長編 1ミリ上空の日々
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他の三人は口を閉じ、久々知に注目した。
久々知はぴっと人差し指を立てて話しだす。
「これは俺の憶測だけど、先生方はそんな術を知らないのかもしれない」
「知らない?」
三郎次が訊き返す。
久々知は癖のある黒髪を揺らして肯いた。
周りの三人の顔をぐるりと見まわし、声を潜めて続ける。
「つまり、泥棒が見たのは本物の幽霊だ」
タカ丸の表情が一瞬、陰った。
「で、でもどうして先生方は嘘をついたりしたんです?」
伊助は硝煙蔵の中をちらちらと見ながら言う。
ただでさえ薄暗くて気味の悪い蔵が、いっそう嫌な雰囲気を纏っている。
「そこがわからない。
単に生徒を怖がらせないようにっていう理由かもしれないが、それにしても上級生にまで嘘をつく必要はない気もする」
伊助と三郎次は黙りこくって小さくなっている。
そんな中、タカ丸が慌てて笑顔を作った。
「幽霊なんていないよ。兵助くんも考えすぎだって!」
「もしかしてタカ丸さん、幽霊が怖いんですか?」
あっけらかんと久々知が訊いた。
彼自身は幽霊に対して恐怖心を抱いていないようだ。
伊助と三次郎は何やら期待しているような顔でタカ丸を見つめる。
上級生の弱い面を見られることが、何となく嬉しいらしい。
タカ丸はうっと詰まった後、困り顔で笑った。
「あはは。実はまるっきり駄目なんだ」
「なんだあ。タカ丸さん、怖がりなんですね!」
伊助と三郎次が嬉しそうに笑い、久々知が「お前たちも怖がっていただろ」と苦笑い。
話は有耶無耶になった。
*
今日、一日の出来事
一年ろ組の生徒と日陰ぼっこ。
その際、伏木蔵と孫次郎がひゃっくりをした。
私の霊気を感じ取ったのかどうかは謎である。
その後、食堂のおばちゃんのランチの準備を眺める。
毎度のことながら、学園全員分の食事をあっという間に作ってしまう手際の良さに感動。
大量の野菜を根気良く切り、大鍋から立ちこめる湯気に汗を流す。
こんなに一生懸命作った料理なのだから、お残しは許されないのだと一人肯く。
のんびりとした昼下がり、山田先生のご子息である利吉さんが学園にやって来た。
小松田さんは憧れの利吉さんが来たことに大はしゃぎ。
二回転ぶ。
そそくさと入門票にサインをし、利吉さんは山田先生のもとへ。
きっと山田先生を家に帰るように説得しに来たに違いない。
夕方、喜八郎と落とし穴に誰が落ちるか見張る。
私はハラハラしながら口を押さえていたが、喜八郎は欠伸なんてする余裕がある。
落ちたのは保健委員会の三反田数馬。
可哀そうなことに、彼は本日三個目の落とし穴に落ちている。
しかし、善法寺君に比べたら大した数ではない気もする。
一日を振り返ってみても、すごい運動をしたわけでもないし、冷水に浸かっていたわけでもない。
なぜ、こんなことを考えるのかというと、具合が悪いからだ。
幽霊が言ったらおかしな話だが、とても体調が悪い。
身体の異変に気付いたのはつい先ほど。
気のせいだろうと思っていたのだけど、どうにも頭が痛むし体が重たい。
それも、笑えないぐらい痛む。
私は実体が無いので、痛みや重さを感じたことがなかった。
だから、新鮮と言えば新鮮なのだが、どうにも辛い。
試しに額を触ってみるけど、本当の意味で熱は無い。
そもそも、幽霊も病気になったりするのだろうか?
