変化
視界に土方を捉えると見上げた形で声を出す。ニャーっと鳴く声に、猫になってしまったのだと沖田は実感した。そういや、犬じゃ塀なんか登れねぇやと一人ツッコミをいれる。
鳴き声を上げながら縁側まで飛び乗ると身体を土方の足に擦り寄せた。
一瞬戸惑ったような様子を見せた土方だったが、ふと笑うと猫姿の沖田を抱え上げた。
「あいつが居なくなったかと思えば、今度はお前か。今日はやたら猫に好かれる日らしい」
優しい声色で猫に話しかける土方。猫相手だとこんな顔もするんだと少しばかり悔しい。自分には怒ってばかりなのに。
猫になってしまったのだから、どうせなら普段見れない土方を満喫してやろうと抵抗せずに抱かれたままで居たら太腿に降ろされた。
初めての膝枕ってやつかと喜んでいたらそっと身体を撫でられる。気持ちよさにうっとりと目を瞑った。
「...お前に話しても仕方ねェんだが、手のかかる部下が行方不明でな」
悪かったな。いつも面倒ばかりかけて。そう言いたいのに口から漏れるのはニャーっと情けない声。伝わらないだろうけど気持ちを込めて沖田は鳴いた。
「心配なんだ」
土方から発せられた予想外の言葉に顔を上げる。その表情は副長の威厳がない程哀愁を漂わせていた。
「極秘の任務を任せたのは俺だ。...それで戻って来なかったら...」
自らの指示を後悔しているかのような発言に目を丸くした。もしかして本気で心配してくれてるのか。
胸が高鳴る反面、見たこともない土方の表情に申し訳なさでいっぱいになった。
「悪い。独り言だ。猫に話しかけるなんて俺も焼きが回っちまったみたいだ」
悲しげな表情と弱々しい声に土方の手に身体を擦らせた。
猫になって得をしたという反面、こういう時、人間だったらと自由のきかない身体が少し憎らしい。