May
夢を見た。
桜の花びらが散る街路樹を顔も名前すらも分からない奴の首にしがみついてる幼少期の自分。地面との距離は離れておりおぶさられていた。
その首は温かくて両親の消えた温もりを埋めるように縋り付く。
顔を埋めればその人の放つ香りと広い背中に安堵する。
ねぇ。
そう声をかければ振り向くそいつ。
パーツもない肌色の能面を被った人型をした顔。
はっきり出てこないのは記憶に蓋をしてしまったからなのか。
「総悟」
優しげな声で俺を呼ぶ。
心做しか能面の表情が笑った気がした。
「アンタは誰なんでィ?」
問いかけた疑問には答えず。
『総悟』と名前を何度も呼ばれる。
そんなに何回も言わなくたって聞こえてるのに。
「総悟、ごめんな。またいつか.....」
寂しそうに呟かれると地面に降ろされた。
いつかの先の言葉が紡がれているだろうに掻き消されたように消失する。
振り返りもせずに目の前から去ろうとするその人を走って追い掛けるも距離は縮まらない。
「ねえ、待って、行かないで」
悲痛な叫びを上げ呼び止めようとする幼き自分を第三者視点で見つめる。
その人が姿を消したのと同時に映像が途絶えた。