初恋が実るまで
断られる可能性もある。何せ、もう十八にもなった男に一緒に寝ようだなんて言われたら気持ち悪いと思うのが普通だろう。
失言だったかと思った矢先、土方は困ったような顔をすると電気を常夜灯にして布団に入った。背は向けられているものの一人分の温もりが加わる。
「お前と寝るなんて何年振りだろ。昔は寝れない時、勝手に布団入ってきたよな」
今日のお前みたら思い出しちまってよ、と続けられた。近藤や土方の布団に入り込んだ時、二人とも嫌がる事なく受け入れてくれていたのを思い出す。それどころか早く寝付けるよう寝かしつけてくれたっけ。
「あの時は俺も子供でしたからねィ」
二人が傍に居てくれるだけで悪夢も見ずに快適に睡眠をとれたんだ。安心感があったのだ。
仰向けで居た体勢を土方に背を向ける形で横を向く。一人用の布団じゃどうしたって体がぶつかるから。
「俺は嬉しかったぜ。いつも近藤さんばっかりなのに懐いてくれたみてえでさ」
今の俺も変だろうが、土方も変だ。こんな嬉しい事ばかり言われたら、どう返事していいかわからない。
たまらず向きを変えると、土方の背に顔を埋める。土方は驚いた様に一度顔だけ振り返ると、俺の髪を大きな手で梳いた。
「...土方コノヤロー、子供扱いすんな!」
至近距離の土方にどきどきしながら、背後からバシバシと肩の辺りを叩く。
「痛えよ!急に暴れんな!」
体ごと振り返った土方は、叩く俺の手を掴む。手の自由がなくなった事で顔を上げれば、額に触れる柔らかい感触。
「...っ」
それが何かに気づいて反射的に頭を後ろに後退させた。
顔が熱くなるのを隠したいのに手を掴んでいる土方の所為で叶わない。
「...何てことしやがんでィ!」
だから精一杯の強がりを口にする。せめてもの抵抗だ。
「いやいや。今のはどう考えても事故だろ!」
否定をする土方の顔にも、俺につられるように赤みが差した。
「土方のセクハラ!馬鹿!変た...ん」
罵倒を繰り返す俺の唇に土方の唇が触れた。目の前には土方の端正な顔があって、頭が真っ白になる。
「総悟」
急な展開に戸惑い、大した抵抗も出来なかったのだが、すぐに離れた口は優しい声で俺を呼んだ。
「...お前が好きだ」
そう言って、あの腕に抱きしめられた。
「ちょっ、アンタ何言って...」
逃れようと身体を押し返すも、その力は強くて振り払えない。いや、俺が振り払いたくないだけなのか。
「好きなんだよ。総悟が。言うつもりもなかった。今まで通りの関係でいるつもりだった。けど、無理だった」
「じゃあ、なんで」
「それ以上を求めちまったから。平然を装ってたけど、初めてお前に触れたあの日からずっとおかしいんだ」
あの土方が俺を好きだと言った。夢みたいだ。自分に都合の良い夢に違いない。
「そんな素振り一度も...」
ましてや、女好きで通ってる土方に限って信じられなかった。胸が締め付けられる想いで、花街へと出て行く土方の背中を見ていたんだから。
「精一杯努力はしたさ。俺を軽蔑して避けてくれたって構わねえよ」
背に回る腕に力が籠る。その腕は言葉とは裏腹で少し震えていた。土方だって器用な人間ではない事は分かっているから、俺は自惚れてしまうんだ。本音で話してるって。
好きと言う言葉が素直に出なくて、俺は土方の背に手を回ししがみつく。顔を逞しい胸板に押し付けた。
「俺がどんだけアンタを追い掛けてたと思ってんでさァ。俺は、アンタのこと...」
ずっと好きだったんだ。
END