幼馴染はゲイでした
「ふぁーよく寝た」
昼休みの屋上でずっと眠っていた沖田が伸びをする。
「寝すぎだよ、お前」
フェンスに寄りかかり腰を下ろす俺の隣に沖田は移動して座る。
昼休みに屋上にくる輩は今では自分達しかおらず二人だけの空間になっていた。
「寝不足だったんでィ。寝かしてくんねえから」
再び欠伸をしながら、昼食用の焼きそばパンのビニールを破り口にする沖田。
「随分積極的な彼女なんだな、今度の子」
顔を思い浮かべて人は見かけによらないな、なんて思いながらペットボトルのお茶を飲む。
「女じゃなくて男。察しろ土方コノヤロー」
男と言う言葉に口に含んでいたお茶を吹き出してしまう。ついでに器官の変な所に入ってしまったようでゴホゴホ咽せた。
沖田は呆れた顔をして俺の背中をさすった。
「わ、悪ィ。現実味がなくてつい」
男が好きと言われていたにも関わらず、男性同士の関係を想像した事が無かったのだ。当然の反応だろう。
「これが俺の現実。仕方ねえだろ、女じゃ勃たないんだから」
いきなり性事情を突きつけられても反応に困る。今までは言わなかった癖に。勿論、俺も沖田に言った事はない。
「勃たないって彼女とする時どうしてんだよ」
我ながら突っ込んだ質問をしてしまった。友人の事情など知ってしまっては気まずい。
「...好きな奴としてんの想像するしかねえだろィ」
それでも失敗もある、と沖田は悲しげな表情を浮かべた。同性愛者の恋愛事情は複雑だ。沖田にこんな顔をさせるんだから。
「男とすれば違うのか?...何で好きでもない奴となんか...」
言いかけた言葉に沖田が立ち上がる。
「何も分かってない癖に無神経ですぜ。...俺だって好きな奴としてえ。けど、相手がノンケなら叶わないだろッ!男の体の方が感触だったり想像しやすい、それだけでさァ!十四郎には分かんねえよ」
声を荒げて話す沖田は普段のクールな一面からはかけ離れていた。拳を握りしめて、辛そうに内面を吐き出す。
「総悟ごめん。余計な事言って」
もしかしたら泣いてしまうんじゃないかって位沖田の体が震えていて、俺は立ち上がると無意識の内に抱きしめていた。
沖田は目を見開いて驚いた様子を見せるも、俺の胸に顔を埋めたのだ。何すんだって突き飛ばされると思っていたのに、素直な沖田に少しだけ優越感が湧いた。弱さを見せない沖田だから頼って貰えるのはある意味特別なんだって。
暫くそのままで居ると、いつ離れればいいんだと今度はタイミングを見失う。勢いとは恐ろしい。同性とこんなに近い距離にいるのは初めてだった。
思わず抱き締めてしまったのは、余りにも沖田が弱々しく見えてしまったからなんて言い聞かせた。
そしてある感触に気が付いてしまった。よく知った硬いこれは敢えて見なくても正体が分かってしまう。
「総悟?...これ」
「十四郎、ちょっと離れて」
あからさまに反応する俺に沖田は静かに言った。そして離れる二人の体。
沖田の股間をみて唖然とする俺は力なく地面に座り込んだ。
「だから、俺はゲイなんだって。あんな風にされたら...ッ。頼むから、無闇に触らないで下せェ!」
股間を隠すように俺に背を向けると、沖田は急ぎ足で屋上から出て行った。その様子を呆然と見つめながら座ったままの俺。
「クソッ、また無神経な事しちまった」
空を見上げては溜め息を漏らした。
その日から沖田は学校に来なくなった。