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メギド72のSS置き場

医者が注射を我慢した子供にご褒美としてあめをあげる。普通であれば少し微笑ましいがすぐに埋もれてしまう出来事だろう。だが今回はちょっとした騒動に発展する。

何故なら、その医者というのがアンドラスだったからだ。

「やぁソロモン、そんなところで固まってどうしたんだい?どこか悪いなら診るけど?」
「あ、あぁ、いや大丈夫。ちょっと意外な光景だったから驚いただけだよ」
はて?とアンドラスはいつもの表情で曖昧に首をかしげて、ひょっとしてこれのことかい?とあめ玉の入った缶をカラカラとふった。
「これはラウムに持たされてね。俺が細いから栄養でもつけろって。医者として栄養管理はできてるつもりなんだけど、頭を使うと甘いものが欲しくなるからね」
意外と重宝してるんだ。君もどう?と差し出されたあめは、いちご味で、口の中で優しく甘さが広がっていった。
「あ、おいしい……何だかホッとするな、これ」
「戦闘も頭を使うからね、適度な糖分は大事だよ。それより、何か用があったんじゃないかい?」
ああそうだったさっきーーー
本来の要件に戻っていく彼らを他所に周りのメギドたちは、こそこそと先ほどの光景について感想を言いだす。そしてそれはアジトじゅうに小さな驚きとともに波紋のように広がっていった。

結果何が起きたかというと、あめが大流行した。

医療系のメギドたちはその手があったかと取り入れ、治療後に食べたらちゃんと歯を磨くんですよーと声をかける様はもはや恒例となった。
女性メギドたちも、医者が適度な糖分は必要って言ったんだし……と免罪符を得て各自携帯するようになった。それを聞きつけたバフォメットがどこからか仕入れてきた華やかな装飾の施されたケースは結構な売り上げを出し、フォカロルに目をつけられた。
子供の姿をしたメギドたちの間では、治療後にもらったあめをとっておいたり、何かお手伝いをした時の褒美にあめをねだったりして集め、数を自慢しあったり、好きな味を交換しあったりといったことが流行った。また、ユフィールはミルクの味のあめをくれるとか、イポスが持ってるあめは何だかしょっぱい(塩飴)とか、シトリーはあめを持ってても基本くれないとか、そう言った情報が盛んに取引された。あめ一個とかで。
「あとはねぇ、メフィストのおにぃたんもあめを持ってるんだよ!」
「へぇ〜!意外だなあ!甘いものは嫌いかと思ってたよ!」
「ふつかよい?に効くんだって!」
どんな味かなぁと子供たちがソワソワヒソヒソしている様はだいぶ微笑ましかったが、実際には子供特有のかなり容赦ない手段での奪取を企てていたので、のちにメフィストのズボンは無残なことになる。


そんなある時、一人暮らしをしていたフルプラスが久々に帰ってきて、え、どうしたんだこれとサタナキアに聞く。
「かくかくしかじかであめが流行っててね……俺も一つ都合してもらったんだよ」
そう言いながら、サタナキアは持ってたあめをほら、とプルフラスの口に放り投げる。食べ物を粗末にできない性分のプルフラスは反射的にそれを口でキャッチする。そして何だか微妙な顔になった。
「何だいこれ!!スースーする!!!」
「ハッカ飴だからね」
そう言ってサタナキアは薄く笑う。
「こんなのが流行ってるなんておかしいよ!!」
「それは特別そうなんだよ。甘ったるいのは苦手だけど、糖分は必要だからね」
学者連中の間では眠気覚ましにもなるって流行ってるんだけどね。まあ子供舌のお前にはこれくらいがお似合いかな。と今度は何やら茶色と白色が混ざったようなあめを差し出してくる。
「二度はそう簡単には騙されないぞ……」
「ただのコーヒー味のあめだよ。ミルク味と合わせているから苦くもないし」
「ほんとか……?」
「まぁ信じるかは自由だけど。……そうそう、ソロモンは今なにか忙しいみたいだからあんまり騒ぎを起こさないようにね。じゃあ」
そう言ってサタナキアは去っていく。お前に言われなくとも僕は騒ぎを起こしたりなんかーーちょっと!待ちなよ!なんて騒ぐプルフラスには目も向けなかった。


「メフィストー……二日酔いひどいさかいあめくれへんか……」
「悪い、今もってねーんだよ」
「なんや、使えん……ところで話変わるんやけどズボンどないしたん?」
「はなしかわってねーよ!!ガキどもにズボンごと剥ぎ取られたんだよクソ……!!」
「ひくわー」
「ダッッッせえな」
「お前らよしそこにならべ。同じ目に合わせてやる」
「誰が並ぶかよバーカ」
あぁ?やるかぁ?上等だコラな雰囲気が一瞬流れたが、全員二日酔いだったのですぐに淀んだ空気に戻る。そんな元気はなかったのだ。
「……そういえば、ソロモンがあめ食べてるのアンドラスにもろてた時以来見てへんな。」
「どんだけ見てんだよ。ストーカーか?」
一触触発の雰囲気が一瞬流れたが(略
「ああーでもなんでだろうな、あいつ甘いもの結構好だったよな」
「野郎のことなんてどうでもいい」
インキュバスはそうだなよなーははは、なんて中身のない会話はだらだらと続いていった。




一方その頃ソロモンは、実は誰よりもあめを消費していた。
アンドラスのあめの衝撃はソロモンにとってもなかなかで、それ以来あめを何となく意識するようになり、そんな中、ある辺境の町で飴細工という文化に出会ったのだ。
繊細で美しいそれに、ソロモンは痛く感動し、また酷くDIY精神を刺激された。難しそうだけど、頑張ればギリギリできそう、そんな塩梅が実に良かった。
「ふぅ……だいぶ形になってきたな……もう少しすればみんなの贈り物にできそうだ」
そのためソロモンは、わずかな自分の時間を削って何度も何度も飴細工の試作をしていた。再利用できそうなら再利用していたが、できないような失敗品は自分で消費していた。食べ過ぎは良くないのでそれ以外ではあめは食べないようにしていた。
「最近ちょっと丸くなってきたしな……そろそろハックあたりに何かいわれそうなんだよな……」
「でも、それもあと少し!完成したらみんな喜んでくれるかな?」

そういう少年のささやかな喜びがある程度には、ヴァイガルドは今日も平和なのでした。

おしまい
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