考えてみても、その分だけ頭の痛みは増すばかり。
頭の内側から叩かれるような痛みに、私はじっとしていられなくなる。
ああ、痛い。
どうしよう。
どこか、痛みから逃れられる場所に行きたい。
私はだるい体を引きずって、のろのろと歩き出す。
苦しい、苦しい、痛い、痛い、――――。
久々知はぴっと人差し指を立てて話しだす。
「これは俺の憶測だけど、先生方はそんな術を知らないのかもしれない」
「知らない?」
三郎次が訊き返す。
久々知は癖のある黒髪を揺らして肯いた。
周りの三人の顔をぐるりと見まわし、声を潜めて続ける。
「つまり、泥棒が見たのは本物の幽霊だ」
タカ丸の表情が一瞬、陰った。
「で、でもどうして先生方は嘘をついたりしたんです?」
伊助は硝煙蔵の中をちらちらと見ながら言う。
ただでさえ薄暗くて気味の悪い蔵が、いっそう嫌な雰囲気を纏っている。
「そこがわからない。
単に生徒を怖がらせないようにっていう理由かもしれないが、それにしても上級生にまで嘘をつく必要はない気もする」
伊助と三郎次は黙りこくって小さくなっている。
そんな中、タカ丸が慌てて笑顔を作った。
「幽霊なんていないよ。兵助くんも考えすぎだって!」
「もしかしてタカ丸さん、幽霊が怖いんですか?」
あっけらかんと久々知が訊いた。
彼自身は幽霊に対して恐怖心を抱いていないようだ。
伊助と三次郎は何やら期待しているような顔でタカ丸を見つめる。
上級生の弱い面を見られることが、何となく嬉しいらしい。
タカ丸はうっと詰まった後、困り顔で笑った。
「あはは。実はまるっきり駄目なんだ」
「なんだあ。タカ丸さん、怖がりなんですね!」
伊助と三郎次が嬉しそうに笑い、久々知が「お前たちも怖がっていただろ」と苦笑い。
話は有耶無耶になった。
*
今日、一日の出来事
一年ろ組の生徒と日陰ぼっこ。
その際、伏木蔵と孫次郎がひゃっくりをした。
私の霊気を感じ取ったのかどうかは謎である。
その後、食堂のおばちゃんのランチの準備を眺める。
毎度のことながら、学園全員分の食事をあっという間に作ってしまう手際の良さに感動。
大量の野菜を根気良く切り、大鍋から立ちこめる湯気に汗を流す。
こんなに一生懸命作った料理なのだから、お残しは許されないのだと一人肯く。
のんびりとした昼下がり、山田先生のご子息である利吉さんが学園にやって来た。
小松田さんは憧れの利吉さんが来たことに大はしゃぎ。
二回転ぶ。
そそくさと入門票にサインをし、利吉さんは山田先生のもとへ。
きっと山田先生を家に帰るように説得しに来たに違いない。
夕方、喜八郎と落とし穴に誰が落ちるか見張る。
私はハラハラしながら口を押さえていたが、喜八郎は欠伸なんてする余裕がある。
落ちたのは保健委員会の三反田数馬。
可哀そうなことに、彼は本日三個目の落とし穴に落ちている。
しかし、善法寺君に比べたら大した数ではない気もする。
一日を振り返ってみても、すごい運動をしたわけでもないし、冷水に浸かっていたわけでもない。
なぜ、こんなことを考えるのかというと、具合が悪いからだ。
幽霊が言ったらおかしな話だが、とても体調が悪い。
身体の異変に気付いたのはつい先ほど。
気のせいだろうと思っていたのだけど、どうにも頭が痛むし体が重たい。
それも、笑えないぐらい痛む。
私は実体が無いので、痛みや重さを感じたことがなかった。
だから、新鮮と言えば新鮮なのだが、どうにも辛い。
試しに額を触ってみるけど、本当の意味で熱は無い。
そもそも、幽霊も病気になったりするのだろうか?
考えてみても、その分だけ頭の痛みは増すばかり。
頭の内側から叩かれるような痛みに、私はじっとしていられなくなる。
ああ、痛い。
どうしよう。
どこか、痛みから逃れられる場所に行きたい。
私はだるい体を引きずって、のろのろと歩き出す。
苦しい、苦しい、痛い、痛い、――――。
