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長編

「ジェラスガイ…噂には聞いていたが、実際来るとド田舎だな」


フィアスはジェラスガイを見渡し、一言こう言った。隣りの女性がうふふと微笑ましい顔をする。


「ジェラスガイに来たのは初めてですか?」


「ああ、前に訪れた町の者からジェラスガイの話を聞いて、ふらっと寄り道してゆこうと思ったが……」


フィアスはそこで言葉をきり、肩を竦めてみせた。


「長い寄り道になりそうだ」


「ゆっくりしていって下さいな」


フィアスの言葉をきくと、女性はまたうふふとおかしそうに笑う。


「しかしそういうわけにもいかん。ジェラスガイ観光の前に、まずは妹さんの件だ」


「…そうですね」


女性の笑顔が消え失せてしまうと、フィアスはしまったという顔をした。


「お姉さま…まだ来てくれないのかしら…」


カナはベッドの横にある窓から外を見た。小鳥が互いに鳴きあい、飛んでいく。


「…なんだか今日はよく眠れそうな気がする」


カナはゆっくりと目を瞑って眠りにおちた。数分後…ドンドンとドアが乱暴に叩かれ、扉が開く。


「カナ!医者様を連れてお見舞いにきましたよ!」


「…寝ているようだが……診せてみろ」


フィアスは女性の妹…カナを見る。肌が白く、病弱な雰囲気を漂わせていた。フィアスはカナに近付くと前髪をかきあげ、おでこに手を触れた。


「…どうですか?」


「……これなら十分助かるな。だが、足をやられると……おわりだ」


フィアスは淡々と寝ているカナの状態を調べると、心配する女性を置いて台所に行く。女性はちらりとカナを見ると、フィアスを追って台所へと走った。台所では、フィアスがまるで自分の家にいるかのようにふるまい、冷蔵庫をあさっていた。

「な、何…してるの…ですか……」


女性はフィアスの態度に驚愕し、思わず口をあんぐりと開けて尋ねる。フィアスは冷蔵庫から目を放し、女性の質問に答えるべく振り向いた。


「ニホンという国を知っているか?」


「日本…のことですか?」


「ああ、あのキノコ魔物の毒にはニホンという国から輸入した、『りんご』が効果的なのだ」


「り、『りンご』がですか!?あのただ赤い果物が妹を救えると!」


「ああ…安いし、今はこの端くれのクニでもリンゴが取れるだろう?」


端くれのクニ──そう、ここは端くれのクニ。今は魔物が住みつき危なくなっているが、魔物を倒すために武術や魔法を覚え、魔物を退治する人々も増えてきた。フィアスはその一人でもある。


「ええ、リんゴなら…ジェラスガイの畑にある樹木から…今、取れます」


「『りんご』だ。少し言い方がなまっているが、まあ良いだろう……今?タイミングがいいな。取ってもいいのかは不安だが…」


「取ってもいいですよ。一個や二個だけなら……」


「…案内、してくれないか?」


「無論、そのつもりです」


女性はにこりと笑って冷蔵庫を閉め、フィアスを畑へと案内した。
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