長編 1ミリ上空の日々
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「委員会の帰りで、その、土井先生に御用があるんです」
タカ丸は山田先生の質問にしどろもどろで答える。
――――――――完全に怪しまれている。
タカ丸は観念した。
すると山田先生は「そうか」と言って、少し考える素振りを見せる。
「土井先生はもう食堂へ向かっておられる。タカ丸も早く済ませてきなさい」
意外な返答に、タカ丸は緊張気味に笑った。
喉がからからする。
「はい、ありがとうございます」
タカ丸は一礼すると、山田先生に背を向けて廊下を歩きだす。
そのまま、食堂に辿り着くまで、タカ丸は一度も振り返らなかった。
*
“あの子”を最初に見かけたのは、この学園に来て間もなくの頃だった。
授業の一環で、校庭でマラソンをしていたときのこと。
あの日は四年生全員で記録を測っていた。
滝夜叉丸くんが三木エ門くんに「今日こそどちらが格上かハッキリさせてやろう!」なんて言った事がきっかけで、二人の闘志は絶好調だ。
喜八郎くんは「穴掘り競争ならしてもいいけど、徒競争には興味ないなあ」と、火花を散らす二人を見やる。
しかもこれから走ると言うのに、何故か鋤を担いでいる。
「ねえ喜八郎くん。どうして鋤なんて持っているの?走りにくくない?」
スタートラインに並びながら、喜八郎くんに訊いてみる。
彼は「ああ、これ?」と言って鋤を持ち上げて見せる。
「持っていたほうが速く走れるんですよ」
タカ丸は首を傾げた。
すると喜八郎くんはびしっと前を指さした。
「ゴールで穴を掘る。そう決めてるんです」
これには、タカ丸も慌てた。
「そ、それじゃあ後から来た人が落ちちゃうよお!!」
しかし、先生の合図でみんな走り出してしまい、喜八郎はあっと言う間に見えなくなってしまった。
滝夜叉丸くんと三木エ門くんは短距離走でもしているかのような勢いで、お互い睨みあいながら走っている。
タカ丸はそんなみんなを後ろから追いかけていた。
自分の方が歳は上だが、体力の面ではまだまだ及ばない。
しかし校庭を六周したとき、先頭を突っ走っていた滝夜叉丸くんと三木エ門くんを追い抜いてしまった。
どうやら二人とも、最初に飛ばし過ぎたせいで体力を使いきってしまったらしい。
そして、その時だった。
すぐ後ろで女の子の笑い声が聞こえた。
「二人とも頑張って!あと、少しだから!」
タカ丸はびっくりして後ろを振り返った。
そして、驚きで足が止まりそうになる。
疲れてへろへろになって走る二人に、寄り添うように走る女の子。
その子は白い死装束を着て、裸足のまま走っている。
結われていない肩下までの黒髪が、彼女の動きに合わせて軽やかに靡いていた。
その子はにこにこと楽しそうで、そして一生懸命二人を応援している。
タカ丸はすぐにその子がこの世のものではないとわかった。
でも、これまで見てきた、おどろおどろしい幽霊とは違う。
はつらつとしてて楽しそうだ。
でも、幽霊と関わるようなことはできない。
そうやって、店でも見て見ぬふりをしてきた。
何も見てない。
何も聞こえない。
タカ丸は何事もないかのようにそのまま走り続けた。
「がんばれー!」
後ろで、賑やかな声がずっと聞こえていた。
これが、彼女を見た最初の日で、その日以降タカ丸はたびたび彼女の姿を目にするようになった。
*
夕食を上の空で掻き込んだタカ丸は、食堂を飛び出した。
以前、乱太郎くんたちを助けた幽霊というのはきっとあの子だ。
先生方がなぜ内密にこの件を終わらせようとしているかはわからない。
一体、山田先生はどこに御札を貼っただろうか?
