変化
再び部屋を訪れた山崎によって運ばれてきた缶詰の魚の水煮。普段なら物足りない味でも満足した。味覚ごと変わっているらしい。
満腹からか沖田は急激な眠気に襲われ目を閉じれば寝てしまうも、ちょっとした音や声が大きく聞こえてしまい目覚める事を繰り返す。
正体がバレた後は、傍に寄っては拒絶されてしまうんじゃないかと部屋の隅に居た。
うっすらと目を開ければ部屋はまだ明るく、土方は変わらず報告書やら始末書に追われているようだった。
時計を確認すれば、零時を指している。遅くまで御苦労なこって。
体制を変える為に一度身体を起こし、伸びをする。伸ばした部分が気持ちいい。
寝ても寝ても眠いこの身体。うっかり出た欠伸に小さな声が漏れる。
「起きたのか?」
聞こえた声に、土方は筆を一度置き沖田の方に身体ごと向き直る。
「ニャ」
いけない。返事をしたつもりが耳に反響した音が猫の鳴き声で自分の変化を忘れかけていた。きょろきょろと辺りを見回し、会話の手段を探すと土方の右隣に発見する。
文字板まで歩を進める。
"まだしごと?"
「いや、今日は終いだ。明日早いからもう寝る」
沖田の記憶の中では土方は早朝勤務では無かった筈だ。頭に疑問符が浮かぶが直ぐに合点した。早朝の仕事は本来なら沖田のものだったのだ。
非常事態にすぐ勤務変更を掛けていたのだろう。仕事に関する事には抜かりない土方らしい対処だった。
"めいわくかけてごめんなさい"
口にしなくていい分、今なら素直に謝れる。
「らしくねェ。いいから寝ようぜ」
苦笑した土方は沖田の頭を撫でると、立ち上がり布団を引っ張り出す。普通の猫じゃないと分かっても触れてくれるんだと暖かい気持ちになった。
先に布団に入った土方が布団を捲り、入れよと促す。つられてまだ温まって居ない布団に潜り込む沖田。
「って、何でそこ!?」
沖田の位置に土方が怪訝な顔をしてつっ込む。それもその筈。沖田は土方の腹の上に乗っているのだから。わざわざ腹の上に乗った理由も沖田自身が把握していなかった。自然と温もりを求めて行った先が腹の上だった。
会話をする手段が現在ないので体を丸める沖田に土方もそれ以上追求しない。