長編
「エービィサ・ルランドォ…オフ!」
しかし、フィアスの剣先から出たのは白い煙だけだった。フルシャは杖を振り回し、足を地団駄させて怒鳴る。
「惜しい!そこで噛むから失敗するんじゃ!エービィサ・ルランドォーフ!一回振り付けなしで言ってみぃ!」
「え、エービィサ・ルランドォーフ!」
フィアスは休みなしでフルシャから回復技を伝授してもらっていた。さっきので失敗は十九回目。フィアスの蒼い髪から汗が垂れた。
「そうじゃ。さぁ、それをいいながら踊るのじゃ!ほれ、こんな踊り、簡単じゃろ?」
フルシャは右方向に手を叩き、左方向に手を叩き、最後に杖をまっすぐ前に突き出す。しかしその後、腰に痛みがきたようであいたたたと声をあげながら切り株に座った。フィアスがそれに顔をしかめる。
「無理をするな。エービィサ」
そこでフィアスは右方向に手を叩く。
「ルランドォーフ!」
そして左方向に手を叩き、剣を突き出す……今度は何も起こらなかった。これで二十回目の失敗だ。
「……お前さん、一つ言っていいかえ?」
「…何だ…?」
フィアスが肩で息をしながら老婆を見る。
「エービィで叩きサで叩き、そしてルランドォーフで突き出すと何回も言っておろうが…どうもお前さんは振り付けができると言葉があやふやに、また言葉ができると振り付けが違うというなんとも不可解なことが起きるようじゃな。その振り付けでは集中できんということか?」
「……当たり前だ。こんな振り付けにはなれてない」
「ふむぅ…お前さんのよく使っていたウェンド…」
「WIND APPEAR RAPIDLY(風のように速く)だ。それがどうしたのだ?」
はぁと溜息をつきながら訂正をするフィアスに、これだから横文字は嫌いなんじゃと呟くフルシャ。
「そのウィンド何とかみたいな要領で、一回やってみよ」
フルシャが腰を拳で叩くので、フィアスは剣を構えた。風が蒼い髪を靡かせる…剣が白く光った。狙うはフルシャがなぎ倒した木が二本。フィアスは目を瞑り……ゆっくりと目を開けた。
「MATCHLESS APPEAR HEALTH(無敵のような健康に)!」
フィアスは駆け出し、なぎ倒された木を二本とも、切るように素早く通り過ぎる……すると、不思議な粉が舞い、切り株から不自然に木が育って元通りになった。フィアスは自然の摂理に逆らった光景に驚き、フルシャは大口開けて手を叩く。
「お見事じゃ!」
(……最初からこれに気づいていれば……)
その一方で、フィアスは頭を抱えるばかりだった。フルシャは拍手している時、ふとしたことに気づき、表情を少しだけ難しくする。
「どうした?」
「……お前さん、その呪文のやり方はどこで?」
不思議なのだ。どうして他人から教わった方法でなく、今のようなやり方で成功したのか。また、何故あんな呪文のような技名をすぐに思いつくのか。それについて、フィアスはああと笑った。
「あれは、我独自で編み出したものなのだ。冒険を始める前…我がまだ十の時…最初に覚えたのが『あるふぁるべっど』でな」
昔を懐かしみながら頷くフィアスに、老婆は目を丸くした。
「なんと!十でニホンのさらに遠く、北の国が使うものを?」
「そうだ」
(……こやつ……)
フルシャはフィアスをただ呆然と見つめ、この言葉にたどり着いた。
(……もしや天才やもしれぬ…)
「……で、言いたいことはそれだけか?」
思い出に浸っていたフィアスが突然にやりとしてフルシャに向き直る。フルシャは視線に気づき、同じくにやりとした。
「では、剣士フィアス…いや、回復魔法士フィアス!」
フルシャの目がぎょろりと怖い程に見開かれ、フィアスは思わず背筋を伸ばした。
「あたしを……旅に同伴させとくれ!あたしはフルシャネードントラッセ、魔女フルシャよ!」
フルシャは立ち上がり、杖をついて腰を叩く。フィアスは剣をしまい、お腹に腕を当ててお辞儀する剣士特有の挨拶をすると、手を差し出した。
「剣士の挨拶をしておいて何だが、我は回復魔法士フィアス。別名、天地水を操りし者だ。旅の同伴、快く受け入れよう」
「うむ!」
握手を交わした二人…その間には若葉の葉が風に靡いていた。
