長編 1ミリ上空の日々
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私はもたもたと立ち上がり、タカ丸君に小さく手を振った。
タカ丸君は「どうしたの?」と口ぱくで首を傾げる。
喜八郎がまだ庭の方をうろうろしているので、普通には会話できない。
ひとまず私は「あとで説明する」とだけ言い残して、廊下の壁を通り抜けた。
こんなとき、実体の無い身体は便利なのもだ。
五年長屋へ到着してみると、そこには深刻な顔をした五年の面々が揃っていた。
ただ一人、竹谷君を除いて。
私は間合いをよく取って聞き耳を立てた。
不破君の足元にいる大きな柴犬が、私のほうを見ているような気がして近づけない。
不破君が地図を広げ、その中の一点を鉢屋君が示して説明している。
「場所はここだとわかっている。―――ただ、ざっと数えただけでも十七、八はいたからな、無暗に突っ込むのは危険だ」
不破君と鉢屋君は私服で、どこからかの帰りらしい。
尾浜君は「十七、八か……。ぎりぎりいけるんじゃないか?いや、でもそれで全部とは言い切れないか」と眉をひそめる。
いつも穏やかなまあるい目が鋭くなる。
「夜なら、向こうも動きにくいだろう。俺たちは夜目が利く」
久々知君がそう言って小さく肯いた。
「ただ…」と続ける。
「八左エ門がどれくらい持ちこたえられるか、だ」
それには三人とも表情を暗くした。
「やっぱり、先生に報告しよう」
不破君が思い切ったように言う。
迷い癖のある彼らしくないはっきりとした答えだ。
しかし、他の三人は同意しかねていた。
鉢屋君が苦々しく口を開く。
「ああ。それが一番良い方法かもしれない。でも、それでは八左エ門の進級が危うくなる。
雷蔵も覚えているだろ?前回の期末試験、あいつは不合格だった。今回落とせば、確実に留年だ」
久々知君も肯く。
「障害物競争の一つに、傷ついた鳥を仕掛けるなんて、先生も八左エ門の弱点をついてるよな………」
生物委員長代理の竹谷君の信念は、時に彼の行く手を阻む。
「兵助もお豆腐屋さんに釣られそうになって危なかったよね」
尾浜君が思い出したようにちょっと笑う。
これには私もぷっと吹き出しそうになった。
いけない、いけない、笑ってるばやいじゃない。
鉢屋君は腕を組み、話を進める。
「ともかく、あいつは今回の忍務を遂行しなければいけない。
幸運にも期限は明日の朝だ。
今夜、私達であの山賊の根城に奇襲を掛けて、朝までに学園に戻れば良い。
私と雷蔵と八左エ門に任された忍務は『山賊の拠点を突きとめる』ところまでだが、どっちみち山賊は退治する予定だったはずだ。
私たちが追っ払っても文句は言うまい」
心配げな顔の不破君に尾浜君も「八左エ門は絶対大丈夫だ」と肩を叩く。
「山賊どもは八左エ門の持っている苦無を見て、どこの城の忍者か知りたがるはずだ。
山賊も、危ない城との関わり合いは避けたいはずだから……
俺たちが助けるまで、八左エ門は絶対に無事でいる」
「それより」と尾浜君が不破君の足元を覗きこんだ。
「このわんころは一体どうしたの?野良犬?」
不破君の足元で吠えていた柴犬は、みんなに注目されたのが恥ずかしかったのか、ちょっと照れたようにうつむいた。
柴犬というと小型の犬種だが、この柴犬はずいぶん大きい。
尾浜君が腰をかがめて顔周りをわしゃわしゃ撫でてやると、その犬はなんとも幸せそうな間抜けた顔をした。
「吠えてばかりだし。お前、なんか頭が悪そうだな」
久々知君も一緒になって頭を撫でながら笑った。
「ああ、こいつはポン太っていうんだが―――――」
鉢屋君はみんなに撫でまわされ、もそもそと嬉しがるポン太を苦笑交じりに見やると、竹谷君が山賊に捕まった経緯を話しだした。
