長編 1ミリ上空の日々
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私は転がるように草むらから飛び出した。
そのまま走って逃げたかったが、恐怖からか足が立たない。
這ってでも逃げようとしていると、後ろから声を掛けられる。
「別に取って食おうってわけじゃない。まあ、落ち着きなよ」
その落ち着いた口ぶりに少し我に帰り、そっと後ろを見た。
さっきまで隠れていた草むらに一人の忍びが立っている。
見上げるほど背が高い男。
全身に火傷の痕が見え隠れし、顔や体を包帯で覆っている。
この学園の先生とは明らかに違う雰囲気。
それに小松田さんに気付かれることなく入ってきたようだし、かなりの手練だ。
「何この人、気味が悪い」
「――――あのねえ、聞こえてるんだけど」
「え?」
「だから、きみの声、聞こえてるんだけど」
「………な、なんだってー!!!!?」
雷にでもうたれたような衝撃を受ける。
まともに会話ができたことなんて、今まで一度もなかったのに……。
この人には私の声が聞こえている?
一体、どういうことだろうか。
昨夜に続き、私の何かが変わったのだろうか?
その人はやれやれとその場に腰を下ろした。
何故か横座りである。
しかもどこからともなく竹筒を取り出して、ストローで飲み始めた。
なんとなく、警戒心が薄れてしまう。
私は辺りを見回してから、ゆっくりとその忍びに近づいた。
小さく唾を飲み込み口を開く。
「あの、あなたは誰ですか?」
自分の耳に、自分の声が聞こえる。
ずっと聞いていなかったのに、その声は確かに自分のものであるとわかった。
声が出る。
自分の声が誰かに伝わるのって、とても嬉しいことなんだ。
私は緊張しながらも、一語一語きちんと発音する。
すると男はじろりと私を見て「私は曲者だよ」なんて答えた。
確かに曲者にしか見えない。
しかし私が聞きたいのはそこではなかった。
私の声を聞くことができる。
それって、つまり―――――――――
「あなた、幽霊なんですか?」
「違うよ。私は死んじゃいない。こんななりをしているけど、心臓は動いている」
検討が外れた。
幽霊同士だったら会話できるのかななんて思ったのだけど。
ならば、この人には俗に言う“霊感”というものを持っているのかもしれない。
しかし自ら曲者と名乗るあやしい男をこのまま放っておくことはできない。
私は意を決して口を開く。
「あの、ここから出て行って下さい。
ここにはお宝もないし、すごい秘密もないし…………。
とにかく、あなたの欲しがるようなものは無いと思います」
すると、男はストローから口を放した。
「きみが心配するようなことは何もしないよ」
嘘じゃない。
直感的にそう思った。
それに、もし嘘なら最初から私になんて声を掛けていなかっただろう。
「それより、きみこそ一体誰なんだい?死人ってことはわかったけどね」
曲者さんが今度は私に訊ねる。
しかし、私はその答えを持っていない。
「自分が何者か、知らないんです。
生きていた頃の記憶は一つもありません。ここで生活してたような気はするんですけど」
「なるほどねえ。でも、さっきの口ぶりからして、随分ここを気に入っているようだね」
「はい。
――――――あの、もし学園の誰かに用事で来たなら、私のことを話さないでほしいんです」
すると曲者さんはひらひらと手を振った。
「ああ。大丈夫。私はただ見ているだけだから」
私はほっとする。
でも、と曲者さんは続けた。
「でも、まだ安心するには早いよ。この学園の生徒は、中々賢いからね」
「―――そうですね」
ずずっとストローを吸った曲者さんは、どっこいしょと立ち上がる。
「じゃあ、またね。そろそろ人が来そうだし行くよ」
私は慌てて呼び止める。
「曲者さん!」
すると曲者さんは「まったく」というような顔で振り返る。
「曲者さんって……。まあ良いけど」
私は少し言葉に迷ってから口を開いた。
「私、どんなふうに見えますか?」
その問いに、曲者さんの目が少し和らいだ気がした。
「おんなのこ。この学園のどこにいたっておかしくない、おんなのこだよ」
だから、草むらから出ておいでよ。
そのまま走って逃げたかったが、恐怖からか足が立たない。
這ってでも逃げようとしていると、後ろから声を掛けられる。
「別に取って食おうってわけじゃない。まあ、落ち着きなよ」
その落ち着いた口ぶりに少し我に帰り、そっと後ろを見た。
さっきまで隠れていた草むらに一人の忍びが立っている。
見上げるほど背が高い男。
全身に火傷の痕が見え隠れし、顔や体を包帯で覆っている。
この学園の先生とは明らかに違う雰囲気。
それに小松田さんに気付かれることなく入ってきたようだし、かなりの手練だ。
「何この人、気味が悪い」
「――――あのねえ、聞こえてるんだけど」
「え?」
「だから、きみの声、聞こえてるんだけど」
「………な、なんだってー!!!!?」
雷にでもうたれたような衝撃を受ける。
まともに会話ができたことなんて、今まで一度もなかったのに……。
この人には私の声が聞こえている?
