黄泉瞥見奇譚
「ただいま……」
誰もいない暗い部屋に向かってそう独りごちる。部屋には物が乱雑に置かれていた。
男はパソコンを立ち上げて動画サイトをひらく。いつからか手軽なそれは日々の虚しさを慰めるための日課になっていた。オススメの動画欄を辿っていればいつのまにか時間が過ぎる。余計なことを考えなくて済む。
だから男はいつもどおり、オススメ動画の欄を開いた。そこで少しだけいつもどおりでないことが起きた。
「くろりんのオカルトちゃん⭐︎ねる……?」
黒い長い髪で片目を隠した男がわざとらしく怯えた表情を作っている緩い雰囲気の動画が表示されていた。オカルト系の動画なんて今まで見たことはなかったのに、なぜオススメに表示されていたのか、不思議に思ったが、たまにこういうのもいいかと片付けて動画を再生することにした。
今回の動画は、霊感があるかを診断する方法を紹介するらしい。
********
「どうもーーー!おはこんばんわんわん!都市伝説から幽霊妖怪SCPまで、あらゆるオカルト話を取り扱うあなたの好奇心の友、くろりんでーーーす!」
サムネイルの男がヘラヘラと笑いながら挨拶をする。
「今日は、霊感があるかの診断をしていきたいと思います。準備するものは何もなし!ただ想像するだけでOK!おてがるだねえ」
「それじゃあやり方を説明してくよーー」
男が紹介したやりかたはこうだった。まずは目を閉じて家の玄関をなるべく正確に想像し、できたら想像の中で家中の窓を全て開けていく。開けたらさっきと逆の順番で今度は全ての窓を閉めていく。終わったら最後に玄関から出て行って終了。1DKに住んでる俺みたいなやつはいいけど一軒家に住んでるやつは地味に大変なんじゃないかと思いながら説明を流し聞く。
画面の中では男が目をつぶって想像をしている様子が早送りで流されていた。動画のテンポが悪くならない程度に圧縮されたそのシーンの最後に一瞬男が引きつった表情をしていたが早送りされた映像では気のせいかどうかもわからなかった。
「はい、やってみることはこれだけ。これで、家の中に誰かがいたりしたらそのひとは霊感があるらしいっていうね。さらに、見えた場所には実際に霊がいるとか、もし人間じゃないものが見えたひとはめちゃくちゃやばいって噂も……」
ここで、男が少し真面目な雰囲気を出しはじめた。
「あぁ、でももし今やってみた人でもし何かが見えたって人がいたとしても、今はその場所の確認には行かない方がいいと思うよ」
「彼岸の奴らは俺たちに認識されたがっている。だから視線には敏感なんだ。例えイメージの世界の話であっても。それが現実に見にこられたら、気づいてもらいたくて何か仕掛けてくるかもねえ……」
そういって、男は口を三日月を逆さにしたようにして嗤った。先ほどまでのへらへらとしたそれと違って何かうすら恐ろしいものを感じた。
俺は知らないうちに自分の腕を庇うようにさすっていた。
「ちなみに俺は……」
緊張感のある雰囲気の中男は続ける。男の部屋にも、何かがいたのだろうか。
「綺麗なお姉さんが見えたので、ワンチャン狙ってきます!それではまた次回!」
……は?と思っているうちに、いそいそと片付けをする男に重なるように終わりの挨拶とチャンネル登録を促すテロップが出て動画は終わっていた。
コメント欄を確認すると、「まじめに閉めたら死ぬんかこいつ」「実家のような安心感」「親の顔より見たゲス顔」などと書かれていた。なるほど、こういうスタイルの動画なんだろう。少し肩透かしを食らった気分だったが、怖すぎるよりはいい。こういう動画も結構いいなと思ったのでチャンネル登録をした。
怖い気分も少し紛れていたので、診断を俺もやってみると、細かく想像するのは意外と難しく、映像が乱れたようなイメージになった。その中にくろりんの姿が見えた。そりゃあさっきまでずっと見ていたものだ。イメージに混ざり込むのは当然だ。この方法は真面目にやるのはむずかしいんじゃないだろうかと胡散臭さを感じかけたが、オカルトなんて胡散臭くて当たり前だろうと自分でツッコミをいれた。
そうしてると、いい時間になったので、いつもとは些細だが違う1日になったことに満足して俺は就寝した。
********
黒斗「なんかおっさんおった……ファブっとこ……リアルは甘くねなぁ……」
