葛藤
先に目が覚めた土方はいそいそと布団から出ると、隊服に着替える。
取り敢えず、起床の一服だ。これがないと一日が始まらない。
起きてからの動きは大体決まっている。身なりを整えた後は、朝礼に参加して一日の動きを指示する。隊の規律を示してそれぞれが仕事に入る。
当たり前にしてはいけないのだが、自ら起きてくることのない沖田を起こして漸く真っ当に仕事が出来る。
今まではそうだった。
沖田が眠りに来るようになってからは、目覚めて身なりを整えた後、書類の山を少しでも片付ける。ある程度の時間になったら朝礼に出席させるよう起こす。そして副長業務に入る。
少なくとも、ここ一ヶ月はそれが定着していた。
一服を終えると上に挙げる報告書やら、始末書を順番に目を通す。直ぐに片付きそうな案件から手をつけていくが数枚減った所で、毎日山の様に溜まっていくもんだからきりがない。
そうだ、俺には仕事があるんだ。
惚れた腫れたにうつつを抜かしている場合ではないと気を引き締め、作業を続行する。
書類を確認しては印を押す。
一枚、また一枚と片付いていく達成感を噛み締めながら、問題さえ、もう少し減ってくれたらと願った。
順調に進み予定より多く目を通した後、一度手を止めて背伸びをする。自然と出る欠伸に、眠気を思い出すも時計を見て、そろそろ起こさねばと沖田の傍へ寄る。
「総悟、時間だ。起きろ」
肩を数回揺すると、んーと声を出してうっすらと目を開ける沖田。毎日同じ時間に起こしている為か目覚めは良くなっていた。
「あれ、もう朝?」
「とっとと支度しろ」
「俺はアンタみたいに年寄りじゃねえから早起きは苦手でさァ」
「誰が年寄りだ!早く布団から出ろ!」
渋々身体を起こした沖田は、ゆっくり布団から出ると座りながら眠そうに瞬きをしている。なんだかんだ、年相応で可愛らしい。
「土方さん、着替え」
催促されるがまま沖田の分の着替えを用意する。いつの間にか部屋には制服やら沖田の私物がたまっていた。律儀にも、沖田用の衣装ケースを用意しては土方の部屋で管理していたのだ。
「ほら、着替えろよ」
「はーい」
着替えを手渡してやれば寝間着がわりの単を脱ぎ始める沖田に、慌てて目を逸らす。身体なんて風呂で何回も見ている筈なのに、部屋にいるだけで慣れないのだ。
恥ずかしげも無く更衣をする沖田に、こっちが恥ずかしくなる。今更そこに恥じらいがあっても困ってしまうからよしとしよう。
「別に女じゃねえんだから、そんな気にしなくてもいいのに」
沖田はそんな土方を見て笑う。
「うるせえ。着替え終わったのかよ」
「ええ。じゃあ、行きやすか」
副長室を先に出て行く沖田に俺も後ろを追う。こうして一日が始まる。