幼馴染はゲイでした
休日は無気力だった。精神的にショックで何もやる気が起きない。普段はあまりみないスマホをチェックしては沖田から連絡が来るのを待っていた。当然ながら来ることは無かったのだが。
憂鬱な気持ちのまま教室の座席に顔を伏せた。気まづいなんてもんじゃないが、一度休んでしまったら来ることを躊躇ってしまいそうで怖かった。
もうじき奴が登校して来る時間。顔を合わせても声を掛ける事すら出来ないのだろうか。
どんな顔をしたらいいのか、声を掛けてもいいものか、頭の中はぐるぐると考え事で一杯だった。
今までの関係もこれで終わりなのかと思うと溜め息しか出ない。
どちらかというと嫌がらせとかしてくるのも沖田で、俺には嫌われる理由なんて思い浮かばない。知らず知らずの内に沖田を傷付けてきたんだろうか。
机に伏せたまま窓から空を見る。生憎の曇り空で今にも雨が降り出しそうな色をしていた。
「沖田くん、おはよう。久しぶりだね」
隣に座る佐藤が声を掛けた事で、沖田が席までやってきた事に気付く。だが、顔は上げられない。
「はよ」
短く挨拶だけすると椅子を引く音が耳に届いた。座ったのだろう。
話しかけることも出来なければ、声を掛けられることも無く時間が流れ、俯いたまま一限目が始まる。
流石に顔を上げるも、まるで音の無い空間にでも来てしまったかのように耳に周囲の音が入って来なくて、机に出した教科書をぼんやり見ていた。
そこに隣から伸びる一枚のメモ帳が机に差し出される。
"沖田くんと喧嘩でもしたの?"
綺麗な文字で書かれたメモにはそう書いてあった。思わず佐藤を見ると、困ったような表情を浮かべジェスチャーで書く動作をしてみせた。
ああ、と納得した俺はシャーペンを握った。
"まあ、そんなところ"
深くは話せないから当たり障りのない事を書いて佐藤に手渡す。受け取った彼女は紙にすらすらと何かを書いている。
少しは授業も聞かないとと黒板の方を見てノートを取る。集中力の欠けている頭で黙々と写していると再びメモが来る。
"土方くんも、沖田くんも様子が変だったから。二人ともなんか寂しそう。機会作ってちゃんと話した方がいいと思うよ"
メモを手に小さな声でありがとうと言えば、佐藤は微笑んだ。
その瞬間前方からガタッと物音がする。音の出所に顔を向ければ、すぐ近くだと分かった。沖田が立ち上がったのだ。
「先生、まだ体調が優れてないんで保健室行ってきやす」
足早に歩き出す沖田に教師も素っ頓狂な声を上げ、教室から出ていく様を見送っていた。
あいつまだ本調子じゃなかったのか。なんて思っていると佐藤が口を開いた。
「多分、私が原因作っちゃったかな?」
佐藤に原因があるとは思えない。それに体調不良を訴えてたじゃないか。
「いや、あいつ調子悪いって」
すぐさま否定する。
「顔見ればわかるよ。やっぱりちゃんと話した方がいいと思う」
「けど、今は...」
「大丈夫。二人の世界には誰も割り込めない空気感あるから。だから、行ってきなよ」
「ああ」
立ち上がると同様に体調不良を告げて教室を後にした。