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幼馴染はゲイでした



「俺、男しか愛せないんでさァ」

また別れちまったのかなんて会話をしていた矢先、沖田は平然といつもの様な軽い口振りでそう言ってのけた。何でもないただ同じ帰宅路を共に歩いている時に。俺は一瞬、なんて反応をしたらいいのか戸惑い黙ってしまったのだ。そんな俺に沖田の口元は半月を描いて笑う。

「安心して下せェよ。別にアンタをどうこうしようだなんて思っちゃいねえ」

好みじゃないし、と続けて俺より数歩先を歩く沖田。何故このタイミングで打ち明けてきたのか、それともいつもの冗談なのか真意は分からない。

「お前、彼女居たじゃねえか」

容姿の良い沖田は良くモテた。長く交際が続いた事は一度も無かったのだが、彼女が常にいたのだ。クラスメートはそれを羨んでいた。誰しもが沖田を女好きとまではいかないが、至って普通の恋をする人間だと思っているに違いない。

「ああ、それはね。カモフラージュ。そっちの方が都合が良いんで」

完全に思考が追いつかない俺に沖田は言った。

「そこまでして隠していたのに、なんで俺に言ったんだよ」

周りの奴らにバレないように、彼女まで作って装っていた奴が突然打ち明けたのだ。幼い時から付き合いがあるとはいえ、人には話しにくい類の内容である筈なのに。

「...誰かに聞いて欲しかったのかもねィ。気持ち悪いだろ?男が男を好きだなんて」

自傷気味に放たれた言葉に胸が痛んだ。冗談で言っている訳ではないと感じてしまったから。きっと自分自身でも悩んで、助けを求めているようなそんな気がしたんだ。

「驚きはしたがな、否定はしねえよ」

先を歩く沖田まで駆け寄ると頭に手を伸ばして、さらさらした髪をわしゃわしゃとかき混ぜた。

「何すんでィ。無闇に触んな」

手を払いのけて俺を睨み付けるも、振り返った沖田の表情はどこか穏やかだった。肩の荷が下りたとでも言うように。

「はいはい。悪かったよ」

「思ってねえだろィ」

「別に悪い事してねえからな」

「土方のくせに生意気」

「その言葉そのまんまお前に返すわ」

平生と同様のくだらないやりとりに安堵しながら、一つの個性として受け入れようと思っていた。同性にしか好意が持てないのだとしても、沖田が沖田である事には変わりない。それくらいで態度を覆す程、脆い友人関係でもないのだ。

「お前、好きな奴いんの?」

今度は同じペースで隣を歩く沖田に疑問をぶつける。女がカモフラージュだったのなら、本命では無かった事になる。長い付き合いでも、恋愛の話なんて沖田の口から聞いたことがなかった。この機会に聞いてしまえと思ったのだ。

「あの話の流れで普通聞きますかィ?」

バツの悪そうに頭をかく沖田。

「その手の話聞いたことねえし」

単純に興味があった。沖田がどんな奴を好きになるのかって。

「俺の恋愛話興味あるんで?」

「ああ。あんだけ彼女出来ては別れてを繰り返すお前は誰を好きになるのかは気になる」

嘘偽りなく答えれば沖田は腹を抱えて笑いだした。何が面白いのか分からない。

「いやすよ」

急に笑いだしたかと思えば、いつもの無表情に戻り好きな人はいると口にした。

「俺の片想いなんでさァ」

それ以上は話せないと続けた沖田が余りにも寂しそうに笑うから追求は出来なかった。幼い頃から何でも器用にこなしてきた沖田は不自由なんかしてないと思っていた。完璧過ぎるかに見えた沖田の弱い一面を見たようで切なくなってしまう。

「いつか報われるといいな」

本気の相手との恋が実って欲しいと願って。

「そりゃ、どうも。アンタも彼女泣かせないように。俺とばっか一緒にいると捨てられやすぜ」

「余計なお世話だッ!俺の心配よりてめーの心配でもしてろよ」

言われる程沖田とずっといる訳ではない。沖田に彼女が出来た時は互いに女と過ごす時間も増えたし、機会が合えば昔のように一緒にいる。

不器用ながらにも憎まれ口で俺を心配しているのは長い付き合いで分かる。だから嫌じゃない。そんな沖田に苦笑していると、奴は目の前まで移動して止まる。

「アンタが大事にしないなら俺が奪っちまおうかな」

相変わらずのポーカーフェイスでポケットに手を入れながらの略奪宣言に耳を疑う。

「は?今の本気?」

男しか愛せない、なんて真顔で言ったばかりだというのに。女である上に友人の彼女を奪うだなんて。

「さあね。...っはは、今の顔傑作でさァ。笑える」

動揺している俺をみてゲラゲラ笑う沖田。

「てめー、ふざけんのも大概にしやがれッ!」

怒りを見せる俺に沖田は逃げ出さんとばかりに走りだした。

既に距離の離れてしまった沖田に怒鳴り散らしながら追うように帰宅したのだった。

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