幼馴染はゲイでした
先日カミングアウトをした沖田は、また彼女を作ったらしい。新しい彼女と仲良く登校してきたのが、俺の座る窓際の席から見えた。
「沖田くん、また新しい彼女出来たんだね」
それは隣に座る女子生徒、佐藤の目にも写っていたようで、呟くように口にした。
「みてえだな」
沖田の話題だったから何となく俺も答えた。
「本当モテるよね。それで鼻に掛ける訳でもないし。優しいし」
甘ったるい声で話す佐藤。確かにアイツは本来優しい。上手く表現出来ないだけで。
「沖田くんがクラスで彼女作らない理由、土方くん知ってる?」
今まで一度もクラスの女子は対象になった事がないと佐藤は話を続けた。
「たまたまなんじゃねえの?」
なんて答えながら言われるまで気が付かなかった。思い返してみれば、クラスの女と交際しているのは見たことがない。
「それがね、告白して振られた子何人かいるんだよ」
具体的に名前を出さなかったものの、その話は意外だった。来る者拒まず精神だと思っていたからだ。
「俺にはアイツの考えなんざ分かんねえよ。総悟の事知りたきゃ、本人に聞けよ。好きなんだろ?」
沖田の話をしている時、目が生き生きとしてるような気がして聞いてみると目を丸くして俺を見る。
「誤解産んだかもしれないけど、私が好きなのは...」
佐藤が言いかけた言葉は、教室に現れた沖田に寄って遮られた。クラスの連中に適度な会話をしながら、窓際までやってきた。
「十四郎、おはよ」
声を掛けてから前の席に鞄を置き、椅子に座って椅子ごと振り返る。
「はよ。総悟」
目の前に座る沖田から、言いかけた言葉を飲み込んだ佐藤に視線を向ける。俺の意図がわかったのか、彼女は黙って首を振った。今は言わないと言う事らしい。
「朝から何の内緒話してたの?」
その様子を沖田は見ていたらしく、俺ではなく佐藤に問い掛けた。
「沖田くんが朝一緒に居たのは彼女さんかなって話よ」
当たり障りない話題に変えて沖田に答える。
「ああ。新しい彼女」
否定する訳でもなくあっさりと認める沖田に、これがカモフラージュかなんて内心思う。
「やっぱり。本当モテるね」
「女受けはいいみたいでさァ」
冗談めかしく笑う沖田の目は笑っていなかったのだ。皮肉なもんで、本当に好きな奴には振り向いてもらえないと言う沖田の気持ちを聞いてからは女受けなんて単語は望まないものだろう。
「朝の奴は後輩か?」
同じ学年では見かけない女だったからと言えば意外そうな顔をして沖田は口を開いた。
「あの子、アンタの彼女の友達なんだけど...」
「え?」
「よく一緒に居んだろ。それくらい見とけよ」
移動教室だったりで校内でもすれ違う事はある。だが、隣にいる友達まではちゃんと見ていなかったのだ。一緒に帰る時も校門で一人で待ってる事が多かったから尚更。ということは沖田の彼女も一つ後輩に当たる。
「えー!土方くんも彼女居たの?」
知らなかったと口にする佐藤。
「そうですぜ。だから狙ってる奴は諦めねえとな」
「なんでお前が答えんだよ。俺の勝手だろうが」
「ふーん。浮気でもするつもりで?」
「しねえよッ!」
含みを感じるものいいが引っ掛かったものの、授業か始まってしまった為、一旦会話を止める。
前に座る沖田は欠伸をしながら怠そうに机に置き去りにされている教科書を出した。俺も鞄から取り出し机に置く。隣の席の佐藤は何やら机を漁っている様子が伺えた。
「忘れたのか?」
そんな気がして聞けば黙って頷く。
「ごめん、見せてもらってもいい?」
断るまでもない話だったから、教科書を中央に寄せてページを開こうとすると、沖田が後ろ手で佐藤に自分の教科書を差し出した。
「俺寝るから使って」
「あ、ありがとう」
手元から教科書が離れると沖田は机に伏せた。寝不足だか、なんだか知らないが午前中の授業で沖田が目覚めることはなかった。