初恋が実るまで
寝たいのに寝付けない。
時間の経過を伝える時計の秒針の音が部屋に響く。周囲は寝静まっているのか物音一つしない。
静かな夜だ。
布団から身体を起こし時刻を確認すれば二十三時を示していた。
少し風にでも当たろうと部屋を出て、縁側へと腰を下ろした。八月の気温は決して快適では無かったが、暗い部屋に居るよりはマシだった。
空を見上げれば満月で数多くの星が照らしていた。明日も晴天だろう。
武州に居る頃も寝付きの悪い夜は空を眺めた。無心になれる気がしたから。その度、近藤やら土方が部屋に招いてくれたのを懐かしく思う。
ぼーっと空を見ていると廊下から足音が聞こえていた。確認するまでもない。聞き慣れた足跡の正体を俺は知っている。
徐々に近付いてくる足音。
こんな時間に用があるなんて珍しい。
俺を視界に入れた主は足を止める。
「何の用で?」
視線を送ることすらせず声を掛ける。
「お前のサインがいる始末書。印鑑出せ」
「うちの上司は働き者だねィ。部下の睡眠妨害までやってのけるなんて」
「てめーが建物壊さなきゃ俺だって寝てるわ!大体、起きてんだろうが!」
怒声を浴びせる土方に、俺は耳を塞いだ。時間帯も考えて欲しい。
「静かに。他の人は寝てますぜ」
「...お前が怒らせるからだろ。早く印鑑とってこい」
苛立っている土方を他所に俺は印鑑を取りに自室に戻る。
文机の引き出しの一番上の引き出しを開けてみるも見当たらない。ここじゃなかったっけと記憶を辿りながら次の引き出しを開ける。
「分かるところに置いとけって言ったろ」
探している様子が伝わったのか、土方は部屋へと足を踏み入れた。
「確かここに.....あった」
三段目の引き出しを漁っていた時、目当ての物を見つけた。