一体、どういうことだろうか。
昨夜に続き、私の何かが変わったのだろうか?
その人はやれやれとその場に腰を下ろした。
何故か横座りである。
しかもどこからともなく竹筒を取り出して、ストローで飲み始めた。
なんとなく、警戒心が薄れてしまう。
私は辺りを見回してから、ゆっくりとその忍びに近づいた。
小さく唾を飲み込み口を開く。
「あの、あなたは誰ですか?」
自分の耳に、自分の声が聞こえる。
ずっと聞いていなかったのに、その声は確かに自分のものであるとわかった。
声が出る。
自分の声が誰かに伝わるのって、とても嬉しいことなんだ。
私は緊張しながらも、一語一語きちんと発音する。
すると男はじろりと私を見て「私は曲者だよ」なんて答えた。
確かに曲者にしか見えない。
しかし私が聞きたいのはそこではなかった。
私の声を聞くことができる。
それって、つまり―――――――――
「あなた、幽霊なんですか?」
「違うよ。私は死んじゃいない。こんななりをしているけど、心臓は動いている」
検討が外れた。
幽霊同士だったら会話できるのかななんて思ったのだけど。
ならば、この人には俗に言う“霊感”というものを持っているのかもしれない。
しかし自ら曲者と名乗るあやしい男をこのまま放っておくことはできない。
私は意を決して口を開く。
「あの、ここから出て行って下さい。
ここにはお宝もないし、すごい秘密もないし…………。
とにかく、あなたの欲しがるようなものは無いと思います」
すると、男はストローから口を放した。
「きみが心配するようなことは何もしないよ」
嘘じゃない。
直感的にそう思った。
それに、もし嘘なら最初から私になんて声を掛けていなかっただろう。
「それより、きみこそ一体誰なんだい?死人ってことはわかったけどね」
曲者さんが今度は私に訊ねる。
しかし、私はその答えを持っていない。
「自分が何者か、知らないんです。
生きていた頃の記憶は一つもありません。ここで生活してたような気はするんですけど」
「なるほどねえ。でも、さっきの口ぶりからして、随分ここを気に入っているようだね」
「はい。
――――――あの、もし学園の誰かに用事で来たなら、私のことを話さないでほしいんです」
すると曲者さんはひらひらと手を振った。
「ああ。大丈夫。私はただ見ているだけだから」
私はほっとする。
でも、と曲者さんは続けた。
「でも、まだ安心するには早いよ。この学園の生徒は、中々賢いからね」
「―――そうですね」
ずずっとストローを吸った曲者さんは、どっこいしょと立ち上がる。
「じゃあ、またね。そろそろ人が来そうだし行くよ」
私は慌てて呼び止める。
「曲者さん!」
すると曲者さんは「まったく」というような顔で振り返る。
「曲者さんって……。まあ良いけど」
私は少し言葉に迷ってから口を開いた。
「私、どんなふうに見えますか?」
その問いに、曲者さんの目が少し和らいだ気がした。
「おんなのこ。この学園のどこにいたっておかしくない、おんなのこだよ」
だから、草むらから出ておいでよ。
