幼馴染はゲイでした
メールをしても電話をしてみても、沖田からの返事が来なくなって3日が過ぎた。元気にしてるのかそれすら分からない。クラスの連中も沖田の無断欠席を心配していた。
「上の空だね。そんなに心配だったら家にいってみたら?」
一緒に帰っている最中の彼女に言われたのだった。何を話しかけても適当な相槌を繰り返す俺に痺れを切らしたのかもしれない。
「...悪い。行ってくる」
恐らく今回の原因は俺だろう。会ってくれる保障はないがもやもやしたままでいるのは嫌で提案通り直接家に行ってしまう事にした。
何故家に行くと言う手段が真っ先に出てこなかったのか。言われるまで考えもしなかった。
慌てて走った末に辿り着いた沖田の家。
入るのを躊躇ってしまうのは沖田を傷つけた自覚があるのと、もう何年も来ていなかったから。
最後に来たのは中学一年生の冬で、もう五年も来ていなかったのだ。
恐る恐るインターフォンを鳴らす。
階段を降りてくる音が聞こえた為待つ。人の家に行くのに、こんなに緊張した事はない。
「なんだよ姉ちゃん、忘れ物?」
なんて声を掛けたらいいんだろうと悩んでた矢先、声の主は玄関の戸を開けると驚いていた。
「...十四郎だったんだ」
姉ちゃんが戻ってきたのかと思った、と沖田は言う。よく見ると目を潤ませ顔は赤い。時折ゴホゴホと咳をしている。
「総悟、風邪引いてんのか」
「まあ。...起きてんのしんどいから話すなら上がって下せェ」
「ああ。邪魔する」
ふらふらの足取りの沖田に続いて歩く。支えようと伸ばした手を、触るなと言った沖田を思い出し引っ込める。
そうこう思考を巡らせている内に部屋の前までつくと、沖田はドアを開けた。
「適当に座って。俺は悪いけど横になりまさァ」
寝間着のままの沖田はベッドに横たわった。
「無神経な事して悪かった」
テーブルの傍に腰を下ろしては、沖田の方に体を向けて頭を下げる。沖田は疑問符を浮かべた様子をすると少し考えて、ああと納得したように口を開いた。
「俺が学校休んだのはこの通りアンタのせいじゃない」
その言葉に顔を上げれば沖田と目があった。
「怒ってないのか?」
「俺がそんな事で十四郎と離れる訳ないだろィ。逆に気持ち悪いもん見せちまったから、離れていくと思ってた」
沖田は沖田で俺が離れていくんじゃないかと思っていたらしい。同じ様な事で悩んでいたなんて。お互い似た者同士だ。
「離れていくわけねえだろ。馬鹿。お前熱は?」
「分かんねえ。数字見たら具合悪くなりそうだったから測るのやめた」
辛そうにしている沖田の額に手を当てると、まだかなり熱い。
「十四郎の手冷たくて気持ちいい」
触れてしまってから、またやってしまったと思ったのに今日の沖田はうっとりと目を閉じた。
無防備な姿に不覚にも可愛いと思ってしまった。
「姉貴は?」
思考を紛らわす為に首を振り、沖田の唯一の肉親の行方を伺う。
「今日から出張みてえ」
金曜日だというのに急な出張だと言う。ということは体調不良の沖田は家に一人で過ごさなくてはいけない。
風邪を引くと心細かったりするし、何より心配だった。
「...泊まって行ってもいいか?」
うちに連れて行くには体調的にもきついだろうしと話してみる。
「ゴホッ...風邪感染るし帰んなせェよ」
何でこんな時まで俺の心配なのだろう。きついのはお前の方なのに。
「今一緒にいるんだから変わらねえよ」
感染るからと理由で食い下がるつもりはなかった。
「布団だって余分なのないし」
姉ちゃんの部屋勝手に入れるわけにも、と口籠る沖田。
「布団も要らねえし、ここで大丈夫だから」
そう言えば沖田は少し考えた後、わかったと了承した。
流石に人ん家で色々世話になるのも申し訳ないと思い、一時帰宅する事にした。