長編 1ミリ上空の日々
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並んで廊下を歩いても、向かいの窓から手を振っても、あなたたちは私に気付かない。
ときどき寒そうに背を震わせるけど、まさかそれが私の所為だとは思わない。
だって、私は、幽霊だから。
私はこの学園に留まり続けている。
おそらく、ここで死んだのだろうとは思うけれど、どうして死んだのかは思い出せない。
もう色々な意味で終わったことだし、今ではどうでも良くなってしまった。
まず、幽霊である己を自覚するところまで遡る……。
気がついたら桜の木の下に立っていて、ぼんやりと散る花を眺めていた。
はらはらと舞い散る花弁を目で追いながら、ふと「ここはどこだろう」という疑問がわいた。
それと同時に「何の途中だったのだろう」と頭を巡らす。
しかし、私の頭は空っぽで、いくら頭を悩ませても答えは出なかった。
そしてそればかりか、私は自分のことさえ何も思い出すことはできなかった。
名前も顔も生れも、声さえもわからない。
私は試しに「あ」と喋ってみた。
口が開き、喉も震えるが、音は出ない。
腹に力を入れ、すっと息を吸いこんで吐く。
「―――――――――。」
困ったことになったとは思ったが、実感がわいてこなかった。
とにかく、誰か私を知っている人を探そう。
そう思い立ち、桜の木を離れる。
少し行くと忍び装束を着た少年を見つけた。
何やら喧嘩をしているようで頭を突き合わせて怒鳴っている。
「私の方が素晴らしい!!」
「いいや、私の方が上だ!!」
会話からお互いが結構な自惚れ屋なのだとわかる。
しかも円形の手裏剣や石火矢を持ち出しているので危なっかしい。
その横で、隣の諍いを屁でもないように無視し、地面を掘り返している少年が目に入った。
わざわざ喧嘩の仲裁をするのも面倒なので、私はそちらの少年に近づいた。
しかし、余程熱心に穴を掘っているためか、私が傍に行っても顔すら上げない。
声を掛けようとしたところで、声が出ないことを思い出した私は、その少年の顔の前で手を振った。
それでも、規則正しい穴を掘る音は止まらない。
少しくらい手を止めてくれたっていいじゃないかと、私は憤慨してその少年の肩に手を伸ばしかけた。
するとようやく少年が顔を上げる。
ほっとした私がどこからどう伝えようかと逡巡した矢先、後ろで「わぁ!」と叫び声が聞こえた。
驚いて振り返ると、さっきまで地面だった所に大穴が開いていて、中から呻き声が聞こえる。
穴の周りに散らかっているのはトイレットペーパのようだ。
「大―成功」
穴を掘っていた少年が少しも嬉しくなさそうにそう言うと、ひょいと穴から出てさっさと歩いて行ってしまう。
とことん無視された私はむっとなり、歩く少年の腕を掴もうとした。
でも少年はぐんぐん進んでいってしまい、あと一歩のところで手が届かない。
こんちくしょうと思いながら、私は彼の後ろを追いかける。
しばらく歩いて、少年はある部屋の引き戸を開けた。
すると部屋の中から「遅いぞ喜八郎。委員会はとっくに始まっているぞ」と言う声。
どうやらこの少年、委員会があったために急いでいたようだ。
まあ、それなら仕方ないか。
少年の肩越しに中を覗くと、先輩らしき髪の長い少年が、きりりとした切れ長の眼でこちらを見上げている。
奥にはさらに後輩らしい三人の少年がいた。
「すみませーん」
綾部と呼ばれた目の前の少年が間延びした声で謝り、長い髪の少年が気を取り直すように「さて、始めるぞ」と声をかける。
私はそれを障子の向こう側で聞いていた。
驚いたことに、綾部は私が入ろうとするのを無視して引き戸を閉めてしまったのだ。
これは一体、どうしたものか。
もしや、私は記憶を無くす前、綾部に酷いことをして嫌われでもしたのかもしれない。
そうなると、このまま廊下に突っ立っていても埒が明かない。
綾部のあの取りつく島もない態度では、きっと話も聞いてもらえないだろう。
私の以前を知る人物に会って、何があったのか聞こう。
