葛藤
「大分慣れたじゃねえか」
沖田の運転する車の助手席に座り周囲を監視しながら声を掛ける。
「どんだけ俺が運転してると思ってんでさァ。たまには変われよ土方コノヤロー」
眉を顰め不服をぶつける沖田に俺は苦笑するしかない。
真剣な眼差しで運転する沖田も幾らか慣れてきた所為か、余裕が見られる様になってきたように思う。
「はいはい。大体上司が乗ってて運転させる奴なんかいねえよ」
副長自ら運転してたら隊にも示しがつかない。プライベートだったら別だ。甘やかしてやりたいとさえ思っているのだから。
「俺はアンタを上司とは認めねえ。近藤さんなら喜んで乗せまさァ」
けれど、沖田から続く言葉は相変わらず冷たい。やはり心底嫌われているのか、真意は分からずじまい。
「そーかよ。気に入らねえなら出世しやがれ」
いつも通りに返してやることしか出来なかった。
近藤に対する沖田の情は目に見えて分かりやすい。二言目には近藤さんだ。対する俺には憎まれ口ばかり。
やはり自惚れ過ぎていたのか。
実際は近藤が好きなんじゃないかとすら思考が巡った時には虚しくなる。
沈黙が続いた後、目的地に到着すれば車が停止する。
またも将軍が松平とのキャバクラ遊び。毎度警備に駆り出されるこちらの身にもなって欲しい。
溜め息をつきながら車を降りれば、先に到着していた近藤がいた。
「トシ、総悟こっちだ!」
声を掛けられるがまま迎えば、予想だにしない任務を任される。
「とっつあんの計らいで俺達は客として中に潜入することになった」
近藤は鼻の下を伸ばしながら看板を指差し言う。キャバクラ"すまいる"。局長がストーカー行為を続ける女の居る店だった。
「冗談じゃねえ。外の警備の指揮は?何の為に此処へきたか分からねえだろうが。悪いが俺は残る」
中へ入ってしまって、もし攘夷浪士が現れたら多少なりとも現場は混乱するだろう。店内に侵入される前に食い止めるに越したことはない。
「トシィ、硬いことを言うな!上官の命令に逆らうわけにはいかんだろ?な、頼むよ」
期待を込めた表情で頭を下げる近藤。
「いいじゃないですか、土方さん。近藤さん、上様は必ず俺が守りまさァ」
当たり前の様に近藤に便乗する沖田。
「百歩譲って近藤さんはいい。お前は未成年だろうが。もし、バレたら色々不味いんだよ」
隣にいる沖田を睨みつけるも、しれっとしている。込み上げてくる怒り。
「総悟は優しいな。よし、行くぞ」
近藤は沖田の肩を抱くとそのまま二人揃って店内へ入って行った。
「クソッ。なんで警備に来たのに遊びになってんだよ!もう知らん。てか、着替えろよ!」
上司と部下が不祥事を起こさないよう、監視を兼ねて土方も後を追った。