二章
「...急に呼び出した理由は何なの?沖田くん」
渋々カウンターに腰掛ける銀時。時刻は二十時を指していた。
「旦那取り敢えず飲んで下せェ。奢りますから」
着物に着替えた沖田は馴染みの居酒屋に足を運んでいた。なんとなく屯所に居るのが虚しかったのだ。
「どうせ沖田くんの事だから、土方関連なんだろ」
頭をわしゃわしゃ掻きながらお酒を注文する銀時。
「鋭いですねィ。なんでもお見通しか」
沖田は既に飲みかけの日本酒を片手に持ち口へと運んだ。
「で、土方は居ないの?接待かなんか?」
「ええ」
「本当仲いいよね。君達」
ようやく出された酒を受け取りながら、メニューを見てはつまみを注文する銀時。
「最近は慣れてきてはいたんですけどねィ。今日はなんだか...ね」
「ゴリラの事もあるから尚更だろ。時期帰ってくるさ」
励ますように肩を軽く叩く銀時に、沖田のもやもやした感情は若干和らいだ。
「そうですねィ」
「大丈夫。土方も沖田くんにぞっこんだよ?恋人いない銀さんなんか羨ましいくらいだよ」
戯けて見せる銀時に沖田は笑う。不思議な雰囲気を纏った人だと思っていた。こうも簡単に不安を取り除いてしまう。土方と似ているけど、また違う不器用な優しさだった。
「旦那、有難うございやす」
御礼を伝える沖田はメニューを広げ、食べたいもの頼んで下さいと続けた。
「こういう時は飲んで寝ちまうのが一番早えよ。どう?俺と飲み比べでもしてみる?」
「言っちゃ悪いですが、旦那。俺は土方さんと違って強いですぜ」
「言うようになったじゃねーか」
強い酒くれ、とカウンター越しに注文する銀時は目の前の酒を飲み干す。沖田もつられるように一気に喉に通した。
「旦那、勝負しやしょう」
「ああ。負けねえよ」
二人の飲み比べ対決が始まった。
出てくる酒を次々と飲み干して行く。早くも顔を赤く染める銀時に対して、沖田は涼しげな様子で飲んでいた。
何杯飲んだのかはわからない。
「旦那、もうやめときなせェ」
すっかり出来上がってしまった銀時を制止して、勘定を済ませる。
「まだ飲む。負けてたまるか」
勝負を続行しようとする銀時の肩を担ぎ、タクシーを拾う。座らせてベルトを閉めると沖田も乗り込む。
万事屋までと告げ、隣に座る銀時を見る。
「ふふ、また一緒に飲みましょうね」
二人を乗せたタクシーは歌舞伎町へと車を走らせた。