そう思い立ち、私は当てもなく歩き出した。
ときどき寒そうに背を震わせるけど、まさかそれが私の所為だとは思わない。
だって、私は、幽霊だから。
私はこの学園に留まり続けている。
おそらく、ここで死んだのだろうとは思うけれど、どうして死んだのかは思い出せない。
もう色々な意味で終わったことだし、今ではどうでも良くなってしまった。
まず、幽霊である己を自覚するところまで遡る……。
気がついたら桜の木の下に立っていて、ぼんやりと散る花を眺めていた。
はらはらと舞い散る花弁を目で追いながら、ふと「ここはどこだろう」という疑問がわいた。
それと同時に「何の途中だったのだろう」と頭を巡らす。
しかし、私の頭は空っぽで、いくら頭を悩ませても答えは出なかった。
そしてそればかりか、私は自分のことさえ何も思い出すことはできなかった。
名前も顔も生れも、声さえもわからない。
私は試しに「あ」と喋ってみた。
口が開き、喉も震えるが、音は出ない。
腹に力を入れ、すっと息を吸いこんで吐く。
「―――――――――。」
困ったことになったとは思ったが、実感がわいてこなかった。
とにかく、誰か私を知っている人を探そう。
そう思い立ち、桜の木を離れる。
少し行くと忍び装束を着た少年を見つけた。
何やら喧嘩をしているようで頭を突き合わせて怒鳴っている。
「私の方が素晴らしい!!」
「いいや、私の方が上だ!!」
会話からお互いが結構な自惚れ屋なのだとわかる。
しかも円形の手裏剣や石火矢を持ち出しているので危なっかしい。
その横で、隣の諍いを屁でもないように無視し、地面を掘り返している少年が目に入った。
わざわざ喧嘩の仲裁をするのも面倒なので、私はそちらの少年に近づいた。
しかし、余程熱心に穴を掘っているためか、私が傍に行っても顔すら上げない。
声を掛けようとしたところで、声が出ないことを思い出した私は、その少年の顔の前で手を振った。
それでも、規則正しい穴を掘る音は止まらない。
少しくらい手を止めてくれたっていいじゃないかと、私は憤慨してその少年の肩に手を伸ばしかけた。
するとようやく少年が顔を上げる。
ほっとした私がどこからどう伝えようかと逡巡した矢先、後ろで「わぁ!」と叫び声が聞こえた。
驚いて振り返ると、さっきまで地面だった所に大穴が開いていて、中から呻き声が聞こえる。
穴の周りに散らかっているのはトイレットペーパのようだ。
「大―成功」
穴を掘っていた少年が少しも嬉しくなさそうにそう言うと、ひょいと穴から出てさっさと歩いて行ってしまう。
とことん無視された私はむっとなり、歩く少年の腕を掴もうとした。
でも少年はぐんぐん進んでいってしまい、あと一歩のところで手が届かない。
こんちくしょうと思いながら、私は彼の後ろを追いかける。
しばらく歩いて、少年はある部屋の引き戸を開けた。
すると部屋の中から「遅いぞ喜八郎。委員会はとっくに始まっているぞ」と言う声。
どうやらこの少年、委員会があったために急いでいたようだ。
まあ、それなら仕方ないか。
少年の肩越しに中を覗くと、先輩らしき髪の長い少年が、きりりとした切れ長の眼でこちらを見上げている。
奥にはさらに後輩らしい三人の少年がいた。
「すみませーん」
綾部と呼ばれた目の前の少年が間延びした声で謝り、長い髪の少年が気を取り直すように「さて、始めるぞ」と声をかける。
私はそれを障子の向こう側で聞いていた。
驚いたことに、綾部は私が入ろうとするのを無視して引き戸を閉めてしまったのだ。
これは一体、どうしたものか。
もしや、私は記憶を無くす前、綾部に酷いことをして嫌われでもしたのかもしれない。
そうなると、このまま廊下に突っ立っていても埒が明かない。
綾部のあの取りつく島もない態度では、きっと話も聞いてもらえないだろう。
私の以前を知る人物に会って、何があったのか聞こう。
そう思い立ち、私は当てもなく歩き出した。
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