幼馴染はゲイでした
保健室のドアを開ける。たまたまなのか先生は不在だった。
並べられたベッドを見ると、一箇所だけ膨らみがある。
「総悟か?」
声を掛ければ布団の中に居る主はもぞもぞと動いた。沖田かもしれないし、違う人物かもしれない。
一つのベッドに近付いた時、さらりとした栗色の頭が覗いた。学校内にその髪色の人物は該当者は居ない。
「総悟」
返事は返ってこないのを覚悟で、もう一度名前を呼んだ。
「...何できたんでィ」
布団を掛けていた所為で篭った声が発せられた。
横たわっていた沖田は俺の気配を感じ取ると、背を向けるように寝返りをする。それでも近くまで行くと付近にある椅子に腰を下ろした。
「お前が心配だからだ」
純粋に心配なのもあるが、折角の機会を逃したくない。腹を割って話してくれるのに望みを掛けて話すチャンスは今しか無さそうな気がした。
「俺はお前と離れたくない。頼むから理由を言ってくれよ」
ちゃんと話してくれたなら俺だって納得出来る。よく分からないまま離れていくのは嫌だった。
「言ったろィ。アンタの事嫌いだって。理由はそれだけでさァ」
前回嫌いだと言われた時と違って今回は淡々と機械的に言われる。よくよく考えてみればそこに本音は隠されているように感じたのだ。
「お前俺になんか隠してんだろ」
顔には出難い沖田ではあるが、長年の付き合いもあり、建前なのだと思った。確証はないのだが。
「別に」
「ちゃんと会話しろよ!」
嘘がばれないようにする時、沖田は口数が極端に減る癖がある。多くを語らず真意を掴み難くする為だ。隠し事があるのが分かっただけでも十分な収穫だった。
「何でそこまで俺に拘んの?」
「俺にとって大事な存在だから」
掛け替えのない存在なんだ。他の誰でも沖田には変えられない。
俺の言葉を聞くと沖田が勢いよく上半身を起こした。突然の動きに驚く俺を蘇芳色の瞳が見据えた。
「そんなに大事だって言うなら、俺の舐めろよ」
「なッ...」
言葉に詰まる俺に沖田は構わず続けた。
「そしたら友達に戻る。じゃなかったら今度こそ離れる。好きな方選べよ」
無茶苦茶な選択を突き付けられているのに、何故か俺に迷いは無かった。
「...分かった」
布団を捲り、靴を脱いでベッドに上がる。俺の行動に沖田は目を見開いて硬直している。構わず沖田の足の間に入り込む。
此処は学校で保健室の先生だっていつ戻るか分からない。何より同性のものなど触れたことも無いのに、更に上を行く要求に応えようとしている。抵抗しか無い。
了承してしまった手前引き返せないのだが未知の世界に無意識に手が震える。
ゆっくりと手を掛けた沖田の制服のズボン。カチャカチャと無機質な音を立ててベルトを外す。沖田の刺さるような視線。初めての行為を見られている。
「見んなよ!」
「別にいいでしょ。早くしてよ」
急かすように促され、ズボンのチャックを下ろす。隙間から覗くS柄の下着に、これからの事を想像して赤面する。
なんでこうなってしまったのだろう。今まで通り友人として仲良くしていきたい。ただ、それだけなのに。
もう、叶わないのだろうか。
切なくなる。だが、今は要求をのまないと本心を探れない。意を決して下着をずらそうと手を掛けると、途端に体に走る衝撃。
突き飛ばされたのだと理解した。
「いい加減にしろよ!理不尽なこと言われてんだから俺を罵倒すればいいだろッ!何で素直に従ってんでさァ!」
「お前が言ったんだろ。何で抵抗すんだよ!」
怒り出す沖田に俺も負けじと言い返す。
「本当はこんなの望んで無いだろ。アンタびびってんじゃん。俺はそんなの望んで無い」
冷静を取り戻したのか平常の口調で答える。御見通しとは流石に洞察力は優れている。
「それは仕方ねェだろ。した事ねえんだから」
未体験でしかも相手は男で、いきなり手慣れた口淫など出来るはずもない。それをしようと決心したのに止められた俺の気持ちも考えて欲しい。
「...これで分かったろ?俺は最低な奴なんでさァ」
沖田は布団から出ると、保健室の入り口まで歩いた。もう会話をする気もないというように。
「俺は最低だなんて思っちゃいねえ」
俺の言葉に沖田が振り返る。
「十四郎はつくづく俺に甘いよ。だけど、もう構わないで下せェ」
それだけ言うと沖田はパタンと扉を閉めて去って行った。修復不可能だと悟った俺は追い掛ける気力を失ったまま、座り込んでいた。
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