長編 1ミリ上空の日々
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「どうやら綾部の蛸壺に落ちたようですな」
「そのようですね」
穴の底で伸びている二人組を見下ろしながら、二人の教師が言葉を交わす。
二人の教師はとっくに眠っていたようで、寝間着姿に寝癖までついている。
しかし眠そうな様子は微塵もない。
「「「山田先生!土井先生!!」」」
三人は裸足で庭に駆け下りてくると、興奮した様子で山田先生に詰め寄った。
「さっきのなんていう術なんですか!!?」と乱太郎。
「僕たちにも見せて下さい!」としんべヱ。
「お化け屋敷のバイト、紹介しますよ?」ときり丸。
きり丸だけが「あへあへ」と目を小銭にして笑っている。
山田先生と土井先生は驚いたように顔を見合わせた。
土井先生はついでに、ぽかりときり丸の頭を小突く。
「お前たちが追っ払ったんじゃなかったのか?」
「「「え?」」」
次に、乱太郎、きり丸、しんべヱが顔を見合わせた。
土井先生が眉間にしわを寄せる。
「助けに入ろうと様子を見ていたら、急にこの男達の様子が変わったものだから。てっきりお前たちが何かしたのかと思ったんだ。
でも、―――違うんだな?」
「違います」と肯いた乱太郎が、いち早くその言葉の意味に気がつき、さっと顔色を変えた。
「そ、そそ、それって」
続いてきり丸も顔を真っ青に変え、ごくりと唾を飲む。
「このおっさん達が見たのって、ほ、ほほ本物の」
「え?本物って何が?」
しんべヱだけは唯一状況を把握できず、こくりと首を傾げる。
呑気なしんべヱに乱太郎ときり丸が「だから!!」と声を揃える。
「「だから、本物の幽霊だってこと!」」
「――――えええぇぇぇ!!?」
しんべヱはワンテンポ遅れて飛び上がった。
驚いた拍子に、鼻水が盛大に出る。
土井先生は鼻を拭いてやりながら小さく笑った。
「でも、お前たちを助けてくれたのだから悪い幽霊ではないみたいだな」
からかい半分なのか、少しおどけたような調子だ。
「「「笑い事じゃないですよ!!」」」
それをむきになって三人が言い返す。
学園の外で犬が遠吠えをした。
「こらこら、他の生徒が起きるから静かにしなさい」
山田先生がちょっと声を落として三人を宥めた。
*
そんなやりとりを、私は遠く離れた木陰からそっと窺っていた。
幽霊になって初めて人に見られたショックで放心していた。
なんだかとても疲れた。
だけど、三人が無事でよかった。
ほっとしたのも束の間、次に最悪な考えが浮上する。
盗賊を撃退したは良いけど、私(幽霊)が学園にいることがばれてしまった。
幽霊が憑いている学園なんて気味が悪い。
もし生徒たちの間に噂が広まったりしたら、絶対に私は怖がられる。
幽霊なんて、得体が知れなくておっかないもの。
みんなに怖がられたくなんかないのに。
*
「乱太郎、きり丸、しんべヱ、あれは私たちが盗賊に見せたものだ。土井先生もからかったりして、……良くありませんよ」
山田先生が呆れ混じりに言った。
一瞬の間。
土井先生は何か言いかけてから「いやあ、すいません。三人があんまり信じるもので――」とぼさぼさの頭を掻いた。
乱太郎、きり丸、しんべヱはからかわれたことに腹を立てるよりも、冗談だったことに安堵しようだ。
「土井先生のせいで寿命が縮んだじゃないですか!」なんて言いながら、笑い合っている。
三人ともすっかり安心した様子だ。
「さあ、後は私たちに任せて早く寝なさい。明日も授業だぞ」
「「「はーい」」」
子供たちを見送った後、土井先生が静かに口を開く。
「山田先生、まさか信じるのですか?」
問いかけられた山田先生は重々しくうなずく。
「この学園は心当たりがないとは言い切れない場所ですからな」
