を窺っていた。
この館は廃墟だったはずだが、山賊たちがねぐらとして修繕したらしい。
山の奥深くにあるので見つかりにくいわけだ。
「こんな立派な館とは……。もっとつつましく暮らしている領主もいるくらいだよ」
雷蔵が感心半分、呆れ半分で呟く。
「場所はわかったし、そろそろ引き上げるか」
三郎がそう言った時だった。
「わんわんわん!」
見張っていた館の前に、どこからか犬が走って来た。
門番の前でぴょこぴょこ飛び跳ねている。
「おほー!じいさんの犬だ!」
八左エ門が草陰から立ち上がりかける。
三郎が慌ててそれを引きとどめる。
門番が草むらが揺れたのに気付いて訝しげな顔をしたが、犬に気を取られて注意を逸らした。
“おい馬鹿ハチ!気付かれるだろ!!”
三郎が矢羽音に切り換えて八左エ門をどやす。
“悪い悪い”
八左エ門は頭を掻きながら苦笑いした。
“ね、ねえ。あれやばいんじゃない?”
雷蔵が焦ったように門前を見つめる。
八左エ門と三郎はそちらに目をやった。
ポン太は館の門を見張る男にしつこく吠えたてている。
男は鬱陶しそうに手でポン太を追い払おうとした。
「わんわんわん」
「邪魔だ!あっちへ退け!」
「わんわん」
しかしポン太は尚も男の行く手を遮るように跳びはね、吠え続ける。
遊びのつもりなのだろうか。
男はついに足でポン太を蹴り飛ばした。
「あいつ」
また立ちあがりかける八左エ門を三郎と雷蔵が引き止める。
すると館から別の男が出てきた。
「おい、喧しいぞ!!!」
「この犬、ついてきやがるんでえ」
相変わらず吠えまくるポン太に、男は唾を吐き掛けた。
「この辺りに村の連中が入って来てるんじゃねえだろうな」
「さあな、どっかの野良だろう……面倒だ斬っちまうか」
そう言って男の一人が腰の刀を抜いた。
「待て!!!!」
草むらから飛び出した八左エ門がポン太の前に立ちはだかった。
「んだあ小僧!!てめえの犬か!?」
「……そうだ」
八左エ門は男を睨みつけながら言う。
「そうかい。俺達はこの犬に迷惑かけられたんだ」
「それは悪かったな」
ポン太は首を傾げて八左エ門を見上げている。
巻き尾がふりふり揺れる。
ポン太に「おいで」と声を掛けて立ち去ろうとした八左エ門を男が呼びとめた。
「おい小僧。てめえは残れ」
こう来るとは予想していた。
本拠地の場所を知られたからには、みすみす帰しはしないだろう。
“ポン太を連れて行け”
八左エ門からの矢羽音を聞いた三郎は考えた。
今出て行って騒ぎになれば、当然山賊どもがうようよ出てくるはずだ。
そうなればこちらは劣勢。
私たちは逃げ切れるかもしれないが、あの大きな犬を連れて逃げるのは無理だ。
“八左エ門。犬は諦めろ”
しかし、八左エ門からの返答はなかった。
“三郎、八左エ門はもう腹を括ってしまったみたいだ”
雷蔵は三郎に目配せした。
これだから生物委員長代理は―――――。
八左エ門はポン太の頭を撫でてやると、しっかりと目を合わせて言った。
「ほら、帰るんだ」
すると五月蠅く吠えていたポン太が、ぴたりと吠えるのをやめて、だっと走り出した。
三郎と雷蔵はそれを見て、小さく肯きあう。
“必ず戻る”
そして、ポン太の後を追って音もなく走り出した。
