葛藤
外を警備していた奴らも既に帰ったようで誰もいない。沖田を除いて。
てっきり帰ってしまったもんだと思っていたが、待っていたようだった。
「総悟」
名前を呼ぶ。
「いいから、近藤さんを乗せなせえ」
無表情に冷たく言い放たれた。
二人掛かりで近藤を乗せ、シートベルトを装着する。眠っているようで座席に凭れ掛かっている。
近藤が座ったのを見届けると沖田は運転席に乗り込みギアを動かす。あれ、これはもしかしなくても置いていかれるかも。
土方はまだ車に乗って居なかった。ドアを開けようと手を伸ばすとロックがかかっていて開かない。
「ちょっと待て総悟、俺も乗せろ!」
窓を叩いて声をかける。聞こえているはずなのに窓すら開けようとしない。
「おい、総悟」
呼びながら繰り返し窓を叩くと、沖田は漸く窓を開けた。
「何でィ?アンタは出掛けるんだろ?」
感情のない声で言う沖田。
「いや、帰るから!さっき断ったから!」
慌てて弁明をすると、仕方ないとでもいいたげにロックを解除する沖田。俺は助手席に乗り込んだ。
それを見た沖田は黙って車を走らせた。
沈黙が辛い。車内に響く近藤の鼾だけが救いだった。
チラリと沖田を見ればポーカーフェイスを気取っているものの、僅かな怒りが見て取れた。長い付き合いだからこそわかる表情。
「総悟、何怒ってんだよ」
沈黙に耐えられなくなった俺は話しかけることにした。
「別に」
さらさら答える義理はないとでも言うようなあっさりとした返事。
「それじゃ会話になんねえだろ」
「今、アンタと話したくない」
会話を拒絶する声。
「将軍が帰ったの気がつかなかったから怒ってんのか?」
今までだって拒絶されたことはある。寧ろ何時ものことだからと諦めずに問う。
沖田の目は迷ったように揺れると、今度は唇を噛み締めた。
「アンタが...」
「え?」
「俺を好きだって言ったくせにふらふらしてるからだろ!」
声を張り上げて言う沖田に目を丸くした。感情は滅多に出さない奴だったから。
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