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長編

「できたよ」


「……喋るのか」


小人の合図を聞き、フィアスは感心した。フルシャは得体の知れない声を聞いて、驚いたようだ。

「だ、誰じゃ?」


「ヒヒッ、MAの小人の声だヨン。お婆さんは本当にMAに弱いヨ」


「じゃ~かしぃ!」


フルシャが杖を振り回してライフを叩こうとする。小人が壊される危険性があるため、フィアスはMAを素早く鞄にしまった。フルシャとライフのやりとりはもう慣れて、フィアスは修復されたMAを見る。形状から、ワープ装置だということが分かる。どう使うかは分からないが、思考が似る親子だ。想像は大体当たるのが幸いか。


(ワープに対しては考えが甘そうだ。恐らく地面に設置して二つで使うタイプなのだろう。だが、色んな使い方ができるのがMA。恐らく我の推測は合っている)


MAの上部分を見てみれば、二機と書かれてある。確信を持ったフィアスは、また腰を痛めたフルシャの側に寄った。


「何度も言うようだが、無茶をするな」


「そもそもこやつがちょっかいを出さなければあたしゃこんな思いをしないんだよ!」


「ヒヒッ、お婆さんなんだからあんまし無茶しちゃだめヨン!」


「じゃーかしぃ!」


フルシャが杖を置き、呪文のようなものを呟くと、紫のローブが異様な風で上に靡く。フィアスは一歩離れ、ライフとラッチは危険を感じて逃げ腰になった。


「そぉいや!」


「ヒッ!」


玩具のハンマーで力なく叩かれるライフ。二人が呆気にとられていると、手を叩いて老婆は笑う。

「ピエロなんかにあたしの魔法を使うなぞ勿体ないことじゃ!」


「…ヒヒッ、やられたヨ!」


「コン!」


ライフがスキップで戻ってきて二人で笑いあう。微笑ましい光景に、口元が緩んだ。場の空気を読み、フィアスは話しかける。


「これはワープ装置だと思うのだが」


「ワープ装置?何故じゃ」


「我の父のことを考えれば大体分かる。二機と書いてあるし、恐らくもう一つどこかにあるのだろう」


「ふむ…どうじゃ?行ってみるというのは」


「はっ…?」


老婆の素っ頓狂な提案にフィアスが眉を顰める。どこに繋がっているか分からないのが不安だ。だがライフは楽しそうに跳ねる。


「ヒヒッ!それギャンブルみたいで面白そうヨン!オイラは賛成!」


「さあ、後はお主だけじゃ。ん?フィアス」


老婆とピエロが回復魔法士へと迫る。フィアスは慌てて意見を述べた。


「どこへ繋がっているのか分からないのに、危険だ!」


「旅に危険は付き物ヨン」


「そうじゃ。行くじゃろ?行くじゃろ?」


「…フルシャ、貴女が危険を顧みずにいるのが我は心配だ。止め役がいなくなるのであまりはしゃがないでくれ」


「なんじゃ、つまらない男よのぅ…」


深い溜息をついて、フルシャは切り株から立ち上がる。舌打ちを使い、ライフを呼んだ。ライフに耳打ちする様子を見て、嫌な予感を覚える。耳打ちが終わると、ライフはフィアスへ迫った…と思いきや、早技でフィアスの手からMAを奪う。


「ヒヒッ、もーらいっ!」


「な、何をするつもりだ!?」


「起動ヨン」


「コン!」


ライフはMAをフィアスから離れた地面に置き、ラッチがスイッチを押して起動させる。何をするのかを悟り、フィアスが急いで駆け寄るも、ライフはMAに乗って、手を振り消えた。起動中のMAを睨み、溜息をついたフィアスへ更に追い打ちをかけるフルシャ。杖で肩を軽く叩く。


「斬った木をなおしてから来るんだよ、いいね?」


「…分かった」


「カッカッカ!そうこなくっちゃねぇ!あたしゃ先に行くよ!」


フルシャはとてもご機嫌でMAに乗って消えた。謀られた。フィアスは仕方なしに、剣を白く光らせる。


「MATCHLESS APPEAR HEALTH(無敵のような健康に)!」


切り株を斬るように通り過ぎると、倒れた木が動いて元に戻る。切り口も塞がって、異変がないか木を触って確かめる。木の模様にもずれはない。剣を鞘に収め、フィアスもMAに足を乗せた。段差は少ないから、フルシャも乗るのが楽だっただろう。ワープすれば、目の前はドア。小屋の中だった。中ではフルシャがイスに座って、紅茶を飲んでいる。


「ここはどこだ?」


「さぁね、あたしゃ知らないよ。だがこやつは知ってるようだねぇ」


「ヒヒッ、知ってるどこの問題じゃないヨ?ここは目的の途中にある雪山の頂上ヨン」


「なんだって!?」


ライフが指さす場所を見る。壁に字が彫ってあった。うっすらだが、読める。


「ソミュール山へようこそ…?ワープで来た者が他にいるのか」


「おや、流石だね。早速そこに気づくなんて。お前さんの読み通りさ。最も、装置を置いた奴の親切かもしれんがね」


「理由はともかく、ここを降りたら目的地のソミュールはすぐヨ!」


「本当か!」


「けどこんな吹雪いてちゃあね、あたしの体に堪えるんだよ。年寄りを労って欲しいのさ」


「…あぁ…」


丸い窓から外を見る。確かに猛吹雪で、老婆の体よりか自分の身でも降りるのは難しそうだ。周りが見えず、足を踏み外す危険もある。


「一泊して様子を見よう」


「ヒヒッ、もうそれは分かってるヨン!」


小屋の中を探ると、何日か分の食料が置いてあった。やはり管理者でもいるのだろうか。フルシャはもう腰にくるということなので、ライフと共に料理を始める。二人とも旅人だったので、自炊はある程度できないと苦しい。だから簡単なものは作れるくらいの腕が二人にはあった。
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