長編
フィアスは走った。休みなく走った。風の力をも借りて、仲間の呼び出しに駆けつけた。フィアスが所属するギルド、『RESISTANCE』の建物が見えてくると、フィアスは走るのを止め、鞘から剣を抜く。
「こ、これは…!」
フィアスはギルドの入り口で足を止めた。仲間が山のように積まれている。その姿は皆酷い有様だった。耳に意識を集中させると、まだ気を失っていない者がいる。フィアスはまず、仲間の山を崩し、一人一人床に寝かせた。そして、かろうじて起きている仲間に声をかける。
「大丈夫か?しっかりしろ!何があったというのだ!」
「う…う……はや…く、いけ…さん…が……」
そこまで言った時、フィアスはすでに走り出していた。次に自分が何をするべきなのかは分かっていた。フィアスは階段に走りながら、剣に風を纏わせる。
「WIND APPEAR RAPIDLY(風のように速く)!」
フィアスは文字通り風のように速く走った。三階までの階段が遠く感じられる…風の力を持ってしても、階段は長い。やっとたどり着いた時、フィアスは恐怖を覚えた。今、自分の目の前にいるのは、三ツ星ランクの魔物が一体。フィアスはそれをみた途端、足がすくんでしまう。三階にいたギルドのリーダーが叫んだ。
「フィアス…っ!逃げろ、戦うな!」
フィアスは我に返り、攻撃をかわそうとした。が、しかし、行動に移るのが遅く、大きな堅い尻尾にはたかれ、気を失った。
「…くっ…」
フィアスは薬の匂いで目を覚ました。ここは一階の医療施設だ。フィアスの他にも布団などで寝ている仲間がいる。不思議とどこも痛みを感じなかった。ふと思いだし、懐から、真ん中に蒼き紋章が彫ってあるエメラルドの六角形を取り出した。時々バリア能力を働くこのMA(マジックアイテムを略したもの、マア(又はマー)と読む)はフィアスの父が作った、本人曰く失敗作らしい。しかし、フィアスはそんな失敗作に感謝した。
「幸い、これのおかげで痛みはなかったというわけだな…今回は運がいい」
「気がついたかい?」
医療施設を管理している老婆がフィアスに声をかけた。彼女の名はフルシャネードントラッセ。当然長いので皆はフルシャと呼んでいる。
「たいしたもんだねお前さん。あれだけの魔物に傷ひとつないなんて…おや、それはMA。それのおかげで無傷ってわけかい?運がいいもんだね」
フルシャは一人で喋り、納得して他の人の治療にうつった。フィアスは隣に横たわっている人を見て、目を見張った。白いモヤが見える。フィアスは勢いよく起き上がり、隣の人を軽く数回殴る。その行動を見たフルシャは怒鳴りつけた。
「何やってんだこのたわけ!無傷だけど頭がおかしくなってたのかい!」
「…間違いない。フルシャ、この人はスリップ状態だ!我も治療を手伝うからまずはこの人の手当をさせてくれ!」
フィアスはフルシャの返事を待たずに、冷蔵庫へすっ飛んでいった。残されたフルシャはじっとその寝ている人を見つめる。しかし、何も見えない。何も分からない。フルシャはやれやれとため息をつくと…服を脱いだ。しかし、現れたのは老婆の裸ではなく、紫のローブだった。フルシャは腰をいくらか右手拳で叩くと、両手をあげる。
「はぁぁぁぁぁ…!」
フルシャの気合いを入れるような声に共鳴するかの如く、ローブがぶわっと舞う。フルシャの足下に不思議な…いや、そう言うよりは怪しげなマークが描かれた。フルシャはしわくちゃな手のひらをあわせてぶつぶつと何かを呟く。瞬間、老婆の目に患者を取り巻く白いモヤが映った。その光景にフルシャは目を見張る。
「おぉ、おお…なんということ……あの坊や!」
フルシャは驚いていた。フィアスの力に、眼力に。
「今助けるぞ!」
フィアスは丁度フルシャが服を着終わった時に患者の側へ駆けつけた。フルシャはフィアスを眺め、顔をしかめる。
「お前さん、名は?」
「我はフィアス。別名、『天地水を操りし者』だ。何故急に名を聞く?」
「いや、ちょいと気になってねぇ。それより治してやんな」
フィアスはその言葉に頷くと冷蔵庫から持ってきたのだろうか、患者の口の中にヨーグルトを運ぶ。すると、老婆にも見えた。患者からスリップの魔法が抜けていく。フルシャは驚き、思わず感嘆の息をもらした。寝ている相手にも関わらず、てきぱきと仕事をこなす様は、剣士にはもったいない。フルシャは躊躇わず、話を持ちかけた。
「フィアス、職業は?」
「職業?剣士だが」
フィアスが疑問を持ちながら答える。するとフルシャの目が見開かれた。フィアスはその様子で真剣に耳を傾ける。この老婆の目が怖いほどギョロリと見開かれるのは、いつも何か重大なことを言う直前だからだった。
「今のお前さんにゃ、剣士は向いてない」
予想だにしなかった答え。しかしフィアスは数秒で脳内を整理した。
「…何故だ?」
「ほう!今のあたしの言葉を聞いてどういう事じゃなく、何故と聞くんだねぇ。教えてやるさ」
フィアスはつばをのんで、老婆の衝撃的な発言を聞き、受け入れる態勢に入った。
「お前さんに剣士は向いてない。だとしたら何にむいてるかって?」
