二章
酒に酔わされて上機嫌になっている幕府の高官方を前に土方は早くこの場を去りたいとすら感じていた。
「土方くんももっと飲みなさい」
「はい。有難うございます」
中々減らない酒を促す様に継ぎ足されては愛想笑いを繰り出す。
酒に酔っているのを良いことに腕時計に視線をやれば、沖田に行ってらっしゃいと見送られてから既に三時間は経過していた。
「お時間気になりますか?」
隣に座る商売女が耳元で呟きながら腕に手を絡めてくる。
「いや、そういう訳じゃ...」
言いながらやんわりと絡めてくる手を払う。今頃退屈そうに留守番している沖田の姿が脳裏に過ぎった。
何時ぞや接待の後咎められて喧嘩に発展してからは沖田が詰め寄って来ることは減退していった。不本意な事を責められてもどうしようも無い事を分かって欲しかったのだ。土方とて好んでこの場に来ている訳では無い。真選組という組織の為。ただ、それだけなのだから。
露骨に不満をぶつけてくる沖田を眩しく感じながらも、毎回怒りをぶつけられては困惑してしまう。一緒に居たいという気持ちは同じだと伝わって欲しくて安心を与えるよう務めた所、遂には咎められなくなった。
直球に感情をぶつけてくれた方がある意味分かりやすくて良かったのかもしれない。元々、肝心な事ほど隠してしまう沖田のそれは強くなり、大体の事は予想がつくものの把握出来なくなってしまった事もある。
今度ちゃんと話さないとな。と、愛しい恋人の顔を思い浮かべた。五年の時を経て勤務態度も至って真面目で、隊を引っ張って行く姿は頼もしい。見惚れる程の剣の扱いに、昔から重要任務は確実に遂行する沖田。安心して背中を預けられる。
「恋人のことでも考えてたの?」
不意に、耳元で聞こえた声に現実に戻る。先程の女だ。周りには聞こえないよう配慮された言葉を理解すると顔面が火照るのを感じた。
「...な」
図星を突かれて声が上擦る。
「いつも退屈そうにしてるのに、急に優しい顔になったから」
そう言って笑う女は、それ以上距離を詰めようとしてくることは無く、少し間を空けて座り直した。
「仕事は抜きにして、土方さん狙ってたんだけどな。余っ程ここに居ない、その人が大切なのね」
「ああ、大事な奴なんだ」
土方にとって掛け替えのない存在。改めて痛感する。
そうこうしてる内に宴会がお開きになり、酔いが回っている近藤を見る。なんとか歩けそうだ。
「土方くん、ちょっといいかな」
近藤を抱え、立ち上がった所で声を掛けられた。