長編
「回復…魔法士?」
聞いたことはあった。仲間を魔法で回復させるのが専門の職業…某ゲームで言わば白魔導士だ。フルシャはこくりと頷いた。
「そうさ、回復魔法士。見ると、お前さんにゃ眼力がある。病気や状態異常を見抜く眼力がね。しかし、その眼力は剣士にゃもったいない!だから回復魔法士にしようというわけさ!あたしについておいで、そうとなったらいますぐに変えるのがいい。安心しな、今までのステータスは変わったりしないよ」
フルシャはフィアスに口を開く余地すら与えず、歩き出す。しかし、フィアスは突然の事を受け止めきれずに止まったまま声をかけた。
「待ってくれ。我はまだ転職するとは決めて…」
「か~~っ!!」
その時だった。フィアスの頬を掠って大きな火の玉が通り過ぎた。フィアスは振り返り、火の玉が壁を焼くのを見つける。そして、とどめにフルシャはどなるのだった。
「年寄りのいうことが聞けないってのかい!」
その恐ろしい顔つきを見て、もう自分に否定の返事は許されないとフィアスは確信した。渋々歩き出し、フルシャについていく。暫く歩くと、転送装置のような機械がある薄暗い個室へと連れられた。フィアスがぐるりと部屋を見回して入ってきた自動ドアの方を向いた途端、フルシャに押されて転送装置の中へと押し込まれた。油断していたフィアスはその中で抵抗をするもむなしく、機械の横にあったレバーを下げられ、どこかに転送させられた。
「くそっ…油断した!」
フィアスは転送装置の中で悪態をついた。ガラス張りの開閉ドアを拳でドンと叩く。ふと見渡すと、ガラスの向こうは花畑になっていた。小指くらいの小さな妖精もいる。手を繋いでくるくると楽しそうに踊って歌う。フィアスが暫く妖精に見とれていると、ドアが開く。誰かが開閉スイッチを押してくれたようだ。フィアスは装置から出て、その者に礼を言う。
「助かった。我は…」
「よいよい、分かっておるよ。剣士フィアス」
自己紹介を止められ、名を知られていることに驚くフィアスを笑うのは、二つ結び、所謂ツインテールの幼女だった。年齢は…三歳か四歳にも及ばないだろう。
「フルシャネードントラッセから聞いとる。回復魔法士じゃな?恐らく強引に放り込まれたんじゃろうとは見て分かる。ぬしは転職をお望みか?」
「我は…転職を望まん。何故転職をしなければいけないのかも分からん。」
フィアスと幼女の話に興味を持ったのか、踊っていた妖精達が集まってくる。
「えぇ?ぬしは聞いたであろう。フルシャの言葉を、眼力があるという言葉を」
「聞いたが…眼力があるというのは?」
疑問を投げかけた時、一人の妖精がうめき声をあげたので、フィアスはその妖精の方を見て目を見張る。丁度いいと幼女は呟き、フィアスに尋ねた。
「では、あの妖精から何が見える?」
「…毒だ。そこの黄色い妖精、毒消しはあるか?」
しかしフィアスに幼女の言葉は届かず、毒で苦しんでいる緑色の妖精を救う態勢に入っていた。黄色い妖精は幼女を見、幼女は毒消しをフィアスに渡す。フィアスは手際よく、毒で暴れる妖精に、毒消しを飲ませた。ふう、と冷や汗を拭うフィアスに、幼女が声をかける。
「それじゃ。その『症状が見える目』。それをフルシャが眼力がいいと言ったのじゃ。普通は見えんものがお前さんにゃ見えるのじゃ」
幼女の言葉を聞くと、フィアスは酷く驚いたようだった。
「では、今まで我が見てきた幻覚や状態異状は…まさか我にしか見えぬと!?」
「そうじゃ」
ここ最近フィアスは、おかしいとは思っていた。白いモヤが見えたり、キノコを花と言われたり…しかし、皆の言動や反応がおかしいのではなく、自分がよく見えるだけだったのだ。フィアスは皆がおかしい訳ではないと知り、少し安心した表情になる。
「よかった…武士団の洗脳ではないのだな」
武士団…その言葉を聞くと、幼女は表情を強ばらせて目を丸くした。
「武士団とな!あの軍が我が国とどんな関係が…?」
武士団。それはここ端くれのクニを侵略しようと、五年後、日本から攻めてくる軍団である。一年前、国王の誕生日に侵略宣言の矢文が玉座へと届いた時以来、親しい者さえも王宮へ入らせてもらえない程、厳重な守りになってしまったらしい。フィアスはそう話すと、幼女はしばし考えた。
「むぅ…それで、武士団と戦うために剣士をやめる訳にはいかないということじゃな」
「そうだ。……だが、人が問題を抱えていることがすぐに分かり、助けるのが早くなるということなら、回復魔法士の方がいいかもしれない。フルシャは転職してもステータスは変わらないと言っていたし、攻撃力が失われないのなら奴等に抵抗ぐらいはできる」
「ほう…」
幼女はフィアスの賢さに舌を巻いた。また、理解のよさにもだ。
「では…天地水を操りし者、剣士フィアス!ぬしは回復魔法士への転職をお望みか?」
フィアスの答えは、もう決まっていた。