老婆はもったいぶる調子で言葉を一旦きった。フィアスは先が聞きたくてうずうずしていると、老婆の目がフィアスをとらえた。
「…回復魔法士じゃ!」
「こ、これは…!」
フィアスはギルドの入り口で足を止めた。仲間が山のように積まれている。その姿は皆酷い有様だった。耳に意識を集中させると、まだ気を失っていない者がいる。フィアスはまず、仲間の山を崩し、一人一人床に寝かせた。そして、かろうじて起きている仲間に声をかける。
「大丈夫か?しっかりしろ!何があったというのだ!」
「う…う……はや…く、いけ…さん…が……」
そこまで言った時、フィアスはすでに走り出していた。次に自分が何をするべきなのかは分かっていた。フィアスは階段に走りながら、剣に風を纏わせる。
「WIND APPEAR RAPIDLY(風のように速く)!」
フィアスは文字通り風のように速く走った。三階までの階段が遠く感じられる…風の力を持ってしても、階段は長い。やっとたどり着いた時、フィアスは恐怖を覚えた。今、自分の目の前にいるのは、三ツ星ランクの魔物が一体。フィアスはそれをみた途端、足がすくんでしまう。三階にいたギルドのリーダーが叫んだ。
「フィアス…っ!逃げろ、戦うな!」
フィアスは我に返り、攻撃をかわそうとした。が、しかし、行動に移るのが遅く、大きな堅い尻尾にはたかれ、気を失った。
「…くっ…」
フィアスは薬の匂いで目を覚ました。ここは一階の医療施設だ。フィアスの他にも布団などで寝ている仲間がいる。不思議とどこも痛みを感じなかった。ふと思いだし、懐から、真ん中に蒼き紋章が彫ってあるエメラルドの六角形を取り出した。時々バリア能力を働くこのMA(マジックアイテムを略したもの、マア(又はマー)と読む)はフィアスの父が作った、本人曰く失敗作らしい。しかし、フィアスはそんな失敗作に感謝した。
「幸い、これのおかげで痛みはなかったというわけだな…今回は運がいい」
「気がついたかい?」
医療施設を管理している老婆がフィアスに声をかけた。彼女の名はフルシャネードントラッセ。当然長いので皆はフルシャと呼んでいる。
「たいしたもんだねお前さん。あれだけの魔物に傷ひとつないなんて…おや、それはMA。それのおかげで無傷ってわけかい?運がいいもんだね」
フルシャは一人で喋り、納得して他の人の治療にうつった。フィアスは隣に横たわっている人を見て、目を見張った。白いモヤが見える。フィアスは勢いよく起き上がり、隣の人を軽く数回殴る。その行動を見たフルシャは怒鳴りつけた。
「何やってんだこのたわけ!無傷だけど頭がおかしくなってたのかい!」
「…間違いない。フルシャ、この人はスリップ状態だ!我も治療を手伝うからまずはこの人の手当をさせてくれ!」
フィアスはフルシャの返事を待たずに、冷蔵庫へすっ飛んでいった。残されたフルシャはじっとその寝ている人を見つめる。しかし、何も見えない。何も分からない。フルシャはやれやれとため息をつくと…服を脱いだ。しかし、現れたのは老婆の裸ではなく、紫のローブだった。フルシャは腰をいくらか右手拳で叩くと、両手をあげる。
「はぁぁぁぁぁ…!」
フルシャの気合いを入れるような声に共鳴するかの如く、ローブがぶわっと舞う。フルシャの足下に不思議な…いや、そう言うよりは怪しげなマークが描かれた。フルシャはしわくちゃな手のひらをあわせてぶつぶつと何かを呟く。瞬間、老婆の目に患者を取り巻く白いモヤが映った。その光景にフルシャは目を見張る。
「おぉ、おお…なんということ……あの坊や!」
フルシャは驚いていた。フィアスの力に、眼力に。
「今助けるぞ!」
フィアスは丁度フルシャが服を着終わった時に患者の側へ駆けつけた。フルシャはフィアスを眺め、顔をしかめる。
「お前さん、名は?」
「我はフィアス。別名、『天地水を操りし者』だ。何故急に名を聞く?」
「いや、ちょいと気になってねぇ。それより治してやんな」
フィアスはその言葉に頷くと冷蔵庫から持ってきたのだろうか、患者の口の中にヨーグルトを運ぶ。すると、老婆にも見えた。患者からスリップの魔法が抜けていく。フルシャは驚き、思わず感嘆の息をもらした。寝ている相手にも関わらず、てきぱきと仕事をこなす様は、剣士にはもったいない。フルシャは躊躇わず、話を持ちかけた。
「フィアス、職業は?」
「職業?剣士だが」
フィアスが疑問を持ちながら答える。するとフルシャの目が見開かれた。フィアスはその様子で真剣に耳を傾ける。この老婆の目が怖いほどギョロリと見開かれるのは、いつも何か重大なことを言う直前だからだった。
「今のお前さんにゃ、剣士は向いてない」
予想だにしなかった答え。しかしフィアスは数秒で脳内を整理した。
「…何故だ?」
「ほう!今のあたしの言葉を聞いてどういう事じゃなく、何故と聞くんだねぇ。教えてやるさ」
フィアスはつばをのんで、老婆の衝撃的な発言を聞き、受け入れる態勢に入った。
「お前さんに剣士は向いてない。だとしたら何にむいてるかって?」
老婆はもったいぶる調子で言葉を一旦きった。フィアスは先が聞きたくてうずうずしていると、老婆の目がフィアスをとらえた。
「…回復魔法士じゃ!」