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初恋が実るまで


不器用なのに優しい。そして甘い。
憎まれ役を進んで買って出るくせに、恨まれていないのはそういう所だろう。

何時からだか、この人を独り占めしたいだなんて無謀な気持ちが湧いてしまった。自分だけに向いたらいいのにと。

元より人に対する執着は強い方だった。近藤や姉に対するものは相当で。まさかそれが土方も該当するとは幼き俺は見当もつかなかっただろう。

しかも土方に対する感情はそれとは別の恋情ときた。何処までも天然色男な此奴が悪い。

「...まだですかィ?」

だから催促するんだ。一刻も早くこの部屋を出なければ錯覚してしまう。ここに居ても良いんだって。

居心地良くって居着いてしまいたくはないのだ。

「...終わった」

書き終えた土方は書類を手に布団まで近づいてきた。俺も身体を起こすと胸ポケットから印鑑を取り出して名前の上下を確認する。今度こそ失敗しないように。

インクを付けて押し付ける。印鑑を離すと、今回は成功したようだ。

「じゃあ、俺はこれで」

書類を土方に渡し、立ち上がろうとした所で腕を掴まれ引き止められる。

「待て。部屋戻っても寝られないだろ?ここで寝てけよ」

「布団もねぇし、嫌でさァ」

即答で断ってやる。冗談じゃない。

「いいだろ。たまには」

だが、土方も引こうとはしない。

「何を好んで一緒の部屋で寝なきゃいけねぇんですかィ?何かの拷問?それとも罰?」

俺だってこればかりは譲れないもんがある。

「酷え物言いだな。いいから来いよ」

土方は強引に俺を引っ張ると、再び布団に倒れこむ羽目になる。下が布団だから幸い痛みは無い。

「...無理矢理すぎやしやせんか?」

逃げても同じ展開になりそうだと諦め気味に溜息をつく俺に、土方は穏やかな表情をして笑った。

「悪いな。最近思い詰めてるみたいだったから。二人で話ししたかったんだよ」

机の上に書類を置くと、布団の傍に腰を下ろす土方に、アンタの事で悩んでるんだって言える訳もなく。頭中で必死に言葉を選ぶ。

つくづく優しくて困る。期待するじゃないか。少しは特別だと思ってもいいのかって。

「無理に言えとは言わない。けど、俺も近藤さんもお前の味方だから」

考え込む俺に土方はそう言って、布団もう一組取ってくるわと立ち上がる。俺が去っていかないのを了承と得たのだろう。

「待って。...アンタがよければ一緒に寝て下せェ」

部屋を出ようとする土方を今度は俺が引き止める。葛藤の末、本能に忠実に行くことにした。叶うなら俺だって一緒にいたい。折角訪れた機会を無駄にしないように駄目元で言ってみた。
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