聞いたことはあった。仲間を魔法で回復させるのが専門の職業…某ゲームで言わば白魔導士だ。フルシャはこくりと頷いた。
「そうさ、回復魔法士。見ると、お前さんにゃ眼力がある。病気や状態異常を見抜く眼力がね。しかし、その眼力は剣士にゃもったいない!だから回復魔法士にしようというわけさ!あたしについておいで、そうとなったらいますぐに変えるのがいい。安心しな、今までのステータスは変わったりしないよ」
フルシャはフィアスに口を開く余地すら与えず、歩き出す。しかし、フィアスは突然の事を受け止めきれずに止まったまま声をかけた。
「待ってくれ。我はまだ転職するとは決めて…」
「か~~っ!!」
その時だった。フィアスの頬を掠って大きな火の玉が通り過ぎた。フィアスは振り返り、火の玉が壁を焼くのを見つける。そして、とどめにフルシャはどなるのだった。
「年寄りのいうことが聞けないってのかい!」
その恐ろしい顔つきを見て、もう自分に否定の返事は許されないとフィアスは確信した。渋々歩き出し、フルシャについていく。暫く歩くと、転送装置のような機械がある薄暗い個室へと連れられた。フィアスがぐるりと部屋を見回して入ってきた自動ドアの方を向いた途端、フルシャに押されて転送装置の中へと押し込まれた。油断していたフィアスはその中で抵抗をするもむなしく、機械の横にあったレバーを下げられ、どこかに転送させられた。
「くそっ…油断した!」
フィアスは転送装置の中で悪態をついた。ガラス張りの開閉ドアを拳でドンと叩く。ふと見渡すと、ガラスの向こうは花畑になっていた。小指くらいの小さな妖精もいる。手を繋いでくるくると楽しそうに踊って歌う。フィアスが暫く妖精に見とれていると、ドアが開く。誰かが開閉スイッチを押してくれたようだ。フィアスは装置から出て、その者に礼を言う。
「助かった。我は…」
「よいよい、分かっておるよ。剣士フィアス」
自己紹介を止められ、名を知られていることに驚くフィアスを笑うのは、二つ結び、所謂ツインテールの幼女だった。年齢は…三歳か四歳にも及ばないだろう。
「フルシャネードントラッセから聞いとる。回復魔法士じゃな?恐らく強引に放り込まれたんじゃろうとは見て分かる。ぬしは転職をお望みか?」
「我は…転職を望まん。何故転職をしなければいけないのかも分からん。」
フィアスと幼女の話に興味を持ったのか、踊っていた妖精達が集まってくる。
「えぇ?ぬしは聞いたであろう。フルシャの言葉を、眼力があるという言葉を」
「聞いたが…眼力があるというのは?」
疑問を投げかけた時、一人の妖精がうめき声をあげたので、フィアスはその妖精の方を見て目を見張る。丁度いいと幼女は呟き、フィアスに尋ねた。
「では、あの妖精から何が見える?」
「…毒だ。そこの黄色い妖精、毒消しはあるか?」
しかしフィアスに幼女の言葉は届かず、毒で苦しんでいる緑色の妖精を救う態勢に入っていた。黄色い妖精は幼女を見、幼女は毒消しをフィアスに渡す。フィアスは手際よく、毒で暴れる妖精に、毒消しを飲ませた。ふう、と冷や汗を拭うフィアスに、幼女が声をかける。
「それじゃ。その『症状が見える目』。それをフルシャが眼力がいいと言ったのじゃ。普通は見えんものがお前さんにゃ見えるのじゃ」
幼女の言葉を聞くと、フィアスは酷く驚いたようだった。
「では、今まで我が見てきた幻覚や状態異状は…まさか我にしか見えぬと!?」
「そうじゃ」
ここ最近フィアスは、おかしいとは思っていた。白いモヤが見えたり、キノコを花と言われたり…しかし、皆の言動や反応がおかしいのではなく、自分がよく見えるだけだったのだ。フィアスは皆がおかしい訳ではないと知り、少し安心した表情になる。
「よかった…武士団の洗脳ではないのだな」
武士団…その言葉を聞くと、幼女は表情を強ばらせて目を丸くした。
「武士団とな!あの軍が我が国とどんな関係が…?」
武士団。それはここ端くれのクニを侵略しようと、五年後、日本から攻めてくる軍団である。一年前、国王の誕生日に侵略宣言の矢文が玉座へと届いた時以来、親しい者さえも王宮へ入らせてもらえない程、厳重な守りになってしまったらしい。フィアスはそう話すと、幼女はしばし考えた。
「むぅ…それで、武士団と戦うために剣士をやめる訳にはいかないということじゃな」
「そうだ。……だが、人が問題を抱えていることがすぐに分かり、助けるのが早くなるということなら、回復魔法士の方がいいかもしれない。フルシャは転職してもステータスは変わらないと言っていたし、攻撃力が失われないのなら奴等に抵抗ぐらいはできる」
「ほう…」
幼女はフィアスの賢さに舌を巻いた。また、理解のよさにもだ。
「では…天地水を操りし者、剣士フィアス!ぬしは回復魔法士への転職をお望みか?」
フィアスの答えは、もう決まっていた。