短編
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
かくれんぼをしていた。
小川の岩陰に身を潜め、私はどきどきしながら耳を澄ましている。
小さな足音が近寄ってきて、また遠ざかる。
どうやら、鬼役の友達は他を探しに行ったようだ。
口元を押さえていた手を放し、改めて自分の周りを見回してみる。
おかっぱにした髪が顎の下で揺れる。
隠れるために咄嗟に滑り込んだ岩場の陰に青紫の花が一輪咲いていた。
それはそれは美しい色で、私はついその花を摘み取った。
後でみんなにも見せてあげよう。
私は早くみんなに美しい花を見せたくて、鬼役の子が早く自分を見つけてくれれば良いのにと思った。
岩陰からそろっと顔を出してみる。
すると、そこに一人の男が立っていた。
鬼役の子でもなく、他の遊び仲間でもなかった。
思わず立ち上がってしまう。
―――――こんな美しい人は初めて見た。
一目で忍者の装束だとわかったが、この人は本当に忍者なのだろうか。
それとも、どこぞの役者か何かだろうか。
思わず、見いってしまう。
その人もじっととこちらを見ていた。
別段驚いた風でもなく、草むらから顔を覗かせた動物を見るような眼で私を見ている。
その瞳を、人間に見つかり怯えた動物のような眼で私は見つめ返す。
私よりずっと長くて美しい黒髪が風に舞う。
「遊びの邪魔をしたな」
すっとした目や、色の白いお顔からは想像できないほど優しい声だ。
「……………」
私が口を引き結んで突っ立っていると、その美しい人は足音一つ立てずにこちらに歩み寄ってきた。
近くによって気が付いたが、緑色の装束には黒い汚れがあった。
もしやと思い視線をずらせば、その美しい人の指の先にもその色は見受けられた。
私の視線に気付き、そっと手を後ろにしまった。
それから、私を驚かせないようにゆっくりとしゃがみ、目を合わせてから言った。
「――――ここで私を見たこと、誰にも言わないと約束してくれるか?」
きっとこの美しい人は人を殺した帰りで、その返り血を洗うためにこの小川に来たんだ。
さらさらと流れる川の音を聞きながら、私はやけに冷静に理解した。
そして、小さく肯いた。
それを見て美しい人はにこりと笑い、私の頭を撫でようと汚れていないほうの手を伸ばす。
突然の行動に私は少し身を竦めてしまった。
私の頭に触れかかっていたほっそりした指が遠ざかる。
美しい人は「すまない」と言って、悲しそうに微笑んだ。
その瞬間、私もひどく悲しかった。
怖がったんじゃない、汚いなんて思ったわけじゃない。
少し驚いてしまったの。
去ろうとするその人にどうしてもわかってほしくて、私は声を絞り出す。
「あ……あの」
小川のそばのくるくるとした風に、糸のような髪が靡いた。
私はそばに駆けよっていて、美しい人に一輪の花を差し出した。
「………よいのか?」
花を受け取りながらその美しい人が言った。
私は強く肯く。
その青紫の花がとてもその人に似合っていて、私は思わず「きれい」と口に出して言っていた。
切れ長の目が丸くなって、そして細められた。
「ありがとう」
美しい人はそう言って笑うと、一陣の風と共に姿が見えなくなった。
まるで、夢でも見ていたよう。
美しい人が消えた場所をぽかんと眺めていたら、後ろから肩を叩かれた。
「みーつけた!」
私は今さっき起こったことを胸の中にしまうと、今度は鬼になるべく友達のあとを駆けだした。
美しい花が咲いていたことも、誰にも言わなかった。