ポン太はのん気にくわぁと欠伸をする。
タカ丸君は「どうしたの?」と口ぱくで首を傾げる。
喜八郎がまだ庭の方をうろうろしているので、普通には会話できない。
ひとまず私は「あとで説明する」とだけ言い残して、廊下の壁を通り抜けた。
こんなとき、実体の無い身体は便利なのもだ。
五年長屋へ到着してみると、そこには深刻な顔をした五年の面々が揃っていた。
ただ一人、竹谷君を除いて。
私は間合いをよく取って聞き耳を立てた。
不破君の足元にいる大きな柴犬が、私のほうを見ているような気がして近づけない。
不破君が地図を広げ、その中の一点を鉢屋君が示して説明している。
「場所はここだとわかっている。―――ただ、ざっと数えただけでも十七、八はいたからな、無暗に突っ込むのは危険だ」
不破君と鉢屋君は私服で、どこからかの帰りらしい。
尾浜君は「十七、八か……。ぎりぎりいけるんじゃないか?いや、でもそれで全部とは言い切れないか」と眉をひそめる。
いつも穏やかなまあるい目が鋭くなる。
「夜なら、向こうも動きにくいだろう。俺たちは夜目が利く」
久々知君がそう言って小さく肯いた。
「ただ…」と続ける。
「八左エ門がどれくらい持ちこたえられるか、だ」
それには三人とも表情を暗くした。
「やっぱり、先生に報告しよう」
不破君が思い切ったように言う。
迷い癖のある彼らしくないはっきりとした答えだ。
しかし、他の三人は同意しかねていた。
鉢屋君が苦々しく口を開く。
「ああ。それが一番良い方法かもしれない。でも、それでは八左エ門の進級が危うくなる。
雷蔵も覚えているだろ?前回の期末試験、あいつは不合格だった。今回落とせば、確実に留年だ」
久々知君も肯く。
「障害物競争の一つに、傷ついた鳥を仕掛けるなんて、先生も八左エ門の弱点をついてるよな………」
生物委員長代理の竹谷君の信念は、時に彼の行く手を阻む。
「兵助もお豆腐屋さんに釣られそうになって危なかったよね」
尾浜君が思い出したようにちょっと笑う。
これには私もぷっと吹き出しそうになった。
いけない、いけない、笑ってるばやいじゃない。
鉢屋君は腕を組み、話を進める。
「ともかく、あいつは今回の忍務を遂行しなければいけない。
幸運にも期限は明日の朝だ。
今夜、私達であの山賊の根城に奇襲を掛けて、朝までに学園に戻れば良い。
私と雷蔵と八左エ門に任された忍務は『山賊の拠点を突きとめる』ところまでだが、どっちみち山賊は退治する予定だったはずだ。
私たちが追っ払っても文句は言うまい」
心配げな顔の不破君に尾浜君も「八左エ門は絶対大丈夫だ」と肩を叩く。
「山賊どもは八左エ門の持っている苦無を見て、どこの城の忍者か知りたがるはずだ。
山賊も、危ない城との関わり合いは避けたいはずだから……
俺たちが助けるまで、八左エ門は絶対に無事でいる」
「それより」と尾浜君が不破君の足元を覗きこんだ。
「このわんころは一体どうしたの?野良犬?」
不破君の足元で吠えていた柴犬は、みんなに注目されたのが恥ずかしかったのか、ちょっと照れたようにうつむいた。
柴犬というと小型の犬種だが、この柴犬はずいぶん大きい。
尾浜君が腰をかがめて顔周りをわしゃわしゃ撫でてやると、その犬はなんとも幸せそうな間抜けた顔をした。
「吠えてばかりだし。お前、なんか頭が悪そうだな」
久々知君も一緒になって頭を撫でながら笑った。
「ああ、こいつはポン太っていうんだが―――――」
鉢屋君はみんなに撫でまわされ、もそもそと嬉しがるポン太を苦笑交じりに見やると、竹谷君が山賊に捕まった経緯を話しだした。
ポン太はのん気にくわぁと欠伸をする。