あの子が御札の力で学園から消されてしまう前に、それを止めないと。
今まで僕たちを見守って、助けてくれたあの子を、このまま放ってはおけない。
彼女は学園を守ろうとしてくれたのだ。
これまで通り、見て見ぬふりをすることは、もうできない。
ただ、あの子はこの学園でひっそりと過ごしていたいだけなんだ。
廊下を駆けていると、遠くにぼんやりと白い姿が浮かび上がっていた。
その姿はよろよろと揺らめき、今にも消えてしまいそうだ。
その人影から伸びた腕は、一直線に御札の貼られた戸に向かっていた。
あと僅かでその指が触れてしまう。
タカ丸は手を伸ばして叫んだ。
「触ったら駄目だ!!!」
どうか、届いて。
タカ丸の指は少女の腕を捉えた。
タカ丸は山田先生の質問にしどろもどろで答える。
――――――――完全に怪しまれている。
タカ丸は観念した。
すると山田先生は「そうか」と言って、少し考える素振りを見せる。
「土井先生はもう食堂へ向かっておられる。タカ丸も早く済ませてきなさい」
意外な返答に、タカ丸は緊張気味に笑った。
喉がからからする。
「はい、ありがとうございます」
タカ丸は一礼すると、山田先生に背を向けて廊下を歩きだす。
そのまま、食堂に辿り着くまで、タカ丸は一度も振り返らなかった。
*
“あの子”を最初に見かけたのは、この学園に来て間もなくの頃だった。
授業の一環で、校庭でマラソンをしていたときのこと。
あの日は四年生全員で記録を測っていた。
滝夜叉丸くんが三木エ門くんに「今日こそどちらが格上かハッキリさせてやろう!」なんて言った事がきっかけで、二人の闘志は絶好調だ。
喜八郎くんは「穴掘り競争ならしてもいいけど、徒競争には興味ないなあ」と、火花を散らす二人を見やる。
しかもこれから走ると言うのに、何故か鋤を担いでいる。
「ねえ喜八郎くん。どうして鋤なんて持っているの?走りにくくない?」
スタートラインに並びながら、喜八郎くんに訊いてみる。
彼は「ああ、これ?」と言って鋤を持ち上げて見せる。
「持っていたほうが速く走れるんですよ」
タカ丸は首を傾げた。
すると喜八郎くんはびしっと前を指さした。
「ゴールで穴を掘る。そう決めてるんです」
これには、タカ丸も慌てた。
「そ、それじゃあ後から来た人が落ちちゃうよお!!」
しかし、先生の合図でみんな走り出してしまい、喜八郎はあっと言う間に見えなくなってしまった。
滝夜叉丸くんと三木エ門くんは短距離走でもしているかのような勢いで、お互い睨みあいながら走っている。
タカ丸はそんなみんなを後ろから追いかけていた。
自分の方が歳は上だが、体力の面ではまだまだ及ばない。
しかし校庭を六周したとき、先頭を突っ走っていた滝夜叉丸くんと三木エ門くんを追い抜いてしまった。
どうやら二人とも、最初に飛ばし過ぎたせいで体力を使いきってしまったらしい。
そして、その時だった。
すぐ後ろで女の子の笑い声が聞こえた。
「二人とも頑張って!あと、少しだから!」
タカ丸はびっくりして後ろを振り返った。
そして、驚きで足が止まりそうになる。
疲れてへろへろになって走る二人に、寄り添うように走る女の子。
その子は白い死装束を着て、裸足のまま走っている。
結われていない肩下までの黒髪が、彼女の動きに合わせて軽やかに靡いていた。
その子はにこにこと楽しそうで、そして一生懸命二人を応援している。
タカ丸はすぐにその子がこの世のものではないとわかった。
でも、これまで見てきた、おどろおどろしい幽霊とは違う。
はつらつとしてて楽しそうだ。
でも、幽霊と関わるようなことはできない。
そうやって、店でも見て見ぬふりをしてきた。
何も見てない。
何も聞こえない。
タカ丸は何事もないかのようにそのまま走り続けた。
「がんばれー!」
後ろで、賑やかな声がずっと聞こえていた。
これが、彼女を見た最初の日で、その日以降タカ丸はたびたび彼女の姿を目にするようになった。
*
夕食を上の空で掻き込んだタカ丸は、食堂を飛び出した。
以前、乱太郎くんたちを助けた幽霊というのはきっとあの子だ。
先生方がなぜ内密にこの件を終わらせようとしているかはわからない。
一体、山田先生はどこに御札を貼っただろうか?
あの子が御札の力で学園から消されてしまう前に、それを止めないと。
今まで僕たちを見守って、助けてくれたあの子を、このまま放ってはおけない。
彼女は学園を守ろうとしてくれたのだ。
これまで通り、見て見ぬふりをすることは、もうできない。
ただ、あの子はこの学園でひっそりと過ごしていたいだけなんだ。
廊下を駆けていると、遠くにぼんやりと白い姿が浮かび上がっていた。
その姿はよろよろと揺らめき、今にも消えてしまいそうだ。
その人影から伸びた腕は、一直線に御札の貼られた戸に向かっていた。
あと僅かでその指が触れてしまう。
タカ丸は手を伸ばして叫んだ。
「触ったら駄目だ!!!」
どうか、届いて。
タカ丸の指は少女の腕を捉えた。