しかし、フィアスの剣先から出たのは白い煙だけだった。フルシャは杖を振り回し、足を地団駄させて怒鳴る。
「惜しい!そこで噛むから失敗するんじゃ!エービィサ・ルランドォーフ!一回振り付けなしで言ってみぃ!」
「え、エービィサ・ルランドォーフ!」
フィアスは休みなしでフルシャから回復技を伝授してもらっていた。さっきので失敗は十九回目。フィアスの蒼い髪から汗が垂れた。
「そうじゃ。さぁ、それをいいながら踊るのじゃ!ほれ、こんな踊り、簡単じゃろ?」
フルシャは右方向に手を叩き、左方向に手を叩き、最後に杖をまっすぐ前に突き出す。しかしその後、腰に痛みがきたようであいたたたと声をあげながら切り株に座った。フィアスがそれに顔をしかめる。
「無理をするな。エービィサ」
そこでフィアスは右方向に手を叩く。
「ルランドォーフ!」
そして左方向に手を叩き、剣を突き出す……今度は何も起こらなかった。これで二十回目の失敗だ。
「……お前さん、一つ言っていいかえ?」
「…何だ…?」
フィアスが肩で息をしながら老婆を見る。
「エービィで叩きサで叩き、そしてルランドォーフで突き出すと何回も言っておろうが…どうもお前さんは振り付けができると言葉があやふやに、また言葉ができると振り付けが違うというなんとも不可解なことが起きるようじゃな。その振り付けでは集中できんということか?」
「……当たり前だ。こんな振り付けにはなれてない」
「ふむぅ…お前さんのよく使っていたウェンド…」
「WIND APPEAR RAPIDLY(風のように速く)だ。それがどうしたのだ?」
はぁと溜息をつきながら訂正をするフィアスに、これだから横文字は嫌いなんじゃと呟くフルシャ。
「そのウィンド何とかみたいな要領で、一回やってみよ」
フルシャが腰を拳で叩くので、フィアスは剣を構えた。風が蒼い髪を靡かせる…剣が白く光った。狙うはフルシャがなぎ倒した木が二本。フィアスは目を瞑り……ゆっくりと目を開けた。
「MATCHLESS APPEAR HEALTH(無敵のような健康に)!」
フィアスは駆け出し、なぎ倒された木を二本とも、切るように素早く通り過ぎる……すると、不思議な粉が舞い、切り株から不自然に木が育って元通りになった。フィアスは自然の摂理に逆らった光景に驚き、フルシャは大口開けて手を叩く。
「お見事じゃ!」
(……最初からこれに気づいていれば……)
その一方で、フィアスは頭を抱えるばかりだった。フルシャは拍手している時、ふとしたことに気づき、表情を少しだけ難しくする。
「どうした?」
「……お前さん、その呪文のやり方はどこで?」
不思議なのだ。どうして他人から教わった方法でなく、今のようなやり方で成功したのか。また、何故あんな呪文のような技名をすぐに思いつくのか。それについて、フィアスはああと笑った。
「あれは、我独自で編み出したものなのだ。冒険を始める前…我がまだ十の時…最初に覚えたのが『あるふぁるべっど』でな」
昔を懐かしみながら頷くフィアスに、老婆は目を丸くした。
「なんと!十でニホンのさらに遠く、北の国が使うものを?」
「そうだ」
(……こやつ……)
フルシャはフィアスをただ呆然と見つめ、この言葉にたどり着いた。
(……もしや天才やもしれぬ…)
「……で、言いたいことはそれだけか?」
思い出に浸っていたフィアスが突然にやりとしてフルシャに向き直る。フルシャは視線に気づき、同じくにやりとした。
「では、剣士フィアス…いや、回復魔法士フィアス!」
フルシャの目がぎょろりと怖い程に見開かれ、フィアスは思わず背筋を伸ばした。
「あたしを……旅に同伴させとくれ!あたしはフルシャネードントラッセ、魔女フルシャよ!」
フルシャは立ち上がり、杖をついて腰を叩く。フィアスは剣をしまい、お腹に腕を当ててお辞儀する剣士特有の挨拶をすると、手を差し出した。
「剣士の挨拶をしておいて何だが、我は回復魔法士フィアス。別名、天地水を操りし者だ。旅の同伴、快く受け入れよう」
「うむ!」
握手を交わした二人…その間には若葉の葉が風に靡いていた。