変化
山崎によって広げられた文字板。平仮名であ行から並ぶ文字。すぐ答えられるように「はい」、「いいえ」もある。単純ではあるが分かりやすい。
「貴方は沖田さんですか?」
猫相手に真面目な顔で問う山崎。これがただの野良猫相手にやっていたら爆笑もんだ。想像しただけで笑える。
迷わず「はい」に手を伸ばした。肉球が触れる。
その答えに土方は目を丸くして山崎と目を合わせる。アイコンタクトに山崎は頷いた。
「そ、総悟なのか?」
土方は再度同じ質問をする。ちょっと悪戯をしたくなって土方の問いには「いいえ」へ手を伸ばした。
「おい!どっちだよ!」
人の言葉を理解しているとふんだのか怒りを見せる土方。猫相手に大人気ない。
「確実に人の言葉は分かるみたいですね。質問を繰り返しましょう」
山崎は手応えを感じているようだった。
「分かった。真面目に答えろよ。てめーは総悟なのか?」
土方に聞かれれば即答でいいえと答える。首を傾げる土方に続くように山崎が口を開く。
「名前を教えて下さい」
敢えて文字に触れるように誘導されれば、"おきたそうご"と順に触れて行った。
「てめーやっぱり総悟なんじゃねェか!」
流石に一文字ずつ触れて行った事で土方も確信したらしい。
"しねひじかたこのやろ"
触れた文字を追い理解したことで土方は青筋を立てる。
「やっぱり帰ってきてたんですね。沖田さん」
山崎は至って冷静に話しかける。お腹すいてませんかと続けられた。言われて初めて空腹を実感した。そういえば昨日の夕食から何も食べていない。
"すいた"と伝えれば、土方は適当な入れ物にポケットから取り出したマヨネーズを搾り入れる。
「ほら、食えよ」
差も当たり前な顔で言っている。誰もがお前みたいにマヨネーズが好きな訳じゃない。睨みつけてやるも今の姿じゃ迫力も何も無く肩を落とした沖田。
山崎は一連のやり取りを見届けると呆れながら、何か食べる物探してきますと退出していった。
また二人だけの空間が訪れる。
土方の太股をちょんちょんと叩く。
"おれ もとにもどれる?"
沖田の手の動きを土方も見ていた。
漠然とした不安に襲われたのだ。元に戻る方法を山崎は告げなかった。もしかしたら方法すらまだ分かっていないのかもしれない。
戻れる可能性があるなら戻りたい。このままじゃ真選組のペット扱いだ。下手したら此処には居られない。
小さい体のまま沖田は土方を見上げた。
「必ず戻る。戻る方法が無くたって俺がなんとかしてやる。だから、心配すんな」
迷いもなく即答され、沖田は安心していた。