そう言葉を交わしたきり、二人は一切この話を続けようとはしなかった。
「そのようですね」
穴の底で伸びている二人組を見下ろしながら、二人の教師が言葉を交わす。
二人の教師はとっくに眠っていたようで、寝間着姿に寝癖までついている。
しかし眠そうな様子は微塵もない。
「「「山田先生!土井先生!!」」」
三人は裸足で庭に駆け下りてくると、興奮した様子で山田先生に詰め寄った。
「さっきのなんていう術なんですか!!?」と乱太郎。
「僕たちにも見せて下さい!」としんべヱ。
「お化け屋敷のバイト、紹介しますよ?」ときり丸。
きり丸だけが「あへあへ」と目を小銭にして笑っている。
山田先生と土井先生は驚いたように顔を見合わせた。
土井先生はついでに、ぽかりときり丸の頭を小突く。
「お前たちが追っ払ったんじゃなかったのか?」
「「「え?」」」
次に、乱太郎、きり丸、しんべヱが顔を見合わせた。
土井先生が眉間にしわを寄せる。
「助けに入ろうと様子を見ていたら、急にこの男達の様子が変わったものだから。てっきりお前たちが何かしたのかと思ったんだ。
でも、―――違うんだな?」
「違います」と肯いた乱太郎が、いち早くその言葉の意味に気がつき、さっと顔色を変えた。
「そ、そそ、それって」
続いてきり丸も顔を真っ青に変え、ごくりと唾を飲む。
「このおっさん達が見たのって、ほ、ほほ本物の」
「え?本物って何が?」
しんべヱだけは唯一状況を把握できず、こくりと首を傾げる。
呑気なしんべヱに乱太郎ときり丸が「だから!!」と声を揃える。
「「だから、本物の幽霊だってこと!」」
「――――えええぇぇぇ!!?」
しんべヱはワンテンポ遅れて飛び上がった。
驚いた拍子に、鼻水が盛大に出る。
土井先生は鼻を拭いてやりながら小さく笑った。
「でも、お前たちを助けてくれたのだから悪い幽霊ではないみたいだな」
からかい半分なのか、少しおどけたような調子だ。
「「「笑い事じゃないですよ!!」」」
それをむきになって三人が言い返す。
学園の外で犬が遠吠えをした。
「こらこら、他の生徒が起きるから静かにしなさい」
山田先生がちょっと声を落として三人を宥めた。
*
そんなやりとりを、私は遠く離れた木陰からそっと窺っていた。
幽霊になって初めて人に見られたショックで放心していた。
なんだかとても疲れた。
だけど、三人が無事でよかった。
ほっとしたのも束の間、次に最悪な考えが浮上する。
盗賊を撃退したは良いけど、私(幽霊)が学園にいることがばれてしまった。
幽霊が憑いている学園なんて気味が悪い。
もし生徒たちの間に噂が広まったりしたら、絶対に私は怖がられる。
幽霊なんて、得体が知れなくておっかないもの。
みんなに怖がられたくなんかないのに。
*
「乱太郎、きり丸、しんべヱ、あれは私たちが盗賊に見せたものだ。土井先生もからかったりして、……良くありませんよ」
山田先生が呆れ混じりに言った。
一瞬の間。
土井先生は何か言いかけてから「いやあ、すいません。三人があんまり信じるもので――」とぼさぼさの頭を掻いた。
乱太郎、きり丸、しんべヱはからかわれたことに腹を立てるよりも、冗談だったことに安堵しようだ。
「土井先生のせいで寿命が縮んだじゃないですか!」なんて言いながら、笑い合っている。
三人ともすっかり安心した様子だ。
「さあ、後は私たちに任せて早く寝なさい。明日も授業だぞ」
「「「はーい」」」
子供たちを見送った後、土井先生が静かに口を開く。
「山田先生、まさか信じるのですか?」
問いかけられた山田先生は重々しくうなずく。
「この学園は心当たりがないとは言い切れない場所ですからな」
そう言葉を交わしたきり、二人は一切この話を続けようとはしなかった。