誰もいない暗い部屋に向かってそう独りごちる。部屋には物が乱雑に置かれていた。
男はパソコンを立ち上げて動画サイトをひらく。いつからか手軽なそれは日々の虚しさを慰めるための日課になっていた。オススメの動画欄を辿っていればいつのまにか時間が過ぎる。余計なことを考えなくて済む。
だから男はいつもどおり、オススメ動画の欄を開いた。そこで少しだけいつもどおりでないことが起きた。
「くろりんのオカルトちゃん⭐︎ねる……?」
黒い長い髪で片目を隠した男がわざとらしく怯えた表情を作っている緩い雰囲気の動画が表示されていた。オカルト系の動画なんて今まで見たことはなかったのに、なぜオススメに表示されていたのか、不思議に思ったが、たまにこういうのもいいかと片付けて動画を再生することにした。
今回の動画は、霊感があるかを診断する方法を紹介するらしい。
********
「どうもーーー!おはこんばんわんわん!都市伝説から幽霊妖怪SCPまで、あらゆるオカルト話を取り扱うあなたの好奇心の友、くろりんでーーーす!」
サムネイルの男がヘラヘラと笑いながら挨拶をする。
「今日は、霊感があるかの診断をしていきたいと思います。準備するものは何もなし!ただ想像するだけでOK!おてがるだねえ」
「それじゃあやり方を説明してくよーー」
男が紹介したやりかたはこうだった。まずは目を閉じて家の玄関をなるべく正確に想像し、できたら想像の中で家中の窓を全て開けていく。開けたらさっきと逆の順番で今度は全ての窓を閉めていく。終わったら最後に玄関から出て行って終了。1DKに住んでる俺みたいなやつはいいけど一軒家に住んでるやつは地味に大変なんじゃないかと思いながら説明を流し聞く。
画面の中では男が目をつぶって想像をしている様子が早送りで流されていた。動画のテンポが悪くならない程度に圧縮されたそのシーンの最後に一瞬男が引きつった表情をしていたが早送りされた映像では気のせいかどうかもわからなかった。
「はい、やってみることはこれだけ。これで、家の中に誰かがいたりしたらそのひとは霊感があるらしいっていうね。さらに、見えた場所には実際に霊がいるとか、もし人間じゃないものが見えたひとはめちゃくちゃやばいって噂も……」
ここで、男が少し真面目な雰囲気を出しはじめた。
「あぁ、でももし今やってみた人でもし何かが見えたって人がいたとしても、今はその場所の確認には行かない方がいいと思うよ」
「彼岸の奴らは俺たちに認識されたがっている。だから視線には敏感なんだ。例えイメージの世界の話であっても。それが現実に見にこられたら、気づいてもらいたくて何か仕掛けてくるかもねえ……」
そういって、男は口を三日月を逆さにしたようにして嗤った。先ほどまでのへらへらとしたそれと違って何かうすら恐ろしいものを感じた。
俺は知らないうちに自分の腕を庇うようにさすっていた。
「ちなみに俺は……」
緊張感のある雰囲気の中男は続ける。男の部屋にも、何かがいたのだろうか。
「綺麗なお姉さんが見えたので、ワンチャン狙ってきます!それではまた次回!」
……は?と思っているうちに、いそいそと片付けをする男に重なるように終わりの挨拶とチャンネル登録を促すテロップが出て動画は終わっていた。
コメント欄を確認すると、「まじめに閉めたら死ぬんかこいつ」「実家のような安心感」「親の顔より見たゲス顔」などと書かれていた。なるほど、こういうスタイルの動画なんだろう。少し肩透かしを食らった気分だったが、怖すぎるよりはいい。こういう動画も結構いいなと思ったのでチャンネル登録をした。
怖い気分も少し紛れていたので、診断を俺もやってみると、細かく想像するのは意外と難しく、映像が乱れたようなイメージになった。その中にくろりんの姿が見えた。そりゃあさっきまでずっと見ていたものだ。イメージに混ざり込むのは当然だ。この方法は真面目にやるのはむずかしいんじゃないだろうかと胡散臭さを感じかけたが、オカルトなんて胡散臭くて当たり前だろうと自分でツッコミをいれた。
そうしてると、いい時間になったので、いつもとは些細だが違う1日になったことに満足して俺は就寝した。
********
黒斗「なんかおっさんおった……ファブっとこ……リアルは甘くねなぁ……」
1/1ページ