長編 1ミリ上空の日々
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しかし、こうして歩いていてもちっとも記憶は戻らないし、その予感もない。
この学園らしき場所も庭も硝煙蔵も、初めて目にするものばかり。
自分がそこを歩く姿を想像してみても、顔の無い自分に何の思い出もない。
重いため息を一つ吐き、ため息ばかりは出るんだなとうんざりする。
その時、何やら子どもがはしゃぐ賑やかな声が聞こえてきた。
よし、行ってみよう。
私は声のする方へ駆けだした。
もしかしたら、自分を知る人が一人でもいるかもしれない。
廊下の角を曲がると、三人の水色の忍び装束の少年が大きな荷物を運んでいる最中だ。
危なげな様子でこちらへ向かって来る。
丸々とした子が「早く運んで食満先輩を驚かせようよ!」と足を速める、荷物の前を運んでいる少年のうちの一人も「うーん!それは名案だねえ!!」とぐんぐん進む。
するとその少年の隣の顔色の悪い子が「え、わ、ちょと早いかも~」と言って、よろりと足をもつれさせる。
「「「わああ!!!!」」」
危ない!
私は咄嗟にその荷物が傾いた下に走りこんで両手を広げた。
大きな板状の荷物が傾いたとき、被せられていた布がはらりと滑り落ちた。
深紅の布で覆われていたのは一枚の大きな鏡。
鏡面がゆっくり自分に傾いてきたとき、私はそれを受け止めるために伸ばした手のまま硬直した。
自分の目を疑う。
鏡は自分に触れる程近づいてきているのに、何も映っていない。
ただ、廊下を映している。
ふっと暗くなった後、耳を劈くような音が自分の真下から聞こえた。
足元には粉々になり、鋭利な切り口を剥き出しにした硝子の破片が散乱している。
大きな鏡が一枚割れたらその下にいた者は無傷では済まないはずだ。
なのに、どうして私は掠り傷一つ、切り傷一つ無いのだろう。
小さな痛みも、何かが触れた感覚もない。
割れた鏡の一つを覗きこんでも、自分の瞳は見つめ返さない。
少年たちがおろおろしていると、少し年上の丸い鼻の少年と緑の装束の少年が走ってきた。
「お前ら!怪我はしてないか!!!」
「「「け、食満せんぱーい!!!」」」
わらわらと駆けだした少年も、それを受け止める二人の少年も、この場にいる誰一人として私に気付いている者はいない。
私はその場にしゃがみ込んで、両手を床に突いて硝子に触れようとする。
でも、一欠けらも動かすことは叶わない。
破片を一枚ずつ上から覗き込んでも、どれ一つとして私を映す破片は無い。
今にも泣き出しそうな後輩を宥める食満という少年が、ふと割れた鏡の破片に視線を寄こした。
そして、一瞬、ぎょっとした顔をした。
「どうしたんです?」
丸い鼻の少年が小首を傾げて尋ねると、食満は私の足元の破片をじっと見つめて「今、鏡に……」と呟くように言った。
少年は私の足元の鏡を見て、それから私を見た。
「先輩、何か見えましたか?」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
こうして私は、この世のものではない自分を知る
この学園らしき場所も庭も硝煙蔵も、初めて目にするものばかり。
自分がそこを歩く姿を想像してみても、顔の無い自分に何の思い出もない。
重いため息を一つ吐き、ため息ばかりは出るんだなとうんざりする。
その時、何やら子どもがはしゃぐ賑やかな声が聞こえてきた。
よし、行ってみよう。
私は声のする方へ駆けだした。
もしかしたら、自分を知る人が一人でもいるかもしれない。
廊下の角を曲がると、三人の水色の忍び装束の少年が大きな荷物を運んでいる最中だ。
危なげな様子でこちらへ向かって来る。
丸々とした子が「早く運んで食満先輩を驚かせようよ!」と足を速める、荷物の前を運んでいる少年のうちの一人も「うーん!それは名案だねえ!!」とぐんぐん進む。
するとその少年の隣の顔色の悪い子が「え、わ、ちょと早いかも~」と言って、よろりと足をもつれさせる。
「「「わああ!!!!」」」
危ない!
私は咄嗟にその荷物が傾いた下に走りこんで両手を広げた。
大きな板状の荷物が傾いたとき、被せられていた布がはらりと滑り落ちた。
深紅の布で覆われていたのは一枚の大きな鏡。
鏡面がゆっくり自分に傾いてきたとき、私はそれを受け止めるために伸ばした手のまま硬直した。
自分の目を疑う。
鏡は自分に触れる程近づいてきているのに、何も映っていない。
ただ、廊下を映している。
ふっと暗くなった後、耳を劈くような音が自分の真下から聞こえた。
足元には粉々になり、鋭利な切り口を剥き出しにした硝子の破片が散乱している。
大きな鏡が一枚割れたらその下にいた者は無傷では済まないはずだ。
なのに、どうして私は掠り傷一つ、切り傷一つ無いのだろう。
小さな痛みも、何かが触れた感覚もない。
割れた鏡の一つを覗きこんでも、自分の瞳は見つめ返さない。
少年たちがおろおろしていると、少し年上の丸い鼻の少年と緑の装束の少年が走ってきた。
「お前ら!怪我はしてないか!!!」
「「「け、食満せんぱーい!!!」」」
わらわらと駆けだした少年も、それを受け止める二人の少年も、この場にいる誰一人として私に気付いている者はいない。
私はその場にしゃがみ込んで、両手を床に突いて硝子に触れようとする。
でも、一欠けらも動かすことは叶わない。
破片を一枚ずつ上から覗き込んでも、どれ一つとして私を映す破片は無い。
今にも泣き出しそうな後輩を宥める食満という少年が、ふと割れた鏡の破片に視線を寄こした。
そして、一瞬、ぎょっとした顔をした。
「どうしたんです?」
丸い鼻の少年が小首を傾げて尋ねると、食満は私の足元の破片をじっと見つめて「今、鏡に……」と呟くように言った。
少年は私の足元の鏡を見て、それから私を見た。
「先輩、何か見えましたか?」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
こうして私は、この世のものではない自分を知る
