葛藤
私服に着替えて案内されたテーブル席につく。俺達の間にキャバ嬢が座った。
仕方ない。これも仕事だと割り切って店内を確認すれば、将軍のいるテーブルは土方の丁度真後ろの席だった。監視しやすい位置でほっと胸をなで下ろす。
潜入と言うからには内密に動かなければいけない。
それを理解しているのかと二人を見る。近藤は将軍の席に目当ての女が居て、そちらをちらちらと見ているも本来の目的を失っている。
せめて沖田はまともに動いて欲しいと願い、視線を送る。女に声をかけられ無表情にも受け答えをしていた。
女が沖田の腕に触れる。奴も満更でもないのか振り払うこともしない。
何を勘違いしていたのだろう。沖田の恋の選択肢に女を自己都合で外していたが、まともに考えれば一番真っ当な選択。
だが、そんな沖田をみて胸の騒めきは起こる。醜い嫉妬。
警戒は怠らない。勧められた酒も飲めないからとノンアルコール飲料を口にしながら、何本目か分からない煙草を灰皿に押し付けた。
「おい、飲みすぎだ」
近藤は土方の制止も聞かず、女がこちらの対応に来ない為か酒を飲み酔っ払っていた。今にも脱ぎ出してしまうんじゃないかと様子を伺いつついる状態。
「トシ~、お前も飲め!総悟のんでっか?」
赤らめた顔で酒を進める近藤。
「へい。俺も飲んでますぜ。あり?土方さんは飲まないんで?」
目の前のグラスを口にしながら答える沖田。腕にはしっかり女の手が絡んでいて、酒もあってか先程よりも会話が弾んでいるようにも見える。
潜入でと店内に入った筈だったのに二人の様子に呆れて物も言えない。同時に湧き上がる怒りに体が震える。
沖田が他の奴と絡んでいるのは、どうしても許せなかった。
「ねえ土方さん、この後空いてる?」
適当に返事をしていた隣に座る女がそう声を掛けてきた。
「ああ」
対して考えもせずに答えていた。
「ほんと?じゃあ、この後二人でどっかいかない?」
期待を含ませた表情で俺を誘う女。この場の状態に、変化のない関係に虚しさを感じた俺は二つ返事で了承した。
自暴自棄になっていたのかもしれない。
答えて数分後に顔にバシャっと液体が掛けられる。甘ったるい匂いを放つそれが、沖田が飲んでいた物を掛けられたのだと理解するのは早かった。
「何すんだてめえ」
突然の出来事に沖田に怒りをぶつける。何故飲み物を掛けられなくてはいけないのだ。
「すいやせん。手が滑りました。酔ってたんで」
悪びれもなく謝る沖田は立ち上がると帰ろうとしていた。
「おい、まだ仕事が...」
「何言ってんの土方さん、さっき帰ったでしょう」
言いかけた言葉を遮るように沖田は口を開いた。
慌てて振り返れば将軍は既に居なかった。気付かないなんてとんだ失態だ。
酔っ払っているとばかり思っていた沖田もただジュースを飲んでいただけだったのだ。顔から着流しから匂うそれが答えだった。
「アイツ訳わかんねえ。近藤さん、俺達も帰るぞ」
姿が見えなくなった沖田を追うように、酔い潰れてゴリラ女と勘違いして抱きついてくる近藤を引きづりながら店内を出た。