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長編

「こちらです」


「沢山なっている…この樹木も長生きしているようだし、これなら妹さんを救えるな」


フィアスは迷わずにまっすぐと1本の樹木に触れ、見上げる。女性はまあと驚嘆の声をあげ、微笑んだ。


「よく分かりましたね。その樹木はここで1番の長生きなのです」


「やはりそうか。りんごが美味しそうな色をしていたからすぐに分かった。さて、樹木よ…リンゴを1つ分けてくれ。助けたい人がいるのだ」


フィアスはまるで樹木と話すかのように言うと、懐からおりたたみ式ナイフをとりだし、刃をだして軽く投げる。ぷちっと1個のリンゴが取れ、フィアスの手のひらへ綺麗に落ちた。投げたナイフはリンゴを切った後、まるでブーメランのように戻り、フィアスの足元へと刺さる。


「きゃっ…!」


女性は一歩間違えていたら…と思い、口に両手を当てて震えながらそれを見た。その様子に気付いたフィアスは慌てて説明する。


「案ずるな。これには細工がしてあってな…ほら、これを見ろ」


「は、はい…?」


フィアスはナイフをおりたたみ、女性に手渡す。ナイフカバーには蒼き紋章があった。


「……もしかしてこれは…」


「ああ、我が名はフィアス。フィアス=ファクトリー……父が営業していたマジックアイテム店の息子だ」


「略してMA…ファクトリーのなら私も持っています!」


女性はにこりと笑い、ポケットからお守りを取り出して見せた。そこにも、蒼き紋章はある。


「これ、本当に役立っているのです。おかげで魔物に遭遇する確率が少なくなりました」


「それはよかった」


フィアスがナイフをしまうと、女性もお守りを大事そうにしまう。フィアスはリンゴを見て、こう言った。


「さて、妹さんの救出だ!」


「はい!」


フィアスと女性はリンゴを手に入れて、カナの部屋へと走っていった。


「カナ!体はどうですか?」


「あ、お姉さま!この通り、順調に治っております」


女性はほっとした顔でカナを抱き締める。リンゴのスープを持ったフィアスは、女性がカナから離れるとカナに一礼をして近付いた。


「そちらの方は?」


「フィアスさんですよ。あの森で魔物に襲われた時、助けてくれたのです」


女性は微笑み、フィアスを紹介する。フィアスはスープをカナに差し出すと、挨拶した。


「我はフィアス。別名、『天地水を操りし者』だ……貴女の病気のことは聞いた。完治するのを祈り、これを作ったのだ。食べてはくれないだろうか?」


「これは…?リんごが入っているようですけど……」


「リンごのスープです。私も一口いただきましたが、とても美味しいのですよ」


「(どうしてもリンゴの発音はなまってしまうのか…?)味は薄めに作ってある。濃くするとこの料理の意味がなくなってしまうのだ」


「……んっ」


フィアスと女性の勧めで、カナはリンゴのスープを一口、スプーンで口の中へと運ぶ。途端にカナが驚いた顔をした。


「り、リんゴでこんなに美味しいものが作れるのですか!?毎日食べたいです!ありがとうございます。フィアスさん」


カナは満面の笑顔でフィアスにお礼を言う。フィアスも、カナに微笑を浮かべた。毎日食べたいという妹の発言に、女性もにこりと笑う。


「そうですね…私も作る方法を教わったので、これからは毎日食べましょう。勿論、ここに残って毎日カナと会います」


そう言うと、カナはまた驚いたようだった。


「お姉さま?仕事はどうするのですか?」


「休暇をとります。なにせカナの病気のラストスパートですから!」


「お姉さま…!」


大好きな姉がここにいてくれる。それだけでカナは嬉しくなった。


「…………!」


フィアスは悲鳴を聞いた。人の声ではない……それは奇声に近かった。カナを見ると、紫色のガスが抜けていくのが見える──恐らくあれはカナを殺そうとしていた茸の毒粉だろう。フィアスはそう確信した。これで、カナは毒の胞子から解放されたのだ。


「……さて、フィアスさん。これからどうするのですか?」


「ん?そうだな…少しジェラスガイをかんこ…!?」


突然、フィアスの脳裏を電流が走った。フィアスは固まり、2人は疑問に感じる。


ケテ……


「……今のは!」


フィアスは意識を集中させ、その声を聞こうとする。


タスケテクレ…!


「どうした!?」


オッキナマモノガ…!


「……………」


「フィアスさん!?」


頭の中の声を聞き終わらずとも、仲間が大変な目にあってるのは丸分かりだった。フィアスは無言で走りだし、ジェラスガイを出る───女性は家の外で、フィアスを見失ってしまった。


「……どうしたというのでしょうか…」


女性はフィアスを心配して、お守りを取り出した。そして両手に握って祈る─────


「どうか…ご無事で」


「……くっ…!」


一体何があったというのだ…皆は生きているのか!?


「皆、無事でいてくれ…!!WIND APPEAR RAPIDLY(風のように速く)!」


フィアスは剣を握り、鞘から抜かないまま走るスピードをあげた。
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